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禁域脱出4

 武国軍の南進は、文明界では大事になる。


 情報統制が完璧な武国が、自国の内乱鎮圧の為に軍を動かしたと、他国に漏らす事はまず無い。

 情報戦では最強の狩猟国だから、掴めた情報なのであって、並みの国では得られない情報だ。


 それでも、欲国の深部で覗いた情報から察するに、武国の動きを察知する国もある。


 武国が動けば国の形が変わるのは必至だ。内乱の鎮圧を理由に、反乱分子を欲国に逃し、欲国南部に攻め入る可能性は大いにある。


 狩猟王の話では、武王には予知能力がある。私の存在や外界での出来事を予知出来ないという弱点があるものの、文明界では無敵に違いない。

 どうなるか知っているのだから、負けようが無いのだ。


 武国の動向によって、周辺国は大きく動かざるを得ない。


 このタイミングで私達を法国に行かせようとする狩猟王の意図も、よくわからない。

 武国軍の南進は、狩猟国にとって、文明界との接続を断たれる事を意味する。

 普通に考えれば、狩猟国は武国南進を阻止したいはずだ。そうなれば、私の投入先は、旧狩猟元帥領だろう。


 武国の動きより、法国介入を優先しているという事は、よほどの事が起きるのかもしれない。


「それで、出発はいつにするの?」


「すぐに出ますー。準備はいいですかー」


 飛行艇には、必要そうな物質を積んでおいた。もの自体は、この狩人の拠点にあったものを購入した。

 無償でと言われたが、変な借りを作りたくなかったので、支払いはした。

 大闘技会の賭けで儲けた金貨は、赤錆組に返したので、私の財布の中身は、一般的な冒険者と同じだ。

 色々、通常では無い私としては、せめて金銭感覚は大事にしたい。


「じゃあ、みんな乗った乗ったー。ユズカ航空の飛行艇はまもなく発進しますよ」


「ちょ、ちょっと待て、俺はまだ心の準備が…」


「いいから、いいから、後で聞くから」


 まだ躊躇しているミトラを押し込み、その後、リュー君とブラドが乗り込む。

 アカネちゃんは、自前の翼獣で行くようだ。通常の翼獣より、装着している鞍がゴツい。


 湯煙の少ない岩の煙突上部より、翼獣が飛び立つ。

 私は、飛行艇の排気ノズルに息を吹き込み、垂直に機体を上昇させた。


 翼獣は、どんどんと高度を上げながら、北西に向かって進む。

 通常、飛行艇や、翼獣は5000m付近の高度を飛ぶ。しかし、アカネちゃんの乗る翼獣は、10000mを超えても、まだ上昇している。


「おい! 高度が高すぎるぞ! 行先は星じゃないだろ! 法国だろ! 下げろ!」


 ミトラがまた騒ぎだしてしまった。

 飛行艇は、暇な時間を見つけては、ユズカカーボンによる補強を重ねており、機密性はかなり向上している。

 機内の気圧、温度は、地上と同じに維持してあるので、快適さはかなり高いはずだ。

 ミトラには知識があり、今の高度が異常であると分かるが故に、恐怖している。


「まあまあ、落ち着いて。案内についていってるだけだから。どうしてなのか聞いてみるよ」


「お前! ちゃんと操縦しろ!前を見ろ!」


 ミトラは、私に話しかけると、私の操縦が疎かになると感じたようで、睨むだけになった。

 実際は、機体の改修で、揚力を生むための翼をつけたので、私が息を吹き込まなくても、ある程度高度の維持は可能になっているのだ。


 前を飛ぶアカネちゃんに、木霊笛で連絡を取る。飛行時の連絡は、木霊笛で行うと、事前に取り決めていた。


「アカネちゃん、高度が高めだけど、何か理由でもあるの?」


「凍土地帯は、危険地帯なんですー。特に空の上は、鳥獣圏といって、危険な飛行生物の巣になっていますー。ここを越えるには、より高い高度を飛行する必要がありますー」


 確かに、真下にある雲の切れ間には、無数に蠢く小さな点が見える。地上が見えない程の数の飛行生物が群れを成して飛んでいるのだ。


 ミトラに、ハンドサインで下を見るように促した。

 暫く、覗き窓から下を見ていたミトラは、席に戻り、リクライニングを倒して、自分に催眠術をかけて、眠りについた。

 自身の手ではどうしようも無いと判断して、状況に身を委ねたようだ。



 ――


 日が傾いて、完全に暗くなる前に、中継地点に到着した。

 そこは、凍土地帯にあるにも関わらず、飛行生物が飛んでおらず、静かな泥沼が広がっていた。

 凍土地帯は今の時期、氷が溶けており、大地は湿地のようになっていた。


 泥沼の中に、島のように佇む巨岩があり、そこが狩人の中継地点だった。


 巨岩には、術で反応する隠し扉があり、翼獣や飛行艇を格納するスペースもあった。


「ねぇ、アカネちゃん。この辺りに飛行生物がいないのは何故?」


「天敵がいるんですよー。蛇のようにながーい体をした虫が地面の中にいてー、そいつが飛んでいるモノならなんでも食べてしまうんですー。狩人は、それが食事をする習慣を知っているのでー、安全にここに来る事が出来るんですー」


 相変わらず、真面目な話が似合わないコだ。

 確かに、丸太のように太いミミズのような生物が、地面の中で、じっとしている。


 私とアカネちゃんの会話を無視するように、フラフラとミトラが、拠点の中に消えていった。

 よほど、今回のフライトがきつかったのだろう。


 巨岩内部の拠点は、温泉拠点と構造が似ており、木の板の床が続いていた。

 常時人が居る場所ではないので、生活の気配は無いが、定期的に人が来るのか、内部は綺麗に掃除されていた。


 燃料の類が一切無く、火気厳禁なのだそうだ。灯りも、術具の発光体を使用していた。

 熱を発生させる物が使用出来ない理由は、周りにいるミミズの生態のせいだ。

 ミミズは、温度と時間が一定の条件になると、捕食を開始する。下手に温度を変えてしまうと、ミミズに狙われる可能性があるのだそうだ。


「明日の日の出前に出発しますー。食事を摂ったらお休みくださいー」


 ここは、単純に中継だけの場所のようだ。

 アカネちゃんは、いつもの調子に見えるが、あの高度を長時間飛行するのは、かなりハードだ。

 丸一日飛行すれば、法国には到着するが、搭乗者の体力が保たない。なので、ここに中継地点がある訳だ。


 ―――


 まだ暗い中を、翼獣と飛行艇が飛び立つ。

 ミトラは、諦めたのか慣れたのか、さっさと睡眠モードに移行してしまった。


 ――


 短調だった泥沼ばかりの景色に変化が出た。

 視界の先に、山脈を思わせる壁のような物が見える。

 その壁は、南北に走っており、上部には巨大な雲がかかっていた。


 それが目的地である樹壁である事は、誰に説明されなくても分かった。

 接近するにつれて、樹壁が私の認識範囲無いに入る。

 樹壁は、群生した木なのか、一本の巨大な木なのかは不明だが、隙間無く垂直に幹が伸びた、紛れも無い木の壁なのだ。

 木の種類は、私が閉じ込められていた、あの場所の奇岩から生えていた木と同じだ。

 内部構造や剛性は違うが、匂いや葉の形は同じなので、間違い無い。


 樹壁と言われているが、向こう側が存在していない。どこまでいっても木しかないのだ。

 内部に空洞がある訳でもないし、雲の中に何かある訳でもない。

 とにかく馬鹿でかい木がある事は分かった。


 樹壁の周辺は、森林が広がり、大きな河も流れている。

 危険地帯でもないようで、生物群も安定している。


 樹壁に張り付くように、幾つかの町があり、人も結構居る。

 世界樹の神殿の総本山であり、世界中から巡礼者が集まるので、宗教都市となっているようだ。


 翼獣は、樹壁まで行かず、途中の森林に降りるようだ。

 森林に狩人の拠点が隠してあり、森城と同じ構造をしている。


 拠点内の開けた場所に着陸すると、アカネちゃんは慌ただしく、狩人を集めて、指示を出していた。


「竜越者。急いで見てもらいたいモノがありますー」


 いつもフワッとしているアカネちゃんに、ピリピリとした気配を感じる。


「何を見ればいいのかな?」


「まもなく樹人が現れますー。それを是非見て頂きたいのですー」


 アカネちゃんの言葉が終わるより早く、樹壁に変化があった。

 この感じは、転移術が展開するときに起きる空気の流れだ。


 巨大な黒い穴が樹壁に開き、中から何かが出てこようとしている。



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