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禁域脱出1

「誤解の無いように言っておきますが、武国軍が攻めて来るのは、旧狩猟元帥領であって、狩猟国ではありませんよ」


 狩猟王が何と誤解すると認識しているのか、よく分からない。

 旧狩猟元帥領に武国軍が陣取れば、次は狩猟国が攻められだけなのでは、と考えるのが普通だろう。


「最終的には狩猟国も攻められて、戦力差で負けてしまうんじゃないの?」


「武王が外界に兵を向ける事はありませんよ。武王は外界を国とも領土とも見ていません。無論、外界からの侵入が無いように、防衛線は構築するでしょうが、狩猟国への攻撃はしません」


 映像の狩猟王からは、感情をあまり読み取る事は出来ないが、それでも、確信をもっての発言に聞こえた。

 そもそも、独力でどうする事も出来ない事態なのであれば、狩猟王は積極的に私を利用しにくるだろう。

 つまり、武国が狩猟元帥を攻める可能性は低いのだ、


「じゃあ、今のところ影響があるのは、狩猟国への経路が断たれる事ぐらい?」


 欲国から狩猟国に入るには、どうしても武国を通る必要がある。

 これまでは、旧狩猟元帥領が放置されていたので、危険地帯の荒野と、白竜山脈を越える手段さえあれば、通行に支障は無かった。

 しかし、武国軍が駐留してしまうと、狩猟国は完全に孤立してしまう。

 外界資源を利用する技術力があったとしても、完全に国交が絶たれた状態で、狩猟国は存続出来るのか、それは私にはわからない。


「武国が僕達の通り道を阻むようになるには、時間がかかるでしょう。それに、武国軍の今回の目的は、反乱分子の鎮圧です。城を建てて兵で満たすのは、まだ先になるでしょう」


「反乱した人達は、狩猟国に行ったのでは? 残った人達は、元々の武国民な訳だから、そこに争いは起きないと思うけど」


「旧狩猟元帥領は、元々、盗賊と流民の巣窟でした。それを力で捻じ伏せたのが、僕達、狩人です。狩人に敵対する者が現れないようにしてきた訳ですが、ここに来て、その狩人が居なくなったのです。彼等は狩人には屈しましたが、武国には屈していない。武国の方が遥かに強大である事を知らない彼等は、独立を掲げているのですよ」


 事情はだいたい分かった。狩猟国は、旧領地に触れない方向で、武国の進軍をやり過ごすつもりなのだ。

 ただ、この事実を私達に急いで伝えた意図が分からない。


「それで、この近況報告は終わり?」


「そういえば、小さな情報が一つありました。剣奴連国でお知り合いになった方が、欲国から武国に入ろうとしているそうですよ。今の時期は何かと物騒ですから、そちらから止めて頂けると助かります」


 なるほど、ディアナの事だ。


 狩猟王の事なので、私から聞くまでも無く、剣奴連国での顛末は、全て調べ上げているのだろう。


 私がディアナに気を使って、グライドに会いに行けるようにした事も、当然知っている訳だ。


 ディアナは賢いが、欲国、武国の情報に明るい訳では無い。それに、行くと決めたらドカンと行動するタイプだ。

 武国の鎮圧部隊が進軍する中を、グライド目掛けて突撃する可能性はある。


 ディアナの所在は知らないし、そもそも、私から関わる事は、しないつもりだった。

 それに、関わったところで、ディアナは反発する。私の忠告を聞くような質では無い。


 そうなると、状況にも土地にも明るく、力もある狩猟王がディアナを保護してくれれば最適な訳だ。

 何より、ディアナの目的達成の為には、狩猟王の許可が必須なのだ。


 狩猟王は、上手い具合に人質を見つけて来るものだ。私が関わった人の生命を案じており、こだわっている事を、良く見抜いている。


「私から彼女を止める事は難しいね。出来れば狩人に狩猟国までの案内をお願いしたいかな」


「そうでしたか。僕としても狩猟国を訪れる人は、無碍にしたくありません。是非、案内をさせて頂きたいですね」


 よくもまあ、涼やかな顔で、心にも無い事を言えたものだ。

 初めから練ってあった策で、絡め取ったにも関わらず、悪びれもしない辺りから、どうやら相当厄介な対価を要求されそうだ。


「面倒なやり取りはしたく無いので聞くけど、私が支払う対価は何なのかな? 」


「おや、どうやら少し急かしてしまったようですね。世界に対して出来ない事の無い竜越者に、願いを聞いてもらうというのは、中々に緊張しますね」


「今から私がそっちに行って、黒剣とか言う男を力ずくでさらって、ディアナと無理やり会わせるという手段も出来なくは無いけど、私の主義に反するから、あなたに従うわ。要件は手短にね」


「では、遠慮なく。あなたには法国に行って頂きたい。目的は、狩猟国を創った時と同じで、法国の予知を乱したいのです」


 モリビトである狩猟王が、故郷である法国を牽制したい理由、私には全く想像がつかない。

 モリビトは、ほとんど法国から出ない。私が今まで出会ったモリビトは、狩猟王1人だ。

 これまで行った国でも、私の探知範囲内にモリビトが入る事は無かった。


「法国に行くだけでいいの? 瞬間的に行って帰ってくるだけでも問題無し?」


「こちらから案内を付けます。その者に従って法国に行って頂きたい」


 行くだけなら、タイムアタックでもしてやろうと思ったが、事はそう単純では無いようだ。


「どうもー、アカネが案内しますー」


 この場所まで案内してくれた雉トラのオビトが、間延びした声をあげた。


「アカネは文明界側の狩人の取り纏めをしている者です。事情は全て把握しておりますので、行程は任せております」


「なるほど、狩猟王に操られるよりは、格段にいね。アカネちゃん、よろしくね」


「よろしくですー」


「では、よろしくお願いします。今日は、その場所にお泊まり下さい。湯の湧く場所なので、疲れを癒すには最適ですよ」


 終始笑顔の狩猟王の姿が消え、宿泊案内のオビトが、わらわらと部屋に入ってきた。


 オビト達の案内で、テキパキと部屋割りが進んで行き、私達は別々の部屋へと連れられた。


 ――


 オビトの拠点は、広い円筒状の空洞の壁面に掘った内部に、部屋が作られている。

 部屋の構造と設備から、この場所が軍事拠点では無く、完全に慰安施設である事が分かる。


 場所は地下ではあるが、地上から空洞が繋がっており、窓の外には丸く区切られた空が見える。


 施設内の移動は自由で食事も、用意された物を自由に食べてよいそうだ。


 私の部屋には、状況確認に来たリュー君と、それにくっついてきたミトラが居た。


「ユズさん。狩猟国は大丈夫なんでしょうか? あちらに居るタニアさんを助けに行った方がいい気がします」


「狩猟王の言葉に嘘は無かったよ。それに危険で言えば、欲国の西側もそうだよ。武国は、新月国を経由して欲国侵攻を予定していた訳だから、今回の派兵で欲国侵攻もあるかもしれない。そうなると、タニアには狩猟国に居てもらった方がいいかな」


「なるほど、確かにそうですね」


「おい!さっきの話といい、今の状況といい、俺が知ったり聞いたりしていい内容なのかよ! 今日の夜にでも狩人に消されるじゃないのか?」


 ミトラは、一連の情報量に混乱している。

 確かに、狩猟王の話は、一般人が聞いていい話では無い。


「口が堅ければ大丈夫じゃない? うっかり話してしまうと、消されちゃうかもね」


「はぁー! ふざけんな! こっちは聞きたくて聞いた訳じゃねーんだぞ! 大体、狩猟国があるって事情だけでやべーだろ。何の得にもならない秘密を知ってしまって最悪だよ」


「まあ、そんなに不安なら、私達にしばらく付いてくればいいんじゃない。法国に行く仕事が終わる頃には、落ち着いているんじゃないかな」


 呆れたような顔をして、ミトラがぼんやりしている。


「大体、法国に行くってなんだよ! 法国には誰も入れないんだよ! 一度出たらモリビトだって入れないって話だ。狩猟王は無理な事をさせようとしてんだよ!」


 法国には誰も入れない? 私の知らない情報が出てきた。

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