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剣奴脱出20

 大闘技会の決勝一回戦は、特に番狂わせも無かった。

 銀月のクエルツ、ライドウのエド、赤家のアドン(?)、そして私の4名が勝ち上がった。


 私の相手であった陽天のビルグリフは、高速離脱からの長期戦をするつもりのようだったが、逃げる方向と速度が分かる私から逃れられる訳もなく、一撃で勝負がついてしまった。


 次の相手は、銀月のクエルツだ。彼は私へのリベンジに燃えているようだ。

 エドと殺戮王(仮)は次で当たる。決勝戦は、出場闘技者も観戦出来るので、2人の闘いがどうなるのか見てみたい。


 決勝一回戦の終わったシルビウス家の天幕は静かだ。皆、酒家を貸しきって、祝勝の宴に夢中だ。

 私も強引に誘われ、危うく神輿に仕立て上げられるところだったので、透過で逃げ出してきた。


 私には約束された勝利を祝うよりも優先する事がある。

 私は世界と関わる場合、命が失われる事を避けてきた。世界を喪失させる事しか出来ない私にとって、生が失われる事は恐ろしい。

 私が関与しない死は、世界の法則として受け入れるが、そうでないモノは認めない。


 今、死に近づいている者がいる。私はコレを回避しなければならない。


 闘士の休む天幕は、他のものよりも良く作ってある。シルビウス家の闘士は、私とディアナの2人だけなので、質の良い布で作った天幕が2つだけある。

 誰の意向か知らないが、私とディアナの天幕は、敷地内の対極にある。


 私はディアナの天幕へと向かっていた。ディアナに会うつもりなので、特に気配を消すような事はしなかった。

 ディアナは、私の気配に気づいて剣に手をかけている。


「私だけど、話があるから入ってもいいかな?」


「どうぞ」


 天幕に入ると、帯刀したディアナが警戒した様子で、こちらを睨んでいた。


「私を相手に剣を構えても、意味が無い事は知っているでしょ」


「これは、わたくしに護身するつもりがある意思表示です。あなただけに向けたものではありません」


「では、明日の早朝に、この国を出るのを辞めてもらいたいね。私が言うのも変だけど、枷を付けない剣奴が国を出れば命は無いよ。護身を語るなら、命を大事にしないと」


 私が大闘技会の予選で6連勝したあたりで、ディアナとシルビウス家の頭目との確執は、決定的なものになった。

 互いの不満は限界まで高まり、関係は修復不能となり、ディアナは密かに国外への脱出を計画するようになったのだ。

 剣奴は自分の意思では国外に出られない。国外に出る場合は、剣奴連が承認した証文を持ち、枷を着用しなければならない。

 ディアナの国外脱出計画は秘密裏に進んでいるが、剣奴連の目を欺けてはいない。頭目との不仲が露見しているので、剣奴連にマークされているのだ。

 計画が失敗し、剣奴連に捕まれば命は無い。


「あなたには関係無い事です。わたくしは、やらなければならない事をやるだけです」


「前から思っていたけど、ディアナは年齢の割には老成しているよね。同じぐらいの歳の子は、もっと浮ついているのに、ディアナは役目に縛られている。他の子と同じようにとは、考えないのかな?」


 ディアナは溜息を吐き出して、私を強く見返した。


「武家というものは、様々な武の才を集めて育てる場所です。わたくしの生家は、廃れた兵法家でした。戦争をしなくなったこの国には、兵法の需要はありません。しかし、祖父は熱心に兵法を解き、幼いわたくしはそれを大いに学びました。兵法は、兵士の心を操って、効率良く戦争を進める手段です。兵法家は、状況把握の精度と判断の速さを求められる。兵法は何の益も生みませんでしたが、わたくしに剣奴として必要な事が何なのか気づかせてくれたのです。剣奴は才が全て。才無き剣奴に未来は無い。わたくしに剣奴として先が無い事は分かっていました。しかし、シルビウス家にはかつて眩い才があったのです! 同門として誇りに思い、憧れました。わたくしはそれを取り戻す為に、己の才をふるっていました」


 私の感じていたディアナの内面と外面の違いは、彼女が兵法家として才を発揮していた結果だった。

 目的の為に手段を選ばないという点で、ディアナは兵法を成していた。策を弄して私を武客に仕立て上げ、挙句に処分する決断までしたところを見ると、彼女の才は本物のようだ。

 ただ、今現在は兵法家としてでは無く、感情で動いている。兵法家の仮面が剥がれれば、年相応の無鉄砲さが表にでる。

 誰でもある若気の至りで、何も命を落とす事は無いだろう。


「この国を出るという事は、ディアナの憧れの人は外に居る訳だ。命を賭けて逢いに行くなんて、中々感情的だね」


「あなたは黒剣のグライドを知らないから、そんな事が言えるのです。黒剣、銀月、陽天の三闘士の中でも、黒剣の技は最上でした。自在士の真似をさせるなど、愚の極みです! あの剣技が失われた闘技会など、何の意味もないのです!」


 私の中では既に認識済みだが、ディアナの言う黒剣は、武国でブラドとやり合った時にいたグライドの事だ。今はシキに誘われて狩猟国に居るはずだ。

 ディアナの事だから、厄介なドルオタ並の行動力を発揮して、地の果てまで追いかけそうだ。


 まあ、ディアナの命を救う方法は良く分かった。要は、狩猟国まで運んでグライドの側に置いておけば良いのだ。

 国外脱出は、私がなんとかすれば良いのだが、今の感情で暴発されると厄介だ。

 私にはこの国でまだやる事があるので、それまで大人しくしていてほしい。


「私がディアナに忠告したと言う事は、私以外にもあなたの国外脱出が知れているという事だよ。良く考えて行動する事をお勧めする」


「あなたには関係ないと言ったでしょう。わたくしは忙しいので、話は以上とさせて頂きます」


 ディアナの動向には注意だが、私も既に動いている事がある。

 何事も裏の出来事には、裏の住人に頼るのが一番だ。

 私は赤錆組と簡単な契約をしている。出来れば、彼らが動かない事が一番だが、念には念を入れつおいたのだ。


 ―――


 決勝の二回戦が始まる。

 先に私とクエルツの闘技があり、その後、エドとアドンの闘技となる。


「赤の門より、一撃必勝の魔棍の操者ユズカが現れた! もはや彼女の居る闘技は闘技では無い! 相手はただ一撃のもとに平伏すだけの礼拝の場となっている! ただ今9連続零号闘技を継続中の彼女を止める者は現れるのか!」


 相変わらず恥ずかしい感じの紹介アナウンスが流れる。

 余りに闘技内容が薄い私の紹介は、専ら連勝記録の事ばかりだ。


「青の門より、銀月のクエルツの登場だ! 銀月刀から繰り出される刃の結界は、未だに何者の侵入も許さない! 今闘技会で唯一敗北を許した闘士ユズカを仕留める為、剣に邪魔な防具は一切着用しておりません!捨身の銀月が魔棍に雪辱を晴らすか!」


 予選では、完全防備だったクエルツが、刀一本を帯びた状態で、私を待っている。


 流れるような銀髪に、整った顔立ちで、闘志を顕にしている。

 闘士に人気が出るというのも頷ける。こんなイケメンが強さまで持っているのだ。それはファンも付くだろう。


 私の闘技とは関係無い邪な思考の最中、闘技開始の銅羅が鳴った。


 クエルツの使用する銀月刀は、磁力のようなモノで制御されている。

 使用者の意思とは別に、刀身が相手に吸い付くように振る舞うので、剣の起点は無意識であり、技に入ると使用者の意識が乗った攻撃となる。

 無意識と意思の狭間で揺れる剣だからこそ、容易に剣筋を読む事は出来ない。

 彼の剣技は理に適った最上なのだ。


 だが、私には通用しない。どう制御しても、棒状の武器の限られた面で攻撃する動作は、私には緩過ぎる。

 クエルツの斬撃の合間を縫って、私の棍がイケメンの顎を打つ。

 彼が刀を振り下ろした動作のまま、地面に崩れ落ちる。


「銀月は魔棍を破れず!! 何者も闘士ユズカの威光に平伏してしまう!」


 連続10回、変わらない勝利をしてきた。


 私の闘技をエドとアドンも見ている。彼等の闘技の結果次第にはなってしまうが、場合によっては私の零号闘技は無いかもしれない。




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