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剣奴脱出19

 派手な着流し一枚のシドウが、丸太のような足を投げ出して、床に大の字を描いている。

 ミドウは、呼吸、脈拍を確認した後、外れた顎をはめ直して、金色の毛皮の敷物の上に静かに寝かせた。


「死神のミドウさんも、弟には優しいんですね」


「死にそうな身内を介抱して何が悪い。それにわしは人死が好かん。必要な殺しだけをしてきたんじゃ。金にならん荒事なんぞ、誰がするか」


「流石、金のある所には何処でも現れる赤錆組の長ですね」


「今回はそうも言ってられんわ。命がのおなったらお仕舞いじゃ」


 ミドウの打算は完了しているようだ。私に対しての抵抗が無意味だと理解し、私を利用する事を諦めたようだ。


 先程からの私の所作を見ても、リュー君は警戒を解いていない。

 シドウと同じ立場にならないようミドウを警戒しているのだ。リュー君にとって向こうの兄弟は、それ程の実力者なのだろう。


「ユズさん。この人はかなり強いですし、何をするか分かりませんよ」


 リュー君の言葉に、ミドウが呆れた様子で椅子に座った。


「わしが一番恐ろしいのは、お二人から何の脅威も感じとれんことじゃ。リューンクリフさんは、少しだけ武の匂いがする。しかし、ユズカさんからは何も感じん。零号闘技を三回も見て、それでも何をしているのか分からん。何やったら弟をやったのがどちらなのかすら分からんわ」


「弟さんは私を倒すつもりのようでしたよ。振らずとも相手を斬る幻を出す技をお持ちでした」


「ちっ! あの馬鹿が! わしに分からんと思って、そげなこと!弟に代わり謝ります。本当に申し訳ない。あいつはわしより腕が立つけん、調子に乗っとるんじゃ」


 シドウから幻刀紛いの挑発があったが、既にヤクトで経験済みなのでスルーに徹していた。結果としてリュー君にも付き合わせる事になってしまったので、イライラさせてしまった。


「さて、これ以上時間をかけてもお互い利は無いようなので、そちらの提案である情報を頂いてもいいですか? 話す内容はお任せしますが、対価に成り得るか吟味させてもらいます」


 ミドウは白い陶器の杯に入ったお酒を飲み干し、硬く閉じていた口を開いた。


「既に知っているとは思うが、今回の大闘技会は外からの介入を受けとる。賭場を仕切る赤錆組は貴女、剣奴連はライドウ、闘技会運営は殺戮王と呼ばれる何かじゃ」


「ライドウと殺戮王の事が詳しく知りたいですね」


「まず、ライドウは闘技会に過去二度現れた生きた伝説じゃ。理山にある開かずの洞穴寺院を雷堂と言い、それを開ける者をライドウと呼ぶらしい。何故開けられるようになるのか分かっていないが、それまで凡夫であった者が、突然、達人の技を身につけ、深い知識を持つようになる。今回はグレン家の剣奴見習いだったエドという名の餓鬼がライドウになっとる。ライドウは闘技会に参加し、どんな相手でも再起不能にする。その目的は、更なる武を呼ぶ為と語るらしいが、真意は全く分からんそうじゃ。エドは剣奴連の役会を脅して、事前の取り決めによる勝敗の操作を禁止した。なんでも、闘技に面白味がなくなるからと言ったらしいわ」


 エドの情報は、探知で把握した通りだ。ライドウ伝説については、詳しく知る機会がなかったので、モヤっとしていたが、知れて良かった。

 覚者が湧く理由は分からないが、何度もライドウが発生している事を考えると、ライドウとなる者になる覚者の核は、同じ物である可能性が高い。

 人としての体を失っても、核だけで行動出来るのが覚者だとしたら、エドは新しい宿主に選ばれたのだろう。


「続けてください」


「殺戮王の正体は分かっとらん。闘技会運営の長は、剣奴が戦争に加担しとった時代の老人なんで、わしらの知らん事を知っとる。奴が殺戮王に怯えており、今回圧力をかけられとるのは間違い無い。殺戮王は、武国と月光国で戦争しとった時代に、暴れ回っとった奴らしい。当時、月光国の傭兵として剣奴は戦争に参加しとったが、殺戮王に皆殺しにされたそうじゃ。そいつは軍も率いず、たった1人で兵士を殺して回ったらしい。武国、月光国どちらも襲われとったらしいから、第3の国の介入と見なして、殺戮王と呼んだんじゃと。殺戮王は、今回の大闘技会で運営に介入して、闘技の対戦順を操作しとる。どういう訳か、グレン家とシルビウス家が予選で当たらないようにいじっとるわ。他にもどこかの武家にも介入しとるらしいが、細かい事は分かっとらん」


 殺戮王と思われる人物は、私の探知範囲内にはいない。闘技会運営に何者かが介入していた事は知っていたが、具体的な情報は得られていなかった。

 予選をいじっているという事は、決勝トーナメントまでは、直接介入しないだろう。現行は放置で問題無い。


「他に情報は無いですか?」


「貴女が契約しているシルビウス家は、頭目と筆頭剣奴の関係が悪いじゃろ? あれは、数年前にシルビウス家から離れた、とある剣奴が原因じゃ。シルビウス家には黒剣という二つ名の剣奴がおった。陽天、銀月、黒剣と、3人の人気剣奴が頂上を争っとったが、黒剣は頭目の指示で自在士をやらされとった。自在士は、勝敗や点を操作する剣奴の事じゃ。当然、規約違反じゃから、発見次第すぐに懲罰剣奴に落とされるし、賭け屋のわしらも黙っとらん。じゃが、黒剣は腕が良すぎてな。誰にも気付かれる事無く、3年は自在士をやり通した。その後、内輪で揉め事が起こって、黒剣と主要な剣奴はシルビウス家を離れて、今はどこぞの傭兵をやっとるらしいわ。頭目は、やり方を変える事無く、今の筆頭剣奴にも自在士を強いとるらしいが、黒剣を慕っていたらしく、頭目に反発しとるらしい」


 ディアナとシルビウス家の、ギクシャクした関係が出来上がった理由は分かった。

 私の大闘技会での勝利が、二者の関係をより悪くさせたのも納得だ。

 シルビウス家の頭目は、私を筆頭剣奴に据える方向に動いているのだろう。

 私が剣奴連国に残る事は無いが、ディアナの今後については、一考する必要がある。


「あなたの情報が確か事は分かりました。それでは、残り全ての情報を聞かせて下さい」


 ミドウは何かを観念したのか、鈴で給仕を呼び、食事会を再開させた。

 部屋に入ってくる給仕達は、大の字で横たわるシドウを気にする事無く、粛々とデザートの用意をしている。中々のプロ根性だ。


 ミドウは情報を全て吐き出すべく、しゃべり続けている。


 私が大闘技会の予選でやっておかなければならない事は、概ね全て片付いた。後は決勝に勝利し、剣奴連国から正式に出られるようにするだけだ。


 ――――


 大闘技会の予選は、問題無く8連勝した。ライドウことエドの居るグレン家も8連勝で最速の決勝進出は、シルビウス家とグレン家だけだった。

 賭けによる金貨も順調に増え、4000枚を超えていた。

 あれから、赤錆組による妨害工作も無くなり、少し物足りない闘技となった。


 私達が決勝進出を決めてから2日後に残りの6枠も決まり、決勝戦の開催日程が決定した。


 決勝戦は、8組のトーナメント式なので、優勝決定まで3日を要する。大闘技会で最も盛り上がる3日が始まるのだ。


 トーナメント表は事前に公開されるので、相手の対策には十分な時間がある。

 今回の8組は、シルビウス家、グレン家、セヒル家、トーラス家、崇家、ベルモント家、馬家、赤家だ。


 私の一回戦の相手は、トーラス家のビルグリフという人だ。

 前回の大闘技の優勝者で、陽天の二つ名でお馴染みだ。


 シルビウス家の情報担当は、事前に対戦相手の情報を収集しており、私への共有もしっかりとあった。

 陽天のビルグリフは、飛行術と発光術を得意とする術士で、立体的な高速移動と、発光による撹乱で一撃離脱を行う戦闘スタイルらしい。

 予選一回戦は、セヒル家と当たったので、武客を犠牲に一敗しつつも、残りは8連勝という、確かな実力を持っている。


 私への対策をしているようなので、楽しみにしている。


 殺戮王が介入しているのが、赤家であると分かったのは、決勝一回戦直前の闘技会紹介のときだった。

 赤家は、予選から包帯をぐるぐる巻きにしたミイラのような見た目の闘士が闘っていた。

 リュー君曰く、体に巻いている包帯には、強力な認識阻害が掛かっているので、正体を知る事は出来なかったのだが、私が見れば、まる分かりだ。


 トーナメントの構成上、赤家と対戦するのは、優勝決定戦になる。


 中々楽しめそうな決勝戦になりそうだ。



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