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剣奴脱出15

 まもなく私の2回目の闘技が始まる。


 闘技者の控え室は、様々な準備に対応出来るように、広く多様な設備がある。

 本来は、この空間で闘技開始までの準備に、多くの人達が仕事をしているのだろう。


 私の控え室には私しかいない。


 ディアナとシルビウス家は、私の処分はしない方針のようだ。

 その代わり、極力闘技に関わっていない事をアピールして、得体の知れない武客が、空気も読まずに勝手をしたのだというシナリオにするようだ。


 その為、私の周りに、今誰もいない。


 リュー君には、賭けの方で頑張ってもらっているので、この場に呼ぶ事は、闘技のルールに違反してしまう。

 紫石館での賭けを成立させる為の立ち回りは、あわやという場面もあったが、ギリギリセーフの範疇に収まった。

 赤月で出会ったミトラという人物が、リュー君を追って来ていた事は把握していたが、まさか、協力者になるとは思ってもみなかった。

 かなり特殊な人物ではあるが、今のところ危険な暴発は無さそうだ。

 私が闘技中に何かしでかすという可能性もあるが、そのときは闘技を捨ててリュー君を守れば良いので、問題無い。


 闘技の相手は、もう知っているのだが、闘技者紹介がどんな感じなのか楽しみだ。


 私は、冷えた石の廊下をあるき、闘技の舞台へと向かった。


「赤の門より現れたのは、銀月のクエルツに零号闘技を成した闘士ユズカだ! 剣星位に名を連ねる者は、技の底を見せないと言うが、黒曜の棍より放たれる深淵からの一撃は、誰の目にも見え、そして誰も正体を掴めない!今回はどのような闘技を見せるのか!全く予想できない!」


 どうやら、よくわからんので、よくわからない事を強調して見たという紹介になったようだ。


「青の門より現れたのは、魔装の奇術士こと闘士ビエンだ!完全に体を密閉した外装は、攻撃を防御に、防御を攻撃に転ずる変幻自在の凶器と化している! 奇術のような、誰も予想出来ない攻撃は、綿密に組まれた知略の網であり、策に落ちた者は絶対に逃さない! 赤が一撃必殺ならば、青は多撃完殺だ! 」


 私の相手は、革製三角コーンに手足が生えて、ガスマスクを付けたような格好をしている。言わば術具のパワードスーツだ。

 戦闘の設計思想が狩猟王に似ている気がする。もちろん、規模は全然違うが、用意した多数の道具で策を弄する辺りに既視感がある。

 一見、武器は無いように見えるが、着膨れした内部は武器だらけだ。主体となる武器は、高温の煙を発射する装置のようだ。

 以前にキリンちゃんにしてやられた粉塵爆発攻撃を思い出す。やはり、この相手と狩猟王関連の技術は、ルーツが同じ気がする。


 今回の闘技は、私の零号闘技を阻止するための仕組みが、多数用意されている。

 完勝する事を零号闘技と呼ぶのは、完全勝利の賭号が零だからだそうだ。

 零号闘技は、滅多に発生する事は無い。何故ならば、闘技は相手を殺す以外何をしても良い。そんなルール無用の闘いに、実力の拮抗した二者が挑めば、ほぼ確実に手傷を負う。狙って零号闘技にするなど、両者申し合わせている以外には不可能なのだ。


 私を闘技者と見るなら、誰と闘っても圧倒的な実力差がある事になる。

 不可能と言われている、狙って零号闘技にする事も容易い。


 今始まろうとしている闘技は、加点判断する審判が、青側に有利になるよう操作されている。

 加えて、対戦相手もギリギリで変更し、最も点を取る事に長けた闘士となった。

 リュー君に賭けてもらっている赤の0号は、私が一点でも取られた時点でハズレとなる。


 それでも私の完全勝利は揺るがない。


 闘技開始の銅羅が鳴ると、相手の闘技者は斜め後ろに飛びながら煙を噴射する為の予備動作に入った。


 私は相手の足が地を離れる前に、黒い棍がギリギリ届く位置まで距離を詰めた。

 目を引く軌道で棍を横に薙ぎ、相手の側頭部を激しく打つ。


 私は今回、初動を素早い動作にした。動体視力の優れた人か、闘技者でなければ見逃す動きだ。

 この闘技では、私にかなりの実力がある事をアピールしなければならない。そうでは無いと、後のお楽しみに繋がらないのだ。


 観客に魅せる演出も忘れていない。棍が触れた時点で、衝撃が相手の脳に届き、既に意識を奪っている。

 激しく打って一撃は、相手を派手に吹き飛ばす目的だ。


 三角のフォルムの相手は、受けた衝撃で側転するように体勢を崩し、外れた車輪のように高速回転しながら宙を舞った。

 両の腕から噴射の始まっていた煙が、航空ショーのスモークのように輪を描き、観客の目を惹く。

 やがて地面に接触し、舞台の端まで吹き飛んだ。


「闘士ユズカの疾風のような一撃が決まった! 紐の切れた凧のように空を舞った闘士ビエンは、動く気配が無い! またも闘士ユズカは零号闘技を成すのか!!」


 審判がビエンの確認に行く事を躊躇している。このままでは、零号闘技の成立を宣言しなくてはならないからだ。

 審判はビエンが立ち上がる事を祈っている。

 しかし、ビエンが如何に強固な外装を纏っていたとしても、物理法則が成り立つ限り、私の攻撃から脳神経を守る事は出来ない。


 ビエンから出ていた煙も治り、うつ伏せに倒れたゆるキャラのような体が立ち上がろうとする素振りは無かった。

 救護班を伴った審判は、止む無く私の勝利を宣言した。


 赤の0号に賭けた場合の倍率は9.4倍だ。零号闘技を阻止出来ると踏んでいた運営サイドは、レート操作を過激にはやっていなかった。

 リュー君は1269枚の金貨を手にする訳だから、今夜あたり私とリュー君は、間違い無く粛正の対象になるだろう。


 ―


 ざわつく会場を後にして控え室に戻ったが誰もいない。

 シルビウス家は、私とリュー君が粛正されると分かっているので、巻き添えに遭わないよう退避している。

 紫の天幕から人の気配を感じない。


 剣奴連国は、武家で構成される剣奴連、県で構成される闘技会運営、賭場で構成される赤錆組の三つの派閥で回っている。

 私が今一番怒りを買っているのが赤錆組だ。闘技会運営は、闘技で工作があったので、粛正に加担するだろう。剣奴連は私を闘技者にしてしまった手前、微妙な立場だが、権の大きさを盾に、ダンマリを決め込むだろう。


 金と暴力で成り立っている国なので、逆らった相手を血祭りにする準備は、常にしてある。

 各組織の暗部が大挙して攻めて来る事だろう。


 規模は想定より大きくなってしまったが、私の想定通りではある。


 リュー君の換金も無事始まったようだ。紫石館が多少渋るかと思ったが、あっさり払うつもりらしい。

 どうせ、粛正後に戻ってくると思っているので、賭場としての余裕と矜恃を見せつける演出とするようだ。


 金貨の枚数が増えて来たので、リュー君の金貨管理が大変になってきている。後で台車を作って渡しておこう。


 それにしても、今回の大会は外部の手が入り過ぎているようだ。私は、紫石館を通じて赤錆組に介入しているが、他の二つの組織にも介入している者がいる。

 私の闘技者登録が運営サイドから一方的に解除されないのも、介入者の手によるものだ。


 ディアナには未来が見えると嘘を言っているが、実はこの先の展開は読めていない。


 大闘技会場を取り囲む町から、私とリュー君を狙う暗殺者が、着々と準備を進めている。


 今夜は忙しい夜になりそうだ。




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