セラの帰宅
種族名を漢字表記に統一したので漢字でもカタカナでもお好きな方でお読みください。
朝早くに出発する。これがどれだけ大変なことか…。今日はなにがなんでもシルフィーを寝ぼけさせてはいけない。
……と覚悟を決めていたのだが、シルフィーはセラちゃんと一緒に起きていた。
「おはようシルフィー。ちゃんと起きれたのね」
「おはよママ。海行くんでしょ?楽しみで早く起きちゃった」
「正確にはセラちゃんを送り届けるのよ。海で遊ぶのはそのついでよ」
「でも、行くのは変わらないからね。ちゃんと水着持ったよ」
買った水着を大事に持っている。可愛いなぁ。
「途中で落とすといけないから、ママの荷物と一緒に入れておくわ。ほら、ここに入れて」
「ママも落としちゃダメだよ」
「わかってるわよ。忘れ物はないわよね?」
「パパは?」
「準備してるわよ。庭を覗いてみなさい、静かにね」
窓からヒョコッと覗いている。バレットが気づいたら悶えるわね。
「パパ誰かとお話ししてるよ」
「シルフィーは見えるのね。私には見えないわ」
「小さくて飛んでる。なんかキラキラしてる」
シルフィーが見ているのは精霊と呼ばれている。本来エルフにしか見えないのだけれど、シルフィーにはエルフの血が流れているから見えるのでしょうね。
「パパなにやってるの?」
「パパは精霊とお話しして力を借りているのよ」
「へぇ〜。私もできる?」
「パパに後で教えてもらいなさい」
「うん」
全員準備完了
「バレット、道はわかった?」
「ああ、とりあえず覚えたが、もしかしたらという時のために、精霊たちに案内してもらうことにした」
「そう、それは助かるわね」
「移動についてだが、今回はセラちゃんがいるので霧化は使えない。そこで、メルディーとシルフィーの力で俺の影にみんな入ってもらう」
吸血族の能力で自分と触れているもの、触れたものは全て影に入れることができる。つまり、シルフィーがセラちゃんと一緒に入り、メルディーは念のため荷物と2人を包むように入る。
「俺の体力で約10分後にはついているだろう」
「あなたの体は異常だものね」クスクス
「頼もしいだろ?」
「セラ、パパはすごいんだよ。一歩だけで相当な距離を移動するんだよぉ」
「森霊族の走るとこは見たことがないから、想像ができないなぁ」
「はい、話はこのくらいにしてそろそろ行くぞ」
「うん、じゃあいくよセラ」
「よろしくねシルフィー。メルディーさん、バレットさん、よろしくお願いします」
ズズズズ
「私も行くわ。何かあったら言ってね。少し体が重くなるはずよ」
「はははは。平気さこれくらい。子供達をよろしくな」
ズズズズッ…。
「さてと、じゃ、思いっきり行くか!」
「影の中ってこうなってたんですね」
「普通は体験できないわよ。吸血族がいたら可能なんだけど。これでもかなり制御が難しいのよ」
「え、そうだったの?」
「シルフィーはこれで遊んでたから自然とできるようになってたのよ」
「そうなんだぁ〜」
影の中は薄く黒い膜が張ってあるような視界でバレットの見ているものがそのまま私たちにも見えるようになっている。
「もっと見たい?」
「はい!」
「なら、もっといいの見せてあげるわ」
「え?何か飛んでますよ。キラキラした……これって、精霊ですか?」
「そうよ、言ったでしょ?バレットの見ているものがそのまま見えるって。ちょっとコツがいるんだけどね。あれ?言ってなかった?」
「言ってないよママ。でもセラ頭いいからわかってたと思う」
「精霊が見られるなんて、夢みたいです!」
セラちゃんの目が輝いている。子供の反応って新鮮でいいわねぇ。
「じゃあ、もっと頑張っちゃおうかしら」
「目を閉じて耳を澄ましてみなさい」
『……スグ。………アノキ…マッスグ』
『ミズ…ノムトイイ……。ツメタイノ』
「知らない声がします。もしかして精霊の、ですか?」
「ピンポーン、正解!」
「精霊ってこんな声なんですね」
「面白いでしょう?森霊族はいつもこんな感じで生活しているのよ」
「いい経験になりました。ありがとうございます!」
そろそろ10分経つわね。
「バレット?今どこなの?」
『もう着いてる。見えていたんじゃなかったのか?』
「あら、バレット頑張ったのね」
話に夢中で見てなかったわ。
アーネス海は透き通った水に白い砂浜が特徴だが、道が険しいため人魚族以外は訪れるのが難しい。森を抜けるのが最短ルートだが、一歩間違えると遭難するのでやはり森霊族が適任なのである。
『もう出てきていいぞ』
「せめてセラちゃんの家まで行きましょうよ」
『そうだな、セラちゃん案内頼む』
「はい、近くに建物が並んでいませんか?」
『あるぞ』
「1番大きな建物がありますか?」
『目立つからな、すぐわかるぞ』
「それです」
到着と同時に全員影から出てきた。
「よく見たらこの家、俺が建てたやつだ」
サラッと自慢が入る。ドヤ顔もしている。
「へぇーそーなのねー。すごいわぁー」
「おっきーねぇ〜!」
そこに2人の女の人魚族が近づいてきた。
「お母さん、お姉ちゃん、ただいま。あと、ごめんなさい」
「いいのよ。どうもありがとうございます。セラの母のリーネ・スィ・エルーナです」
「姉のカーラ・スィ・エルーナです」
「夫は多忙で今はいないのですが、ささ、上がってください」
「お疲れでしょうから、ゆっくりしてください」
なんて優しいご家族なのでしょう。
「では、お言葉に甘えて。お邪魔します」
「わは〜〜!」
「こら、人様の家で走り回るんじゃない!」
「改めましてリーネです。娘のセラがお世話になりました」
「メルディー・フォン・ヴァレスフィアです。こちら夫のバレット、娘のシルフィーです」
「どうも」
「こんにちは」
「この度はセラが迷惑をかけたみたいで、お礼に少ないですがお受け取りください」
「いいですよリーネさん。私たちは親なら当然のことをしたまでです。シルフィーの遊び相手になってもらったので、こちらこそ感謝しています」
「あなた方のような優しい家族で本当に良かったです」
「いえいえ」……………。
しばらくこのやり取りが続いた。
長くなるので切りました。次話は海で遊ぶ予定です。エルーナ家の家は部屋の半分が水で海から引いています。もう半分はお客さん用に床があります。