ファウンド
読みにくいかもしれません。すみません。次回最終話の予定です。
『………て』
微かに聞こえる、怯え震える声。
『…す…て』
弱く、今にも消えてしまいそうな声。
『……だ。…め。……けて』
その声の中に生きたいという願いは感じられない。
『たすけて。………を。ぼくから…り離……』
その声の主は、もう1人の救済を願っている。
『自由にさせて。………は自由が好きなんだ』
誰にも届くことのない願いを、ずっとしてきたのだろう。
『なんで…。なんで誰にも、聞こえないんだ』
「聞こえてるよ」
私は答えた。優しく。ほんの少しの時間だけど、聞こえていたと。聞いていたと。届いていると。
『はは…。やっとか。やっと、……うぅ』
「私はそんなにすごい存在じゃない。だけど、あなたに問わなければならない」
『知ってるよ。ずっと聞いてたから。………をどうするか。その上でぼくがどうなるか。聞いてた』
「……」
なにも言えなかった。
『教えてあげる。ぼくの考え。ぼくの願い』
だって、目の前の男の子が…。
『それはね……』
全てを諦めた目をしていたのだから。
シュラハトの崩壊は止まった。
「なにがどうなったんだ?」
「お前の娘たちが何かしたんだろ」
「セラちゃんも入ってるんじゃない?…はぁ。いつまでも子供じゃないんだよな」
「バレットよ。子は日々成長する。当たり前だ。そして、俺たちも老いる!そのうち、娘に介護される日が来るさ」
「時が経つのは早いからなぁ。いやだぁ。いつまでも頼れる父親でありたい!」
「ガハハハ!反抗期って知ってるか?」
「言うな!うちはまだ来てないんだ」
精霊たちは歌って踊る。とても楽しそうに。
『ネエ、ロスト。アッチノ話シテアゲヨッカ?』
『いらん』
『コレ食ベル?』
『いらん』
さっきまで戦っていたとは思えない。
ズズズズ…。
「おかえり。話はできたのかい?」
「うん。ちゃんと話した」
『ドウダッタ?了承シタ?』
「ねえ、もしもね。もしもだよ?」
『ウン』
「ロストを自由にして、元の主を精霊界に連れていくことってできる?」
「なにを言っているんだ!そんなこと…」
精霊に止められた。だが、帰ってきて何を言い出すかと思えば、ロストの解放だなんて。
『ソレハ、……残念ダケド出来ナイ。ロストヲ連レテ行クノハ変ワラナイ。主ガドウスルノカヲ決メサセテアゲルッテ意味ナノ』
「そう、だよね」
『否定サレタラドウスルッテ?』
「一緒に精霊界に行くって」
そんな。無理に行く必要はない。身体の自由が奪われるのが嫌なのか?それとも別に問題が?それに、行くか残るか以外にも選択肢はある。言ってはいないが生まれ変わりだって。
『主ノ決定ニ文句ハ言ワナイ。ケドモウ一回確認サセテ。本当ニイイノネ?』
「曲げる気は無いって」
『ソウ。ジャ、ソウスルワ。決定!皆集合!ドウスルカ決マッタワヨ〜。サア、名前ヲ考エテチョウダイ』
「納得いかないみたいだね、ヴェルノ」
「そりゃそうさ。他にも選択肢は考えればあったのに、なぜそれを選んだのか僕にはわからない」
「わからなくて当然だよ。他人の心、考えなんてわからないんだから」
主との会話回想
『ロストを解放して自由に生きてもらうことだよ』
「え、それは今回の条件を根本的に変える…」
『そう。大前提としてロストが連れて行かれずに、ここに留まらなくてはならない。でも、精霊が出した条件は違った』
「そもそも、なんであなたはロストを自由にさせたいの?」
『ん?ああ、ぼくか。あなたって面倒だろ。ぼくの名前はファウンド。そして、ロストの自由を望む理由だが…。単純に友達だからかな』
「友達?ファウンドの身体を乗っ取ったのがロストでしょ?」
『ロストはそんな酷いことはしない。ロストはね、ぼくに取り込まれたんだ』
「ちょっと待って。えっと、何がどうなって?」
『しょうがない。ぼくの昔話をしよう』
ロストが大きな戦いの中で死んだのを知っているかい?まあ、それはどうでもいいんだ。ロストが死んだ時、同時にぼくは生まれた。もちろんこの時はまだ何も起きていない。
それから数日後だ。まだぼくは言葉も喋れなければ歩くことも出来ない。当然だろ?生まれたばかりで発達していないんだから。でも目は見える。匂いもわかる。触れることができる。聞いたことはないかな?幼い子供は時として、誰にも見ることのできないモノを見ると。当時の記憶は無いがロストはこう話していたよ。『俺のことをじっと見つめて、ついには手を握りやがった』ってね。それ以来、ぼくはロストを離さなかったんだって。
ロストを認識して3ヶ月くらいかな。ロストはだんだん薄くなっていた。世の理によって行くべきところへ強制的に少しずつ魂が移動していた。何も知らないぼくは、生まれてすぐに見たロストを家族だと思ったんだろうね。ロストが消えると頭では理解していなくても、本能で感じていた。そして消えて欲しくない、嫌だ。もっと一緒にいたいと思った。そしてロストは次の日には消えていた。それに気付いた時、ぼくは大泣きしたそうだ。生まれてから一度も泣かなかったぼくが初めて泣いた瞬間だったらしい。
時が経ち、ぼくは5歳くらいかな。外で遊び他者との触れ合いも多くなった頃。ぼくは虐められていた。理由は些細なことだ。いつも暗く、遠い目をして、呼びかけに対して上手く反応しなかった。それだけ。外に出なければ親は怪しむ。かと言って外に出れば虐めを受ける。殴られ蹴られる。その中で、ぼくは目を瞑った。そのまま意識を失った。目を覚ましたら驚いたよ。ぼくを虐めてた奴らがみんな倒れてるんだもん。
それからぼくは嫌なことがあると意識を失うようになった。そして目を覚ますと決まって誰かが倒れている。繰り返すうちに、ぼくは居場所を失った。
自然の中で生き抜いていたある日、ぼくは夢を見た。懐かしい声。懐かしい感触。だけど、姿はぼんやりとして見えなかった。でもぼくははっきりとわかった。ロストだと。同時に寂しくなった。もうロストはいないと知っていたから。目が覚めてから驚いたよ。ロストの声がずっと聞こえるんだから。ついにぼくも死ぬんだと思ったよ。『俺はお前の中にいる』って言われるまでは。信じられないだろう?死んだロストが自分の中で生きていて、何度もぼくの身体を使っていたんだ。ぼくは幸せだった。ずっと一緒だった、消えてなかった。それからぼくとロストは楽しく生きていた。そして君、シルフィーと出会って今に至る。
『これでわかったかな?』
「なんとなく。ロストはずっと悪いことをしていたわけではなかったんだ」
『といってもロストが死ぬ前はどうだったか知らないけど』
「とりあえず精霊たちに伝えてくるね。戻ってきた方がいい?」
『いや、いい。通らないことはわかりきっていることだから、こう伝えておいて。ぼくはロストと一緒に行くって』
「後悔は、あるわけないよね」
『ありがとう。久しぶりに他人と話せて楽しかったよ。友達を大切にしなよ』
「うん。ばいばい。私も楽しかった。あ、そうだ。生まれ変わりって聞いたことある?」
『ここは普通に別れるだろ。知ってるよ』
「もしさ、こっちに生まれ変われたら、私とも友達になってよ」
『友達、……考えておくよ』
「元気でね」
『君もね』
『はぁ、……友達、ね。あんな子となら、悪くないかな』
精霊たちの相談は終わった。ロストにこれからどうなるか、ファウンドがどうなるかを伝えた。
『け、あいつも来るのか。面倒だなぁ』
なんて言ってる割には、嬉しそうだった。
そして、ロストとファウンドを精霊界に送る儀式、浄化が始まった。
『コレヨリ、我ラハ汝ラヲ王ノモトヘ案内スル』
『道ヲ外レルナ。付イテ来イ』
『王ハドンナ無礼モ許ス。許シ救済ヲスル』
『ダガ忘レルナ。汝ラハ贄ダ』
『新タナ霊樹誕生ノ贄ダ』
『霊樹ガ朽チルマデ贄デアリ続ケル』
『サア、祝オウ。霊樹ノ誕生ダ。名ハ』
『『『『アルベロ』』』』
精霊たちが名を授けた時、ロストの、ファウンドの身体はメキメキと音を立て、霊樹の一部となった。そして、その霊樹の近くの空間が歪んだ。穴となり、精霊たちが順番に通って行く。精霊の通った道はキラキラと輝く。その上を魂となったロストとファウンドが並んで進んで行く。仲良く、手を繋いで。ロストは嫌そうに、嬉しそうに少し笑った。ファウンドはこちらを振り返り、笑った。私も笑い返す。最後の精霊が通った後、歪みはゆっくりと閉じた。
ども、私だ。今回は早いでしょ。竜族は優しいんだよ。ロストはちょっとネジが外れてるだけ。シルフィーが見たファウンドの姿は精神の姿だよ。だから男の子って書いてあるんだよ。こうなると影の中、なんでもありになってるね。あはは〜。気にしない気にしない。それでは、また次回!




