祖母の昔話
楽しみに待っていてくれた皆さん、投稿遅れてすみません。いつも週末に一気に書いているのですが、都合が悪くやっと書けたという感じです。これからもよろしくお願いします。
いつだったかねぇ。言っといてなんだけど、正確には覚えてないんだ。たしか……。
「お願いします!メルディーさんを俺にください!」
「ダメだ!娘はやらん!」
「いいじゃないか。そんなに悪そうなやつに見えないし」
「ダメなものはダメだ!きっとこいつは娘の身体が目当てなんだよ!」
「そんなことありません!俺はメルディーさんを心から愛しているんです!」
「とか言って、本当は…」
「いい加減にしな!」ゴン!
「グハッ!なにしやがる!」
「少し黙ってな!うるさいし、しつこいんだよ!それにダメな理由はただの独占欲だろ。メルディーのことも考えてやりな!」
ん?あれ?ここじゃないな。違った、間違った。ははは。ええっと………ああ!これだ。気を取り直して。
メルディーがまだ幼い頃。7歳くらいだったかねぇ。私たちは共働きで家にいなくて、施設に預けてたんだ。ある日、メルディーを迎えに行ったんだ。
「メルディー。迎えにきたよ」
「あ!お母さん!」
「寂しかっただろ?さあ帰ろうか」
「うん!」
「あの!お待ちください!」
「ん?なんだい?」
あたしたちを止めたのはそこの施設の管理人だった。とても申し訳なさそうな顔だったねぇ。
「申し訳ありません!この度は私共の不注意で、大切なお子さんに怪我をさせてしまいました!」
「なんだい?怪我って言われてもどこも傷ついてないし、服も……」
言われて初めて気づいた。メルディーの服装が変わっているのにね。
「代えの服は用意しました」
「待ってくれ。一体なにがあったんだい?」
「実は、今日は施設の外に皆を連れて出かけたのです。しばらくして、メルディーちゃんとお友達がいないのに気づきました。急いで探し出しました。そのときには遅すぎて」
「なにがあったか詳しくは知らないようだね。メルディー、あんた覚えてるかい?」
「うん。男の人にヨーちゃんが連れていかれそうになって、止めようとして色々…」
「助けは呼ばなかったのかい?」
「呼んでも誰も来なかった」
「そうかい。で?友達は無事かい?」
「うん!メルディーが守ってあげたからね!」
「偉いねぇ。メルディーは優しくて強い子だ」
「えへへ。でも、その男の人逃しちゃった」
「あんたらが無事ならいい。さて、帰ろうか」
「うん。お腹すいた」
「あの、お詫びになにか」
「いいよ。これからこんなことが無いように努めな」
「はい。本当に申し訳ありませんでした!」
この時、メルディーがジュラの回復力を継いだことがわかった。それからが大変だった。
料理の手伝いで包丁で指切っても傷がないし、遊びに行って服だけボロボロで帰ってくるし。それを気持ち悪いというやつもいるし、面白がって暴力を振るってくるやつもいた。でも、メルディー本人はずっと笑ってた。ヘラヘラして、泣きたいはずなのにねぇ。私だったら仕返ししてやるのにやらないんだから大したもんだよ。
それからしばらくしてだよ。とうとう嫌になったんだろうねぇ。家に引きこもるようになったのさ。原因は日常的な他人からの暴力。傷がつかないとはいえ、痛みは残る。精神的なダメージは簡単に癒えるものじゃない。メルディーは壊れちまったのさ。
「今のママからは想像できないや」
「そりゃそうだろう。あの子は自分の弱みを絶対に見せないからねぇ」
「ちなみに連れて行こうとした男の人はどうなったの?」
「あたしが見つけ出して、ジュラがボコボコに」
「娘を傷つけるやつは俺が絶対に許さないからな」
「種族は?」
「獣族だったかな〜?弱くて覚えてないな」
獣族を圧倒する純血な吸血族か。あれ?私の家族って並外れた者の集まり?
「7歳に止められるくらいだから弱かったんだろうけど、それでもシルフィーの家族って強い人ばかりなんだね」
「きっと神様がやらかしちゃったの」
不確かなことだから否定できないなぁ。
「話を戻していいかい?」
「うん」
メルディーが壊れてから何年経ったか。部屋から出て来たんだよ。自分から。随分と大きくなっててねぇ。誰かと思ったよ。
「散歩してくる」
小さな声で元気なくて、かなり心配だったねぇ。
「あたしもついて行こうか?」
「いい。来なくていいから」
「そう。気をつけてね」
「わかってる。行ってきます」
それからはよく知らないが、バレットから聞いた話によると、メルディーは湖で死のうとしてたらしい。そうなるんじゃないかと心配してたのに、放っておくなんてひどい親だよあたしは。バレットがそこにいてよかったよ。それでバレットがね。
「なにやってんだ!死ぬぞ!」
「いや!離して!死にたいの!もう疲れたの!」
「なにがあったのかは知らないが、一旦落ち着け!話を聞いてやる!」
「いらない!そんなことしてあなたに利益なんてないじゃない!私はいらない存在なの!暴力振るわれて笑われて蔑んだ目で見られて、もういやよ!」
「親が悲しむだろ?」
「知らない!もう顔を見たのもいつだったかわからないし、声もかけてこないし、見捨てられたのよ!」
「だったらもうお前死んでるだろ!」
「生きてるわよ!ここに!ちゃんと存在してる!」
「見捨ててないじゃないか」
「それでも周りは変わらない!助けてもくれない!生きていても辛いだけよ!あなたには何もわからないわよ!」
「ああわからないよ。話してくれなきゃ何もわからない!だから落ち着いて話そう、な?」
「いや!離して!」
「はあ、しょうがない。ちょっと気を失うだけだ。おーい。頼む。どうにかして止めてくれ!」
『了解』
「なに、これ。頭が、クラクラ……す……る」
「ふう。やっと静かになった。ううーさーむい。こんなに冷たいと風邪ひくな」
「………う、ん。……は!ここは!?」
「お、起きたか?ごめんな。でも死なれちゃ困るからよ」
「なによ。なんでそんなに私に優しくするのよ」
「さあ、なんでだろうな」
「変な人。…ックシュン!」
「どした!?寒いか?ほらもっと火の近くに。そうだこれやるよ。羽織っておけ」
「いらない。こんな汗くさいの誰がックシュン」
「悪かったな!嫌ならいいが身体を冷やすな。これよかったら飲め。スープだ」
「あ、ありがと。うん、あったかい。優しい味」
「だろ?俺の作れる料理の中で1番うまいやつだ」
「これだけしか作れないんじゃなくて?」
「う、なぜそれを」
「図星なのね。ふふ、あなた面白い人ね。名前は?」
「俺はバレットだ」
「こんなとこでなにしてるの?」
「親父の仕事の手伝いだよ」
「どこにい…」
「まて質問が多い。あと俺からも聞かせろ。お前の名前はなんだ?」
「お前って失礼ね。私はメルディーよ」
「ほう。メルディーか。いい名前だな」
「ねぇバレット、あなたの父はどこにいるの?」
「ノクスだよ。だからここまで来たんじゃないか」
「知らないわよ。もしかしたら帰りかもしれないじゃない」
「まあ、そうかもな。でもこれから行くところだ」
「そう、頑張ってね」
「おう。ところでメルディーはなぜここに?」
「うーん。あまり話したくはないんだけど」
「嫌なら無理しなくていいぞ」
「ううん、話すわ。バレットなら話せる」
「お、おう」
「私ね……」
「そうだったのか。それにしても酷いやつらだな。こんなに可愛いのに」
「か、可愛い?私が?冗談でしょ?」
「冗談じゃないぞ。なんなら美しいでもいいぞ」
「本気で言ってる?軽いから嘘っぽいのよね」
「本当だって。メルディーの顔に傷が残らなくて良かったよ」
「だから言ったでしょ?傷はすぐに治るって」
「でも、傷跡が残る可能性だってあるだろ?」
「そこまでは考えてなかったわ」
「話戻すぞ。この件の解決策ってやり返すしかないんじゃないかな」
「他人を傷つけることはしたくないの」
「それだと、ずっとメルディーが辛いだけだ」
「わかってる。でも…」
「俺はメルディーにこれ以上辛い思いをさせたくない」
「え?」
「え?っじゃなくてさ。あ!良いこと思いついた」
「なによ」
「一緒にここから離れちまおうぜ?誰もメルディーのことを知らなければなにもして来ないだろ?」
「ちょっと待って。それって…」
「ああ、いや違うんだ!違くはないんだけど、その、ええっと。メルディーは家族と引っ越すわけにはいかないだろ?仕事上ノクスにいなきゃいけないから」
「うん」
「メルディー1人なら問題ないよな?」
「うん」
「でも女の子1人は危険だから俺も一緒にいてやろうって」
「うん」
「つまり、そのーなんだ?あれだよ。ほら、えっと」
「結婚、……すればいいの?」
「け、けけけけ結婚!?なにもそこまで言ってない。あ、でもそれだと嬉しいな、だがあれだ出会ったばかりで早すぎるっていうかまだお互い幼いというか」
「何歳以上で結婚できるとか決まってないよ?」
「知識が足りなさすぎるだろ?経験とか」
「………!」
「あー違うぞ。今のはそういう意味じゃない!顔を赤くしないで!違うから」
「わかってる。世間的にだよね。引きこもってたわけだしね。あはは」
「そうそう」
「大丈夫なんとかなるよ!」
「両親と会ってもいないしね。ってなんで結婚する流れになってるんだ?」
「もういいじゃん。しちゃおうよ、結婚」
「絶対ビックリするよ」
「いいんじゃない?」
「いいのかな?」
その後帰ってきたメルディーはあたしらの知らない男を連れてきて「この人と結婚するー」って言って、あ最初に言ったとこに戻るなこれ。
ビックリしたさ。暗い顔で出て行った娘が満面の笑みで男を連れて帰ってくるんだから。当然ジュラは反対するし、そりゃあ、あたしだって反対だったよ?でも娘の恩人だってわかったらいいかなってなるじゃん。まあ、そのあとなんやかんやで今に至るわけよ。
「ふーん」
なんだろう。すごくテキトーな家族じゃないかな?これが普通なのかな?セラは、苦笑いしてる。リリィは、寝てる!?老いると話が長くなるって言ってたなあ。
「誰が年寄りだい?」
「なにもいってないよ?」
「そうかい?目がそういってたよ」
「いってないいってない」
なんでわかったの?あれかな?目は口ほどに物を言うってやつかな?そんなに目に表れてたかな?
「とまあそんなとこかねぇ」
「話は終わったか?ばあさん」
「誰がばあさんだ!」
「ちょ、蹴るな。さっき折ったとこ蹴るな!」
「それでだ。あたしらで話したんだけど、一緒に暮らさないかい?ずっと2人だけでいるけど飽きるし静かで寂しくなるのさ」
「私は構わないけど、ママがなんていうか」
「あの娘なら許してくれるさ。今もそこで聞いてるからね。なあ?」
『なんでバレてるの?』
「あんたね、それ教えたの誰だと思ってんのよ」
『お母さんです』
「よろしい」
『お母さんたちと離れたかった訳ではないからいつでも来てよかったんだけど』
「そうならそうと言っとくれよ」
『一緒に住んでも構わないよ』
「じゃあ、近いうちにそっちに移るよ。楽しみにしてなね」
『バレットにも言っとく』
「それじゃまた今度」
うんやっぱりこうなったか。これで話は終わりかな?
「お、終わったな。次はこっちの話を…」
「さて、ご飯にしようかね。あんたら手伝ってくれないかい?」
「いいよ」
「わかりました」
「スゥー、スゥー……うんん。……」
「え、扱い酷くない?骨折られて治しただけじゃん。話させてよー」
「あんたの話は面白くないから、皆寝ちまうよ」
「んなわけないだろ!俺だって…」
「あ、卵がない。買ってきてー」
「ああそうですか。行きますよ。どうせ俺なんて」
「5分以内で帰ってきたら良いことしてあ・げ・る」
「行ってきまあーーーーす!」
「ほんと、単純なんだから」
「なにしてあげるの?」
「うーん、なににしようかねぇ」
「膝枕?」
「あれ結構痺れてきつい」
「耳かきとかは?」
「自分でやれ」
「えっと、き、キスとか?」
「毎日やってるよ」
「じ、じゃあ…」
「おっと、それ以上はいけないよ?」
「まだなにもいってないよ」
「言いたいことはわかる。だから言わなくていい」
「なにするか決まったの?」
「プロレスでもしてあげようかねぇ」
「ぷ、プロレス!?プロレスってあの?」
「プロレスって言ったら1つしかないでしょ」
「動けるの?」
「あたしを甘くみないことだね。そもそも動かなかったら普段、殴りも蹴りもしないよ」
「そっか」
その後私たちは日が昇ってから寝ようとした。実際寝られたかどうかは、ね?隣の部屋から激しい音と悲鳴が聞こえたから。おじいちゃんの悲鳴がだんだん喜んでるように聞こえたのは私だけかな?
やあ皆、元気?私だよ。今回は短めでと言われたからね。今回はメルディーの昔話だったけど、その中で出てくる湖、もうないんだ。地竜が飲み干したって言われてる。ね?短いでしょ?私頑張ったんだよ。でね、その地竜がね……あ、時間?そっかぁ残念。じゃ、また次回でね。




