夜の都
やっと2つ目の都です。寄り道しすぎたなあ。
「静かだね」
「そうだね」
「だれもいないの」
風を受けて進む船で東の都を出て次の目的地、北の都・ノクスに到着したんだけど……。
『当然ダ。ココハ通称、夜の都と言ワレテイル。昼ニ活動シテイルナンテ事ハナイ』
『主ニ吸血族ノ日光ニ弱イ者、獣族ノ夜行種、他ニモイナクハナイデス。イルトシテモ、ココデノ生活ニ溶ケ込ンデイルノデショウ』
「えっと、じゃあ夜までどうすればいいの?」
「ご心配なくぅ。昼でもちゃんと案内できますよぉ」
「うわあああぁぁぁ!」
どこから出て来た!?全然気づかなかった。足音も匂いもしなかった。どういうこと?
「驚かせてしまいましたぁ。申し遅れましたぁ。私ニュクスという者ですぅ。ノクスでは珍しい昼の案内人なのですぅ」
「男?」
「いえ、どこからどう見ても女ですよぉ」
そう言うけど、中性的な顔、胸はペタン、髪は短い、服装は男物。どう見ても男にしか見えない。
「疑ってますかぁ?仕方ないですねぇ。特別ですよぉ」
そう言うとニュクスは服を脱ぎ始めた。
「待って!ストップ、ストップ!わかったから脱ごうとしないで!」
「あなた方以外だれもいませんしぃ、別に良いかと思いましてぇ」
「そうだとしても外で脱がないでしょ!」
「どの口が言ってるのかな?」
「う、セラ、あれは昔の事だよ?」
「今でも時々や…」
「うわー!わー!きこえないー!」
「なんでニュクスは脱ぎたがるの?」
リリィ、それは聞いてはいけない気がするよ。
「なんでと言われましてもぉ。なんかぁ、興奮するじゃないですかぁ。もしかしたら誰かに見られてるんじゃないかなぁ。むしろ見せたらどうなるのかなぁ。そう考えるとぉ、なんだか身体が熱くなってくるのですよぉ」
やばい、これは露出趣味の持ち主。気づいたら全裸もあり得る、かも。
「まぁ、仕事中はぁやりませんけどぉ」
「そういう問題じゃないと思うよ」
「他にも案内人はいないのですか?」
「いますよぉ。でもぉ、他の人を案内中なのですよぉ」
「そうですか。……ねえシルフィー、用事があったよね?」
「え?ああ、うん。あったねえ」
「それじゃ、私たちはこれで。何かあったら聞きに来ますね」
「そうですかぁ。自分たちだけで歩くのも楽しみの1つですよぉ。夜はノクスの中心にいますのでぇ〜」
セラよくやった。実際に用事はあった。嘘ではない。
移動中、ママから影の遣いが来たのだ。
『そろそろ北の都に行くころだと思って、1つ伝えておきたいの』
「伝えて、おき…たいこと?」
『ええ、北の都に私の両親、つまりシルフィーの祖父母にあたる人が住んでるわ。よかったら探してみて』
「私、うぷ。おじいちゃんと、おばあちゃんの顔…覚えて、ない…んだけど」
『名前はジュラとマーレイ。祖父がジュラで祖母がマーレイよ』
「名前だけで…探せ、と?」
『着いたら向こうから寄ってくるんじゃない?孫の顔と匂いは何千キロ離れていてもわかるぞー!って言ってたし』
「怖いね、うぷ」
『シルフィー、まさか酔ってるの?』
「うん」
『船に弱いのね。乗せたことないから知らなかったわ』
「うぅ、私も…初めてだよ」
『まあ、頑張りなさい』
バサッバサッ………。
「はぁ。探したくない」
「探さなくても来ちゃうんでしょ?仕方ないわよ」
「探すとしても人がいないの」
「しょうがない。宿見つけよう」
「宿探し。手分けしましようか」
「5分後にここに集合なの」
「了解」
宿にて。
「疲れたー」
「圧倒的に宿が少ないわね」
「広すぎ、なの」
レインの2倍はあるだろう。そして宿が少ない。つまり、5分じゃ絞れなかった。宿を全て探し出し、値段を比べて、最安値かつ状態の良い宿に行くのがいつもの流れ。ニュクスに聞けば早かったのかな?
「夜まで暇だね」
「疲れたから私は寝るわ」
「リリィはお風呂行くの」
「一緒に入ろうよ」
「シルフィーも入るの?」
「他にやる事ないし」
まだまだ日は暮れないし、探しても起きてるかわからないし。こんなに暇なのは初めてだ。
お風呂から上がって、そのまま夜まで寝ていた。ノクスの人々はこれからが活動時間。静かだった都が突然賑やかになったのだ。
「昼と夜で大きく違うね」
「月の光だけでよく活動できるわね」
『ココニ住ム者達ハ暗闇デモ昼間ノヨウニ見エテイル。シルフィーノヨウニナ』
「リリィは見えてるの?」
「気配なら感じるの。避けるくらいはできるの」
「リリィって、なんかすごいよね」
「見えてるわけじゃないんだよね」
「行動は難しくなるね」
「そんなことないと思いますよぉ〜」
「きゃあ!ニュクスさん!?驚かさないでください!」
窓から顔を出してきたニュクス。本当に気配がない。
「失礼しましたぁ」
「何しにきたの?よくここだってわかったね」
「皆さんの案内をと思いましてぇ。ちなみに勘ですぅ」
「で?行動が難しくないとは?」
「はいぃ。ノクスの水路には夜間に光る石が沈んでいますぅ。そしてぇ、こちらに光る石を用意しましたぁ」
「おお〜。そんなに眩しくない」
ピカー!ってならないみたい。ぼや〜って感じ。
「住民のことを考慮した結果ですぅ」
「これ後で返すね」
「いえいえ、差し上げますぅ。この石ぃ、実は地竜からもらっているものでしてぇ。いっぱいあるのですよぉ」
「地竜が近くにいるの?」
「はいぃ。ここから南に行くといますぅ」
「へぇー。今度探してみよう」
「ではぁ、私はこれでぇ」
「ありがとね」
窓から帰っていった。ここ確か3階だったような。まあいいか。
「行こうか」
「うん」
「ノクス探索なの!」
「娯楽施設が多いね」
「酒場もいっぱい」
「露出度の高いお姉さんもいっぱいなの」
「そこは見なくてもいいと思うよ」
確かにどこ見てもいるけど。
「ねえ、シルフィー。あそこ」
「ん?なになに?あ」
セラの指差す方向に目を向けると、見覚えのある看板が見えた。
「なんでここにもいるんだろう」
「分身してるんじゃない?」
と話しながら前を通り過ぎ……。
バタン!
「どこだ!どこにいる!」
中から1人の男性が出てきた。
「おい!本当に店の前にいるんだよな?」
「もちろん。僕は嘘をつかない。3人組で歩いてるよ」
「ちょっと、いきなり飛び出さなくてもいいでしょう」
「なに言ってんだ!行っちまったらどうすんだ!」
「知るかい。だいたいあんたは顔と匂いは覚えてんじゃないのかい?」
「バカ、昔の顔と今の顔は全然違うだろ!きっとえらい美人になってるに違いねえ」
なんだろう。会話の内容がママの話で聞いたのと似てる部分がある。
「匂いは変わらないのかい?」
「匂いは変わらないとは限ら、………」
「どうしたんだい。急に黙って」
「静かに!今、俺の鼻にスッときた。間違いねえ。あっちだ!」
「ちょい待ちなったら。あーもう面倒だねぇ」
こっちに来る。よく見ると獣族じゃない。なんで嗅覚が発達してるんだろう。いやいや、そうじゃなくて。
「ねえ、私思うんだけどさ。あの人…」
「奇遇だね。私もだよ」
「リリィもそう思うの」
男性は私たちの目の前で止まり、ガシッと私の肩を掴んだ。
「おまえだ!」
「誰ですか?人違いではないですか?」
「いいや、俺の鼻に狂いわねえ。そしてこの目も狂ってねえ」
「いやいや、私顔見せてないですし」
「いーや、俺は正しい!」
「なんで自信満々なんですか!」
「そこまでにしな!」ガン!
男性の後ろから、追いついた女性が踵落としを頭に直撃させた。
「ってーな!なにすんだ!」
「いきなり女性に迫るなんて気持ち悪いんだよ!ごめんね、うちの夫が迷惑かけて」
「いえ、大丈夫です。それより、頭大丈夫ですか?」
「心配ないよ。こいつの回復力は異常なんだ」
うん、絶対あれだ。ママの言ってた人だ。
「俺は一刻も早く孫に会いたいんだよ!」
「会う前に昇天させてあげようか?」
「あのー。そのお孫さんって」
「ああ、俺の可愛い可愛い孫のことか?名前はな、シルフィーってんだ」
「娘からそろそろ着くと連絡があってね」
やっぱり。祖父母だ。見た目が若いんだけど。30代くらいにしか見えない。しわが少ないし、衰えてないんじゃない?
「そのシルフィーは私です。ううん、私だよ。おじいちゃん、おばあちゃん」
「ほらな、俺が正しかっただろ、ってえぇぇぇ!?」
「なんであんたが驚いてんだい。見りゃわかるだろ」
「だって、想像より美人で。うぅ、もう可愛いじゃねえ。美しい!」
「だから気持ち悪いって言ってんだよ!」バシ!
「痛い!なにもビンタしなくても」
話が進まない。
「話したいことがたくさんあるんだ。うちに案内するよ」
「わかった」
「2人も招待するよ」
「ありがとうございます」
「ありがとうございますなの」
「というわけで、ママもパパも元気だよ」
「そうかい。元気にやってんのね」
「あいつらしいな」
「ねえ、おじいちゃんたちは何歳なの?」
「お?それを聞くか。当ててみな」
「う〜んとねぇ。70!」
「ブッブー。全然違うぞ」
「当たるわけないじゃない。ただでさえ見た目と年齢が違いすぎるってのに」
「いいじゃん。こういうの定番だろ?」
「女子ならね」
「わー!わかったわかった!わかったから殴らないでくれ」
「で何歳なの?」
「121歳」
「ええー!」
「あたしはこいつより年下だよ」
「ああずるいぞ!」
「ああん?」
「いえなんでもないです」
と終始このテンションで会話が続いた。
「しかし、あれだな。俺らの血からよくもまあこんな美人が生まれたもんだ」
「なんだい?あたしに対する皮肉かい?」
「違う!喜びのあまりつい出ちまったやつだ」
「内容否定にはなってないね。やっぱり皮肉かい」
「いやー!ギブギブ!折れちゃうから!それ以上は逝っちゃうから!」
「腕の1本くらい大したことないさ」ボキ!
「ぎゃあああぁぁ!」
「さて、こいつが芸を披露してる間に続けるか」
「なにを?」
「これからのことさ」
「これから?私はまだ旅するよ」
「旅を終えた後だよ。どうだい?家族で一緒に暮らさないかい?」
「それって」
「あたしたちがメルディーの方に行っても、メルディーがあたしたちの方に来ても、どちらでもいい。ただ一緒に暮らさないかって言ってるのさ」
「でも、ママは色々あってあの場所に行ったんじゃ」
「はあ、なんだい。あいつ正確に話してないのかい。情けない。そうだね、昔話でもしようか。メルディーが離れて暮らす理由も含めてね」
やあやあ、元気だった?私だよ。やっとノクスに着いたね。ざっくりとノクスについて話そうか。ノクスは娯楽で成り立っている都なんだ。そこらへんで賭けが行われるし、ヴェルノが好きなゲームが毎日行われている。世界では色んな呼び方があるんだよ。お金の都、娯楽天国、ノクスの特徴そのまま言ってるだけなんだけどね。そうそう、吸血族が血を賭けてたのには驚いたよ。おっと、そろそろ時間だね。それじゃあ、また次回。




