ゆるくいこう。ゆるく、ね。
前半シルフィー後半セラ視点です。最近気づいたことがありまして。この作品全然ゆるくない…。
さて、あれから1カ月ちょっとくらいかな?長いようで短い時間が過ぎた。私たちは今、東の端に位置する都にいるよ。名前はレイン。東の特徴をそのままとった名前だね。この大陸は十字の形だって言ったけど、十字の各先端に円の形をした都があるんだよね。そのうちの1つがここ、レインってわけだよ。
着いたのは1週間くらい前かな。体調も崩さず、事件に巻き込まれることもなく、ただひたすら歩く食べる寝るを繰り返して、気付いたら着いてたって感じ。で今はお店で3人雇ってもらって働いてる。やはり飲食店だね。慣れたものだよ。ちなみにグラントたちは情報収集のために精霊の集まる場所にちょいちょい遊びに行ってる。
「なあ、嬢ちゃんたちは滅多に遭遇しない海の生物の話は知ってるか?」
「いえ、聞いたことないです。どんなお話なのですか?」
突然喋り出す酔っ払いさん。今日はセラが相手をしている。つまり常連さんなのだ。この人は面倒で3人で順番に相手をしている。
「俺も見たこたぁねえんだがよ。でっかくて泳ぐだけで海が荒れるらしいんだよ」
「おっきいってどれくらいなんですか?」
「5メートルは余裕にあるって話だぜ。なんでも、霧の濃い朝に出るとか。あるいは夜中だったり」
「神出鬼没ってわけですね」
「俺の親友が言ってたんだがな。いっぺん見てみてえなぁ」
「海岸じゃ見えないんですか?」
「バカなこと言うなよ。泳ぐだけで海が荒れるんだぜ?そんなのが海岸近くを泳いでみろ。海沿いの家がみんなやられちまうよ」
「てことはその親友の方は漁師か何かで?」
「ああ、船で出てった先にたまたまいて、ひっくり返っちまうとこだったんだと」
「そうなんですか〜」
「嬢ちゃん人魚族だろ?だから泳いでたら見つかるんじゃねえかなってよ」
「滅多に遭遇しないのですか。見てみたいです!仕事が終わったらみんなに相談してみようかな」
「ははは、そいつはいい!なんかあったら聞いてやるぜ」
「その時はお願いしますね」
盛り上がってるなぁ。
「リリィこれ4番テーブルね」
「わかりました!なの」
リリィはずっと張り切ってるから力の抜き方でも教えてあげよう。いつか倒れるやつだから早めに対処しておかないと。
仕事が終わって宿でくつろいでレッツお風呂。
「ねえシルフィー、あの男の人の話本当かな?」
例の生物についてだろうか。セラから言ってくるなんて珍しい。
「うんとねぇ。そうだなぁ〜、嘘ではないと思うよ。実際見た人がいるみたいだし。なにより目の輝きが他と違ったからね。いるんだろうなぁ〜」
「やっぱり?見られるんだったら見たいよね」
「セラってそういうの聞くと興奮するタイプ?」
「うん、ちょっとね。でも私が行けてもシルフィーたちは行けないでしょ?船を借りられるかはわからないし」
「セラが会えたらそれでいいと思うけど」
「でもその間暇でしょ?」
「リリィがいるから暇ではないと思うけど」
もう、行きたいならストレートに言えばいいのに。でもでもって、うずうずしながら言われるとさ。行ってきなよって言うしかないじゃん。
「シルフィーも見たいでしょ?」
「見たいけどあっちが近づけないんじゃ、ねぇ」
「会えたら頼んでみようかな」
「あのー、もしもし?セラ姉?」
「ん?なに?」
なん、だと!?セラ姉に反応しない!?これはもう行かせるしかない。行って満足してもらうしかない。
「明日は休みだしさ。行ってきなよ。私たちは大丈夫だから」
「でも…」
「でもじゃないよ。たまにはさ、好きなことやらせてあげたいのよ」
「リリィも大丈夫だよ。セラ姉、見たいでしょ?」
「うん、わかった。ありがとう」
まあ、行っても会えるかわからないんだけどね。こんなにも目をキラキラさせたセラを見たのは初めてだよ。
「よお!いつもの嬢ちゃんたちじゃねえか。どうした?今日は休みか?」
「はい。あの、聞きたいことがあるんですけど」
「聞きたいこと?あれか?昨日のやつか?」
酔ってたのに記憶があるのはすごいと思うよ。
「詳しいことは奴に聞かないとわかんねえな」
「その友人に会わせてください」
「ん?いいぞ。今日は家にいると思うからな。家まで案内しよう」
「お願いします」
「おーい!いるかー?俺だ!」
詐欺みたいな呼び出しだなぁ。
「いるからそんなに叫ぶな。近所迷惑だろうが」
「この人が?」
「ああ、こいつが出るとかなりの確率で会えるらしい」
「ん?見ない顔だな。どうしたんだ?浮気か?」
「冗談でもイラつくからやめろよ。俺がよく通ってる店で最近働いてるんだよ」
「ほう。最近誘ってくれないと思ったら、こんなに可愛い娘たちの存在を俺に隠していたってわけか」
「違う!お前が忙しかっただけだろうが!」
「まあ、そうなんだがな。で?来た理由はあれだろ?」
「話が早くて助かる。立ち話じゃ長いから中で話そうぜ」
「ここ、俺の家なんだが。まあいいか」
「ほら、嬢ちゃんたち入んなよ」
「は、はい」
「お邪魔しまーす」
「おじゃましますなの」
外から見ても大きい家。お金持ちかな?
「さて、あいつと会える場所だっけか?」
「そうです」
「うーん、こことは断言できないが今までに見た場所を書き出していこうか」
そういって地図に丸をつけていく。
「この丸が多く重なるところが、よくいる場所なのかもな」
「相手と話はできないのですか?」
「できたら苦労しないな」
「そうですか。では、この丸の範囲全部回ってみますね」
「おいおい、この地図の縮尺を理解して言ってるのか?全部って何百キロだぞ」
「問題ありません。お父さんは1日何千キロ泳いだことがあります」
「人魚族の体力は無尽蔵かよ」
「いえいえ、潮の流れに乗れば休みますよ」
「潮の流れか。俺ら漁師の知識は人魚族にとって当たり前なんだな」
「そうですね。ずっと水の中で暮らす人もいますから」
「会えたら注意しろよ。50メートルは軽くあるから」
「あれ?5メートルじゃなかったのか?」
「どこで聞き間違えてんだ!見えるだけであんなでかさ、5メートルなわけがねえ」
「それは楽しみです!」
「お、おう。楽しそうだな。で?今から行くのか?」
「はい!行ってきます」
過去最高にワクワクしてる。もう泳ぎたくてしょうがないみたい。まあ、ずっと水路をゆっくり泳いでたから、ストレス溜まるよね。
「色々と教えていただきありがとうございました」
「気をつけてな。会えたら土産話を聞かせてくれ」
わたしもついて行こうかな。いやいや、私が行けてもリリィは行けないよ。大人しくのんびり都の散策でもしてよう。
「それじゃ、行ってくるね」
「いってらっしゃい」
「気をつけてなの」
「日が暮れるまでには帰ってくるよ」
「うん、迎えにいく」
そういうとセラは今までにないくらいのスピードで泳いでいった。あの筋肉の父親の娘だから、見た目細くても力はそれなりなんだろうね。
「さて、私たちも行こうか」
「どこいくの?」
「目的はないけど、てきとーに歩いてここの雰囲気を楽しむ。行きたいとこある?」
「食べ歩きとかしてみたいの」
「食べ歩きか、いいね。じゃグラント、案内よろしく」
『言ウト思ッタ』
「詳しいでしょ?」
『詳シイトイウカナントイウカ、精霊ノ間デ話題ニナッテタ店ナラ』
「そこでよろしく」
案内されたのは魚料理専門の店。
「なんで精霊の間で話題に?」
『料理ニ添エラレル木ノ実ガ絶品ダトカ』
「ああ、人は飾りとしか思わないけど食べたら美味しかった的なやつね」
『ソノ美味シサヲ知ッテイルノハ森霊族クライ。ツマリ、調理シテイルノハ森霊族ダロウ』
「まあ、入ればわかるでしょ」
食べ歩きではないような。ただグラントが食べたいだけでは?
「美味しそうな匂いなの」
「とりあえず1軒目はここで」
このあと5軒目で限界を迎えた。
「うーん、見つからないなぁ」
丸の多いところから順に回ってるけど全然見当たらない。魚はいっぱいいるけど。もしかしてもっと深いとこにいるとか?
「よう。こんなとこで何してんだ?」
人魚族だ。この人は漁をしているのだろうか。
「このあたりで大きな生き物がいるらしいんですけど。なにか知ってますか?」
「そんなの探してんのか。こんな浅いとこにいるわけないだろ」
「もっと深いとこですかね?」
「そうだな。でも、やめといたほうがいいぞ」
「どうしてですか?」
「奴は気に入った者としか話さないし会わない。気に入られなかった者は……」
「どうなるんですか?」
「最悪、命を取られる」
「つまり気に入ってもらえばいいんですね?」
「あ、ああそうだ」
「居場所とかわかります?」
「お前さん地図あるか?」
「ここに」
親切な人はある1点を指で指した。そこはこの海域で最も深い場所。深海魚でなければ誰も近づけない。
「お前さん見たところ陸の暮らしが長いだろ。水圧に耐えられるのか?」
「限界まで潜って、ダメだったら別の方法で」
「死ぬんじゃないぞ」
「大丈夫ですよ。会って話すだけですから」
「どうしよう。底が見えない」
水深何メートルあるかわからないけど、これは……でも行ってみよう。光が届かないから感覚で行くしかなさそう。
ちゃんとまっすぐ下に進んでる?景色がわからないからどこまで行ったかわからない。
「ん?なにか光って………2つ?」
小さく紅い光が2つ見える。あれが言ってたやつ?
全然近づけない。というより進んでる?でも泳いでる感覚はあるし、なんで〜。
『帰りなさい。ここは我の縄張りだ。帰らないというのなら…』
うわ!いきなり目の前に…。
『喰うぞ!』
「帰らないし食べられたくありません」
『脅しが効かぬとは、肝が据わっておるな。名は何という』
「セラです。セラ・スィ・エルーナ」
『我はサファー・イスク・ドラゴ。この海域の主だ』
「ドラゴってことは竜族ですか?」
『そうだな。この海域とは言ったが北から東の海だ』
暗くてよく見えないけど、竜族。初めて会った。全体を見てみたいな。
「浅いとこには行かないのですか?」
『行ってもよい。だが、ついて来れるか?』
「行けますね」
『面白い娘だ。気に入った。特別に角につかまらせてやろう』
「いいんですか?」
『片方折れているがな。問題ない』
手探りで角を見つける。大きくてつかまっていられるか不安だったり。
『では、行くぞ!』
グオォオォォォォ!
水を押しのけてまっすぐ、すごいスピードで上昇していく。あ、水圧は問題ないよ。
『ハハハハハ!これはいつ以来だろうか!角に誰かが触るという感触。暴れ回っていた頃を思い出す!』
楽しそうだけど、こっちは必死です。今にも振り落とされそうです。
『フン、一瞬でつまらんな。もっと長時間味わっていたいものだ。だが、こんな巨体ではもう無理だな』
ああ、頭がグワングワンしてる。しばらく動けないかも。
『なんだ?もうへばっているのか?あいつはもっと頑張っていたぞ』
「あいつ?」
『昔の話だ。それで?娘よ。どうだ?我を見た感想は』
「え?ああ、ちょっと待ってください。ぐるっと見てきますから」
見てきたけど50メートルなんてものではなかったです。
「竜族って翼があってそれで泳いでるイメージがありましたが、ないんですね」
『竜族は住む環境に合わせて成長していくからな』
「長く太い胴体、表面は硬くツヤツヤした鱗で覆われていますが、これでどうやって泳ぐのでしょう」
『鱗と鱗の間はすこし空間がある。どれだけ動いても鱗が刺さることもないし、割れることもない』
「その角は誰に?」
『とある人魚族の男だ。強かったぞ。拳で一発殴ってへし折ってな。元気にしてるだろうか』
「なぜそんなことに?」
『1つは我の縄張りで好き勝手やったこと。もう1つは向こうから挑んできた。とても自由なやつだった』
「そんな人もいるんですね」
『まったくだ。セラといったか?なぜここまで来たのだ?』
「とある人に珍しいものが見られると言われて来ました」
『こんな遠くまでか。あいつと似ているな』
さっきからあいつって誰なんだろう。
「竜族ってことは、ブレスと呼ばれるものが出せるのですよね?」
『うむ。もしかして、もしかしなくても見たいと?』
「はい!」
『できぬな。今この時代、争いはない。下手に放つと大変なことになる』
「上に撃てばいいじゃないですか」
『鬼か!上、つまり空に向かって撃てと?そんなことしたら、空を統べる竜族にやられる』
「そうなんですか。無理言ってすみません」
『しかし、セラとやらも大変だな』
「何がです?」
『その首の穴。吸血によるものであろう。事情はどうであれ血を抜かないと血管が破裂してしまうからな』
「適度に抜いてるから大丈夫です」
『そうか。用が済んだなら帰りなさい。日も暮れる。我は海岸に近づけないからな。送ることはできん』
「はい、今日はありがとうございました」
『おっと、忘れるところだった。セラよ、剥がれかけてる鱗を取ってくれ』
「これですね。よっと」
ベリベリ!
『持って帰るといい。高く売れるらしいからな。欠片は持っておきなさい。きっといいことがある』
「はい、ありがとうございます」
『元気でな』
「サファーさんもお元気で」
『あの脳筋がねぇ。いい家庭を築いたな。次会う時は家族でも連れてこい』
あの後、シルフィーたちと合流したのは日が暮れてから。すごく怒られました。心配かけてごめんねシルフィー、リリィ。
はーい、前回からここにいる私だよ。今回はね竜族が出たってことで、すこし説明を。竜族のドラゴン型は翼、鱗、飛ぶってイメージが強いらしいけど、実際は翼のない4足歩行の地竜。翼のない2本の手、泳ぐのが特徴の水竜。翼あり4足歩行の飛竜の3種なんだ。それぞれの上に位置する数は地竜2、水竜2、飛竜1となっているよ。他にも数はたくさんいるよ。まあ、このくらいかな。それじゃ、また次回ってことで。




