帰り道
バンッ!!
「青児!一緒に帰ろ!」
ドアをおもいっきり開けて入ってきたのは、春波マリアだ。
いつもハキハキと笑顔を絶やさない。スタイルも申し分ない。
細長いツインテールをヒラヒラさせながら俺の前まで駆けてきた。
これだけ見ればめちゃくちゃかわいいのだが…
「回りを見て」
「え?」
そう、特進である俺らは、授業が一時間多いから、一般とは帰る時間が違うのだ。
「すいませんでした~」
テヘッいった顔つきで教室から出ていった。
俺はみんなに睨まれる…。恥ずかしい。とんだ災難だ。
このあほっぷりと騒がしさが無ければとっくに好きになっていた。
授業が終わって、春波は玄関でうじうじしていた。
「遅いっ!!」
「はいはい、悪かった悪かった。」
「適当にあしらうな~‼」
モンハンのリアクションみたいに足踏みする。スカートが短いからパンツ見えそう。
授業なんだから仕方ないとかいったらめんどくさいだろうから、謝ったら今度はあしらうなだとよ。
全くどっちでもめんどくせえよ。
なんて返せばいいんだか。コメントが欲しいくらいだ。
なんだかんだこいつと帰るのは初めてかもしれない。
普通アタックするときは最初に一緒に帰る的なことしない?
春波とは、昼休みくらいしか一緒にいなかった。
ということで
「なんで、今更?」
一緒に帰るとは恥ずかしくて言えなかった。
「そ、それは…
と、友達と帰ってたから…今日はみんな用事があるからって…」
手をすりすりしながら言った。
まあ、そんなことはどうでもいい。
俺ははたから見れば、美少女と下校するリア充男子だ。
その高揚感を抱きながら一緒に歩き始めた。
「家はどこなの?」
俺が聞くと
「代々木上原。青児は?」
「反対側。経堂」
俺の学校は小田急線を使う生徒が多い。
じゃあ駅までか。
「じゃあ駅までか」
同じことを思ってた。
違いは声が出たかでないか。
時間は6時前。そろそろ冬にはいるので辺りは暗くなってきていた。
部活帰りの中学生が通りかかって、ふと思った。
「転校してから何してたの?」
きょとん、とした顔で上を向いていた。
「えっとね、それは…」
なぜだろう、一年しか前じゃないのに思い出せないのか?
「あ、部活!私、陸上部だったの!!」
え、じゃあなんで
「でも、怪我しちゃって。それ以来陸上は…。挫折ってやつかな…」
そうだったのか。春波は手をすりすりしていた。
「この学校に来たのは、なんで?」
「青児がいたから…。小学校の時に果たせなかった初恋を、実らせたかった。私、パパの転勤で転校したんだけど、パパに無理いって独り暮らしを。」
「そうなのか」
すごいな
純粋にそう思った。俺は初恋相手がいなくなったら、すぐに別の人に乗り換えた。そんな最低な野郎にとって、ここまで前向きな子は羨ましかった。
ここまでの覚悟でアタックしてる子に、俺は真剣に答えてやらなきゃいけない。
そう思った。
「待つよ。俺を落とすまで。」
昔モテた俺は、若干上から目線になってしまう。
こんな自分が馬鹿らしい。
しかし、横にいる少女は目を輝かせて
小走りで俺の目の前に立ち顔を覗かせた。
「見てなさい‼すーぐに落としてやるんだから‼」
その時の笑顔は自信に満ちあふれた、眩しすぎる笑顔だった。