97話 罪は私を緋色に染めて20
「宰相、何故このような事をした?」
初撃を防がれ、私は一言問いかける、他の尚書とマーガレットの前だからこその質問だ、そうでなければ問答無用で攻撃を続けている。
「それは、どの行為についてでしょうかな?」
私も宰相も冷静だが、お互いにいつでも攻撃を出来る状態だ。
「悪魔と契約した理由だ、そのような事をしなくても自らの意思を貫く事は出来るだろうに」
「貴女が居るからですよ、貴女の存在はこの国の為にならない、貴女の様な方が居ると女帝の権威が落ちるではないですか」
「それなら私に直接言えば良いだろうに、悪魔の力を借りる必要が何処にある?」
「貴女の様な化物を国から追い出すにはそれ以上の力が必要でしょう……まだ準備段階ではあったから、予定を早めなければならなかった」
……私が原因か、強すぎる者が国に居れば、王の威が揺らぐ、それを危惧したのか。
私が自らに反対した物を処刑、又は追放したのであれば、後々私を国から追い出す口実にもなる……恐らくそういう事だ。
「そうか、それなら私がこの国から出て行けば……お前は戦いを止めるか?」
背後の数人が息を呑むのが聞こえるが、私は自分の存在が邪魔になるのであれば、この国から去るのも構わない。
「……無理だ、力の代償は魂一つ、私が死なないのであれば、誰かが死ななければなるまい」
そう言って宰相は厚い上着の裏に隠していた刀を抜いて構える、そして悪魔の火をその刀に纏わせた。
「マーガレット、仲間を傷付ける事になってすまない」
本人には聞こえて居ないだろう呟きを漏らして、荊を自分の近くに六本出現させる。
……あまり数が多いと制御が難しい、また、自分の手の届く範囲外に出現させた荊を複雑に操るのはほぼ不可能でもある。
……ただ、遠距離に攻撃できない訳じゃない。
「食らえ」
左手を前に伸ばし、掌を上に向けて振り上げると、宰相が居る辺りの床から鋼の様に硬質化された荊が、鋭い筍の様に突き出して串刺しにしようとする。
宰相は瞬時に飛び上がり、天井の装飾を掴んでぶら下がる。
「……無駄だ」
維持しきれないので地面の荊は地面に潜るように消して、今度は天井から荊の槍を突き出す。
宰相は当然飛び降りるが、私の足元から出した六本の自在に操れる荊を伸ばす。
「【Fire of hell】」
荊は魔術で焼き払われた。
……小手調べは終わりだ。
「豊、全員を逃がせ」
「分かった」
素早く豊が氷の梯子を作り、窓から逃がす……宰相は止めない、当然の事だが。
豊も部屋から脱出して、私は宰相に手を差し伸べる。
「これが最後だ……もう止めないか?」
「いや、止める訳には行かない」
「わかった……さあ、やるか」
素早く荊の刀を作り、切りかかると宰相もそれに合わせて刀を振るう。
それを何度も攻撃を繰り返すと、宰相の動きが鈍くなってきた。
だが、加減はしない。
素早く後ろに下がって距離を取ると、今度は手を上から下に振り下ろす、それに連動して宰相が地面に叩き付けられる……理由は極細の荊を絡みつかせているのだ。
そして叩き付けられると同時に地面から荊の槍を生やし、それを全力で回避したら、今度は天井に向けて吹き飛ばす。
壁や床、天井に繰り返し叩き付け続けると、宰相は段々傷が増えてくる、何と言っても荊だから棘が食い込むのだ。
……やがて動かなくなり、荊から解放する。
「これで終わりだ」
私は罪が背中に這い上るのを感じながら最早丸太にしか見えない、巨大な荊の槍を作り出して射出した。




