95話 罪は私を緋色に染めて18
「……流石に再生したりはしないだろう」
燃えカスになったロボットから目を離さずに、そっと呟く。
いくら何でもこの状態から再生するような能力を持っては居ないと思うが、何らかの魔術が仕込まれている可能性はあった……自動発動の自爆が無くてよかった。
「金属を燃やすって……どんな火力?」
いつの間にか寝室から移動してきた豊が呟く。
「スチールウールが燃えるのと一緒」
「いや違うでしょ、あれは繊維だから空気に触れる面積が大きくて……ってそんな事は知ってるよね~」
「このロボットが最後に使おうとした攻撃の影響で壊れやすくなってたのが、ここまで壊れた原因だと思う」
「何しようとしたの?」
五行を均等に発動したうえで周囲の空間に作用し、空間内の物質の構成を分析してその構成そのものを崩壊させようとしていた……要するにだ。
「簡単に言うと原子分解」
「……食らったら死ぬ奴だ」
「最悪逃げるよ、無理だったら」
あんなのが量産されると面倒だ。
「ところでアレは何処から来たの?」
豊に言われて溜息を吐く、出来る限り放って置いて欲しかった相手が動いてることを思いだしたからだ。
「今私が味方している国と、その西にある戦ってる帝国の存在は豊も分かってるよね」
「うん」
「実はマーガレットの国と帝国の北の方にとても大きな国が一つある、規模は二つの国を足して二倍した程度の兵と、魔道技術もこのロボットが作れるぐらいには発展している」
「……どんな国なの?」
そこが一番の問題点だ、普通に研究者の集まったような国ならば、同盟なり不選協定なりと、やりようはある。
だが、あの国にはそんな事は通用しない。
「その国は聖神国と呼ばれている、名前から分かる通り、唯一神を崇拝する宗教国家だ」
「……うわぁ、宗教国家って下手すると、自分の被害とか全て無視して戦争を仕掛けたりするから厄介なんだよね」
「そうなんだよ、マーガレットも対策はしているけど、やたらと勢力が強いから危険なんだよ」
死地であっても撤退することなく、行軍を進めるような相手は厄介でしかない、そもそも相手の方の数が多いなら、いつかは物量で負けるのだから。
「なんで、攻めてきて無いの?」
「大義名分が無い……まあこれは私を引き入れた事が大義名分になりそうだけど、それよりも帝国との戦争が終結した直後の、両者が疲弊している所で漁夫の利を狙っている可能性が高いかな」
それが分かって居るから、帝国も被害を大きくしてまで攻めれないし、マーガレット側も大きく攻勢に出れない。
「……せこいね~」
今までの話を豊は一言でまとめてみせた。
「唯一神なんてそんな物だよ、人間に戦わせて自分は高見の見物を決め込んでるんだから」
『そのうえ、ダンジョンを絶対悪としてる割には、ダンジョンマスターを何人も囲んでるしね~』
「……アザトース、いつからそこに居た?」
「今来た」
……まあダンジョンの中で起きる事象なら、アザトースは監視できるようだから、その質問は無意味か。
「そしてアザトースは絶対悪と言われても仕方無いと思う」
「そりゃそうだよね~なんたって邪神様だもん」
「星華ちゃん、大丈夫なの?」
豊がアザトースを怖がるように抱き着いてくる。
「問題ない、アザトースは詰まらない事はしない、だから多少軽口を言おうが、殺されたりはしない」
「ザッツライト!その通り、そんじゃね~」
そう言って、いつもの如く転移で帰っていく……あれ、何しに来たんだ?
「まあ、あれの事はどうでも良い、それより聖神国に囲われたダンジョンマスターか……二人は思いつくな」
「そういえば居たね、『聖母』と『太陽の巫女』ってあだ名のが」
思い返してみると、あの学校ってキワモノ揃いだったんだなと思う、アザトースが集めたのだから当然と言えば当然なのだが。
まあ、男子に関しては、私も豊も覚える気が皆無だから分からないが、脅威となりそうなのはその辺だろう。
誰にでも優しいが、悪には厳しい『聖母』、太陽神に仕えながらも、唯一神を崇めていた『巫女』、ダンジョンマスターとなって、どのような力を得たのか知らないが、厄介である事に違いは無い。
「それでも、今はまだその時じゃない、取り敢えず、マーガレットの所に戻ろう……準備が整った」
「分かった、難しい話を考えるのは苦手だから、私は星華ちゃんに付いて行く」
会議室には武器の持ち込みが禁止になったので、ダンジョンメニューから掌に隠せる程度の大きさのジャックナイフを購入して豊に渡しておく。
自分の分の武器をどうしようかと悩んだが、荊があるから、持ち込むのは止めておいた。
「さあ、行こう」
……いい加減、あの宰相には身を引いてもらうとしよう。




