87話 罪は私を緋色に染めて10
ふと目が覚めると目の前に豊の寝顔がある、どうやら私が寝た後、一緒に寝ていたようだ。
うっかり鍵を掛けるのを忘れていたが、誰も侵入しては居ないようだ、もし侵入していたらその時点で目が覚めている。
……いやまて、私たちが入った時この部屋の扉の鍵は掛かっていた、そしてその鍵は私しか持って居ないから、外から開けるならピッキングするしか無いだろう、そこまでは良い、開ける事は私でも出来る、だが、ピッキングで鍵を閉めるのは無理だ。
となると侵入者は扉以外から入って逃げた事になる、それも誰にも気付かれずに。
扉を除いたこの部屋からの脱出口はただ一つ、窓だ。
豊を起こさないようにベットから降りて、窓から下を覗き見る。
「いったいどんな化物だ?」
窓の外側には装飾が施してあるが、そこには棘が仕込んであり、壁をよじ登ってもそこに手を掛ける事は出来ない。
……それ以上に壁は石造りであり、手を引っ掛けて上るのは私のような身体能力を持たない限り不可能だろう。
……そしてなにより、ここは地上四階なのだ。
一旦落ち着こうか。
この侵入を計画したのは宰相、それは間違いないだろう。
だが、侵入したのは別の存在だ、少なくとも宰相がこの部屋に侵入する事は出来ない。
別のダンジョンマスター……は違うな、可能ではあるだろうが、宰相との関係性が無い。
私の部屋の近くや、その窓の下の辺りをうろついても怪しまれないで、私の部屋に侵入できるとなると、碧火や橘花等だが、それを行う理由が無い、仮に命令されても断るだろう。
……となるとやはり奴か。
できれば信じたくはなかったが、可能性がある限り視野に入れなければならない。
豊には見せなかった手紙の裏にあった模様、それの持ち主を私は知っている。
髑髏の下に交差した二本の骨。
地獄の実力者、蠅の主バアル・ゼブブ、真の名を気高き主バアルゼブル。
なんで奴が、宰相みたいな小物を助けて居るんだよ。
……流石の私でも王の名を関するような相手と戦えるか分からない。
第一、奴は本来神なのだ。
悪魔として地獄に落とされなければ、今も人々に恵みをもたらす存在であったはずだ。
……アザトースはこの事を知っているのだろうか?
知らない筈は無い、その上で何も言わないという事は何をしても良いという事か。
ある程度の計画を纏めた上で、まだ寝ている豊に少し出てくると書置きを残し、ダンジョンへと向かう……この件はアザトースの協力が必要だ。
そしてあいつは必ず協力する、それがあいつの計画の内の筈だから。




