86話 罪は私を緋色に染めて9
「……星華ちゃん、ちょっと食べ過ぎじゃないかな~」
「そう?まだ入るけど」
「…………今日一日で餡団子十数本、大盛り肉丼一杯食べてるのに、その上ぜんざい二杯、おはぎ十個、その上蓬団子を十本も食べたら十分だと思うよ」
そうかな、私は結構食べても平気だからよく分からないけど、豊がそういうのならそうなのだろう。
というかよく覚えてるな、私自身自分が何を食べたかは覚えてるけど本数までは数えてないんだけど。
「私って普段食べといて、怪我とかしたら体にあるエネルギーを使ってじっと動かずに治すタイプなんだよね、主に体が」
「それってさ……野生動物の治し方だよね」
「うん」
別にいいじゃん、野生動物の治し方だって、人間だって国が無ければ犬猫と何ら変わりないんだから。
「……でも、あれは間違いかなぁ、結構そんな気がするんだけどな~」
「ん、なんのこと?」
声が漏れてたみたいだ。
「いや、宰相の事、花街での事件には関りがなさそうなんだよね」
「なんで?」
「あいつに身長180の知り合いが居ると思う?」
「別にいいんじゃないの?」
うん、まあそうなんだけど、何となく違う気がする。
なんというか、よく分からないんだけど少し変な感じがするんだ。
そもそも身長180とかが街を歩けば目立つのにその目撃情報が無いのがおかしい。
その上それが宰相と繋がってるならなおさら私の所に情報が入って来る筈だ。
だが、実際はそんな事は無く、手掛かりが掴めない。
「だから、普通なら関係が無いと判断する訳だけど、なんか引っ掛かるんだよ」
「なんだろね?」
それが分かったら苦労はしない。
「取り敢えず私の部屋に戻ろうか」
そう言って城の私室へと戻る。
私室の扉を開けて中を見ると足が止まった。
「うわぁ、やられたね」
「泥棒か、まあ重要な物は全てダンジョンに置いてあるから意味ないんだけど」
あちこちが荒らされ、紙が部屋中に散乱している。
「豊、片付け手伝って、あと、増えてるものが無いか確認して」
「無くなってる物じゃなくて?」
「そう、何か落としてないか、または何か手紙とかを残してる可能性もある」
そう答えて書類の回収を始める。
「魔術研究の書類とかなんで盗まれてないんだろ?」
「目的じゃ無いのと、多分理解出来ないんだろうね、それ主に魔道回路で元居た世界の回路技術を転用してるから、まあまあ難しいと思うよ」
そんなこんなで話しながら作業を進めると、一枚の手紙が出て来た。
そっと封を切って中を見ると、そこには真っ赤なインクで一行だけ書いてあった。
『これ以上手を出すな』
「……馬鹿馬鹿しい、そんなに邪魔されたくなかったら直接来ればいい」
そう呟いて手紙をランタンに放り込んで焼き捨てる。
ブブ…ブ
「窓の隙間から蠅が入ってるね」
「私がやるよ」
【氷霧】
氷点下の霧に包まれて蠅が落ちる。
それを紙ですくって窓の外に捨てると、私はベットに倒れこむ。
「豊、疲れた、肩揉んで」
「うん、いいよ」
豊のマッサージを受けて居ると、その心地よさに頭が回らず、やがて私は眠りの中に落ちて行った。




