83話 罪は私を緋色に染めて6
奴らがやって来る可能性が高いという一見の食い物屋に入って座敷に上がる。
「まだ、大丈夫みたいだね、少し食べながら待とうか」
「……私は十分だよ」
「それじゃ豊は飲み物だけで良いかな」
肉丼と二人分の飲み物を頼んで少し待つとたっぷりと盛られたそれが出て来た。
「……なんか予想以上」
「頼まなくてよかった」
別に山のようになってる訳じゃない、ただ、盛られている丼そのものがやたら大きいのだ。
勇気を出して一口食べる……とても美味しい。
油身が多く、癖も強い猪肉の薄切りだと思うのだが、香辛料の効いたタレで炒めてあり、ピリリとした辛みが食欲をそそる。
これは……多分だが山椒と生姜、あと少し八角も使って居ると思う。
それが肉本来の旨味と合わさってご飯が進む。
「一口食べて良い?」
「良いよ、もう一つ頼もうか?」
「それは無理」
私が美味しそうに食べていたからか、興味を持った豊に一口あげると目を丸くしている。
「たしかに美味しい」
「そうだね、香辛料が馴染みがある物ばかりだからそこも良いね」
量こそありはしたが、結構食べれる物で、直ぐに丼が空になる。
お茶を飲んで一息吐こうと言う所で、外から喧騒が聞こえてくる。
勘定を済ませて外に出ると数人の男達が暴れていた。
「そこの人、あれは何だ?」
それを遠巻きに見ていた一人の男に声を掛けると忌々しそうな答えが返ってくる。
「最近ここらで暴れている奴らの仲間だよ、あの店の態度が悪いと言って暴れ出したんだ」
「そうか」
一言だけ返すとその場へと進み出る。
「なんだお前は!」
怒鳴り声が聞こえるが興味は無い、が、答えてやってもいいか。
「私はニュクス・ナイトメモリー、この地を治める者の頼みによって貴様等を捕縛しに来た」
……半分嘘だが権限はある。
「ふざけるな、お前ら、こいつをやっちまうぞ!」
男の声に従って店の奥から数人が出てくる。
十人で全てか、刀を持って居るとは言っても大した事は無い、素手で十分か。
「好都合だ、纏めて来い」
素早く襲って来る、それでも私には非常に遅く感じられるのだが。
一人目は手刀で刀の腹を打って叩き折り、鳩尾に一撃入れて気絶させる。
次に切りかかって来た奴は足払いでこかした後、腹を踏みつけて気絶させる。
そのまま素早く二人を殴り倒し、一人の足の関節を外して、もう二人を投げで地面に叩き付ける。
逃げようとした二人は首をそれぞれの手で握り、気絶させる。
「さて、後はお前だけか」
「化物が」
「それがどうした」
ゆっくりと近づくと隠し持っていた短刀を突き立てて来たので半身になって躱し、右肩にそっと手を押し当てた。
「痛みで声も出ないか、仕方ないよね」
優しくそう囁いて更に左肩、腰、足の付け根にそっと触れる。
それが終わった瞬間そいつは崩れ落ちた。
「誰か警備を呼んでください」
私が声を掛けると見ていた内の数人が急いで走っていく。
到着した地下花街の警備に後は任せて茶屋で一休みする。
「あいつらから情報は出るかな?」
「まあ無理だろうね、あいつらは下っ端、重要な事は知らされてない」
誰かが上の方に居る者を雇ったのならば、それは下の者に依頼をし、それがまた下に依頼をするぐらいの事はあるだろう、中々黒幕までたどり着かない寸法だ。
そう説明するが、豊は興味なさそうだ。
「難しい事を考えるのは星華ちゃんに任せるよ、それより最後のは何したの?関節は外れてなかったけど」
「あれは関節をずらした、中途半端にずれてるから痛いよ」
「ああ、そう、あんまり想像したくない」
まあ私も食らいたくはない。
「それで次は何処に?」
「城の書庫だね、一応誰でも入れるけど、貸し出しや持ち出しには厳しいから調べないとね……何が無くなったのかも気になるし」
「分かったよ」
お茶を飲んでから図書室に向かうとしよう。




