82話 罪は私を緋色に染めて5
「……おだんご美味しい」
「さっきも聞いたよそれ、まあ、ここの団子が美味しいのは分かるけどね」
そう言いながら私は抹茶が注がれた湯飲みを口に運ぶ……恐らくアザトースだろうが、この世界に抹茶がある事には感謝している、紅茶も好きではあるのだけど、やはり抹茶の味が恋しくなる時がある。
「私も抹茶は好きだから助かってるよ」
そういや豊って巫女なんだよな、普段の言動が全くそれっぽく無いから忘れそうになってたけど。
「神社だと、抹茶の方が飲む事多いの?」
興味本位で聞いてみると豊は首を傾げる。
「ん?いや、それは無いかな、この世界に来る前は基本麦茶だったし、神事だと御神酒がほとんどだし」
「ま、そんなものか」
「そうそう、形式なんか気にし過ぎたら出来る事も出来なくなるよ、稲荷神社が祀ってるのは私が持って居る神格と同じ宇迦之御魂神様、五穀豊穣の神だからね、恵みをもたらし、人々を救うのに形式なんか邪魔でしかないよ」
「…………」
「星華ちゃん、どうしたの?」
「たまには豊も良い事言うなーって」
「うわぁ、酷い、別に良いけど」
拗ねたようにそっぽを向く豊の頭を優しく撫でる。
「……でも、それだけじゃなくて、もし宇迦之御魂神と私が戦う事になったら豊はどうするのかなって思った」
「そりゃあ私は何時でも星華ちゃんの味方だよ」
「……ありがとう」
ひょいと豊を引っ張って正面から抱き締める。
「え、ちょっと、星華ちゃん何してるの?」
「ん~豊が可愛くってつい」
……嘘だ、本当の理由は絶対豊には言えない、嬉しくて思わず零れた涙を見せたくなかったなどとは。
「……でも、さっきはありがとね、星華ちゃん」
「豊、何かしたっけ」
「一番最初に呑む酒は私が作った物だって言ってくれたじゃん、あれ物凄くうれしかった」
言われてその事かと気付き、苦笑する。
「そんなつもりは無かったんだけど、気が付いたらついそう言ってた」
「うん、ありがと……失敗しないようにしないと」
「別にそんなに気を張らなくても良いよ、どうせ不老不死なんだから百年ぐらい待つし……そうか、不老不死なら物凄い長期熟成のお酒を自分で作れるのか」
「あ、そうだね、いつかやろうかな」
恐らくかなり先の事になるだろうが、楽しみがあればやる気も出るものだ。
「言っとくけど初めてのお酒はそこまで待つ気は無いからね」
「あはは、まあそうだよね」
「あと、米酢はお酒とは認めないよ」
「……失敗して酢にならないように気を付けるよ」
といっても失敗したらアザトースにでも呑ませるだけだ。
「全く、あの子達も大変そうだね」
店主が話しかけて来るので頷いておく。
「あの子達は何時も自分一人で解決したがる癖がある、だから、助けてやって欲しい」
「言われるまでも無い事です」
「そうか、それなら良かった、そろそろ奴らが来る時間帯だよ、気を付けて行って来なさい」
言われて時間が経っていた事に気付く。
「豊、行こうか」
「うん」
店主に代金を払って立ち上がる。
さて、そろそろ始めるとしようか。




