80話 罪は私を緋色に染めて3
「……井戸か、まあそうだろうと思っていたけどやっぱりか」
魔力的要素があるとはいえ、地下に街を作れる時点で地盤がしっかりしている事は確実だ。
実際この国の町は厚い岩の層の上に立っていて、その下に水脈は通っていない。
要するにこの辺を掘っても地下水が出る確率は殆どない。
そんな場所に井戸があるのだから、まあ何かの隠し通路だろうと思っていた。
「豊、行くよ」
そう言ってロープの強度を確かめると素早く飛び込み、地面にぶつかる直前にロープを強く掴んで、そっと地面に降りる。
「……星華ちゃん、流石にそれは危ないと思うよ」
そう言いながらロープを伝ってゆっくりと降りてくる豊に言葉を返す。
「私は大丈夫、豊も飛び降りたら良いよ、この井戸広いし、私が受け止めるから」
「いや、流石に怖いから」
そう言いながら豊が底に降りてくる。
それを待ってから井戸の底から少し横に伸びる通路を進み、豊が追いつくのを確認してからそこにあった扉を開けた。
「驚いたな、とても井戸の底とは思えない」
そこには座敷があり、その奥に一つの人影が座っているのが分かる。
「こちらへおいでなさい、靴は脱いでな」
言われた通りにして奥に進むと薄暗くて見えなかったその姿がはっきりしてくる。
「……何か、問題でも?」
「貴方がこの地下花街を仕切る者、胡蝶ですね」
そう聞くと、墨色の着物を着て胡坐を掻き、杯を呷っていたその女性はピタリと手を止める。
「はい、私がこの花街の頂点に立つ者、そして国を裏から支える者です」
頷いて周りを見渡す。
「……私の席が無いようですが?」
「ここは貴方を待つ為の部屋、おいでなさいな、奥にも待っている者がおる」
……言われて胡蝶の後を付いて行く。
「少々長いけど、諦めて下さいな」
「分かって居る、大体どこに向かっているかもな」
「えっ、星華ちゃん分かるの?」
相変わらず腕に抱き着いてる豊が聞いてくる……いい加減熱いから反対の腕に誘導する。
「どっちに向かってるか分かれば、まあ予測は出来るよ」
「この梯子の先です」
そう言って胡蝶が梯子を上り、上を塞ぐ扉を叩くと暫くの後に扉が開く。
「申し訳ありません、このような道を使わせてしまって」
「……別に良いけど、部屋に直通か」
その先はマーガレットの私室で、地下への扉は普段はベットで隠しているようだ。
「そういう風に出来る部屋を選びましたから」
……確かにこの部屋の下は全て壁の中だけど。
「さて、話しましょうか」
「ちょっと待ってよ、私は色々理解が追いついて無いんだけど」
豊が口を挟むと胡蝶が苦笑する。
「そうですね、話は長くなりますので一度花街へ戻りませんか、そこでなら安心して話せる環境を整えれますから」
「そうだね、来て直ぐではあるけど戻った方が良いね」
そう言って地下への扉をくぐり、梯子を下りる。
「重ね重ねご迷惑をお掛け致します、ですがこれも全てこの国の為にこそ」
「分かって居ます」
胡蝶の後に続いて花街へと戻り始める……これからの話はこの国の裏について、一度気を引き締め直す必要があるだろう。




