77話 束の間の安寧17
暫く豊で遊んでいたら、逆上せてしまったから抱えて行き、体をしっかりと拭いてから服を着せる。
……ついでにその綺麗な髪を撫でたり、首筋を甘噛みしたりしてるが何時もの事だから別に構わないだろう。
「豊、歩ける?」
何となく分かるが一応聞いてみる。
「無理」
だよね、なんかもうフラフラでこのままじゃ這いずるぐらいしか出来そうにない。
……よし、あれやってみるか、反応が面白そうだけど機会が無かったのを。
豊の体をひょいと持ち上げると両手で抱え上げ、腕の中で寝かせる。
「お姫様抱っこ……」
「こういう事で赤くなる豊も可愛いな~」
「お、重く無いの?」
話をそらそうと必死なのは分かるが、その質問はどうかと思う。
「軽い軽い、大体女子の平均体重はおよそ五十キロらしいけど、私ならその三倍でも何とか持てる」
抱えてみた感じ、多分豊の体重は平均より少し軽い四十八か九の辺りだと思う。
私の腕力を忘れてたのか豊は誤魔化せなかった事に涙目になって居るが、結局その顔も可愛いだけだ。
そこでふと思いついた事を言ってみる。
「このまま帰ると誰かに見られるかもね」
その言葉を聞いた瞬間豊が青くなる。
因みに今はチョーカーを付けている、普通の人には首輪にしか見えないだろう……私にも首輪に見える。
「ちょっと待って、星華ちゃん?」
「さあ、レッツゴー」
我ながら性格悪いとは思うが、豊が可愛いのが悪い。
「……良かった、誰にも見られなくて」
結局誰にも見つかる事無く部屋に帰れた……少なくとも豊はそう思っているが、実際は私が誰も居ない通路をしれっと通っただけだ。
足音でどこに人が居るかは直ぐに分かるから避けるのは簡単、だけど上手く見つからないように人の近くをわざわざ通って豊を焦らせるのは結構面白かった。
……どの道私は他の誰かに見せるつもりは無いけど。
「足音にビビって固まる豊も可愛かったよ」
「本当にそればっかりだね星華ちゃん」
……確かにそうかもしれない、それでも可愛いんだから仕方ないだろう。
「ところでさ星華ちゃん、時々私の事を苦手だって言ってるけど本当なの?」
「確かに少し苦手だけど……そんな悲しそうな顔しないでよ、大好きなんだから」
「じゃあ私のどこが苦手なの?」
ちょっと拗ねて見せる姿も可愛らしくて笑ってしまう。
「素直すぎる所だよ、私は人との駆け引きや騙し合いとかが得意だからね、嘘偽りなくド直球で好きだって来られるとどう反応したら良いのか分からなくなるんだよ」
「そっか、じゃあ好きだよ」
「それは明らかに狙ってるからアウト」
……こうやってお互いの反応を分かった上での馬鹿っぽい話がとても楽しい。
そもそも私は人を信じるのが苦手だから、豊みたいに真っ直ぐに来るのは苦手だけど嫌じゃない、寧ろ大好きだ……だからもっと甘えて欲しいなんて思うけれど、これ以上甘やかしすぎるのもどうかと悩んだりしている……贅沢な悩みだとは思うけれど。
豊をベットに寝かせると時間を確認する。
「後二時間したら会議だね、それまでギュッてしてようか」
そう言って私も布団に潜り込むと有無を言わさず抱きしめる。
……既に会議に必要な書類などはまとめてあるから、暫くの間はこの温もりに身を委ねる事にしよう。




