73話 束の間の安寧13
私の為に作られた部屋で魔力を練りながら待っていると、小さな足音が聞こえ、扉が開く。
『ようこそ私の森へ』
入って来るエルに念話で語り掛ける。
ここは森だ、広いフィードに木々が生えていて、所々に蔦も絡まっている……私の魔力と相性が良い。
「セイ、もう止めにしないか」
『嫌だ』
「なんでだ!他に幸せがあるだろう」
『煩い、私の気持ちなど分からないくせに、貴方は私の事を傲慢にも支配しようとする』
……本当に分かって居ない、馬鹿な奴だ。
『私は貴方に救って欲しいなんて思ってないし、付いて来て欲しいとも思ってない』
付いて来なくていい、私は自ら望んで堕ちるだけ、エルを道連れにするつもりはない。
「ごめん……それでも僕はセイを止める」
『……煩い』
謝るのは私の方なのに……。
「ここで終わらせよう」
『分かってる』
お互いに武器を取る。
……私のナイフではエルのロングソードには長さが足りない、懐に入るにしてもこの差は厄介だ。
攻撃を避けながら攻撃を仕掛けるが決定打となるものは無い。
【斬首・公開処刑】
素早く首へとナイフを伸ばすが後ろに下がって回避される。
……こうなったら仕方ないか。
距離を取って、懐から魔道具を取り出す。
綺麗な碧色をした両手に収まるぐらいの宝石玉だ。
木気を操る魔道具で、ここは森だ。
【木気吸収】
念話の応用で詠唱を省略して身体強化の呪文を掛ける。
ほんの少しマシにはなったが、直接勝てる能力は無い。
剣を構えて警戒しているエルに追い打ちをかける。
【ウッドランス】
魔力を得た木によって作られた木製の槍が地面から無数に突き出す……寧ろ鋭い根っこに見える。
辛そうだが容赦はしない、したらエルの覚悟を馬鹿にすることになるから。
【ウッドバインド】
今度は木々に巻き付いていた蔦を操って縛り上げる。
……まだか。
エルは素早く蔦を切り裂いて再び剣を構える。
……ここで諦めてくれれば傷付けなくて済んだのに。
木珠と名付けられた魔道具に私の魔力をほぼ全て流し込む。
……星華さんが新術として開発した魔術の術式が一つだけこの魔道具には入っている。
その威力のあまり使うのを躊躇するぐらいの物が。
だが今は敢えてそれを使う。
それが私と戦う決意をしたエルに対する礼儀だからだ。
【甲・句句廼馳】
術式の発動と共に多くの魔力を吸い取られると共に巨大な木が表れてその根でエルの体を拘束する。
『エル、降参して、じゃないと殺すしかないから』
「構わない、殺してくれ」
その言葉を聞いて諦める。
「アザトースさん、終わったらエルを生き返らせてくれるの?」
「勿論、そうしないと報酬とかで面倒が起きるし、奴隷にすることを報酬にしたりもあるだろうと思って生き返るようにシステムを作ってるから安心していいよ~」
私は頷いてエルを拘束する木に命令を下した。
『苦しまぬよう一瞬で貫いて殺せ』
木はそれを実行した。




