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星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
7章 束の間の安寧
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72話 束の間の安寧12

 ……皆は無事でしょうか。

何度も胸の中で繰り返すその思いを振り切るように歩を進める。

兄様と空さんは星華さんの居る方に行った、出来る限りの時間を稼いではくれるだろうけれど、あの人に勝てるとは到底思えない、寧ろ星華さんを倒せる者が居るのであればそれは最早人間ではないだろう。

「また、罠ですか」

何度か精神系の術式を見たが、全てこの刀が無効化している。

恐らく星華さんのその事は分かって居るでしょう、恐らくこれはエルがこっちの道を来た場合の備えでしょうから。

特に強力な罠も無く進んでいくと小部屋の中に数体のスケルトンが居る。

道はその小部屋の中に在る様なのでさっさと倒して先に進む。

数回刀を振るうだけで倒れる相手なので疲れることも無い。

……だが時間稼ぎにすらならないのに何故こんな作りにするのか。

星華さんならもっと割り切った作りにするだろうに。

いや、そうかこれは一応ダンジョンバトル、モンスター対策でもあるのか。

そう考えると全て腑に落ちる、ここは他のダンジョンマスターとの戦いを想定したダンジョンだ。

混乱や狂気の罠は私達には効かなくても強力なモンスターがそうなれば一気に壊滅する。

そう考えれば彼女らしい、常に現状の数十歩先を見ている人だから。

考えながら歩く内に大きな金属の扉とその前の台座が目に入った。


 これは賢者の門だったか、正解の答えを導き出すことで開く扉、少なくとも目の前の鉄扉を破壊する力の無い私はこれを解くしかない。

『私は始まりである、私は何一つ持って居ないが私がいれば何かを大きく増加させる事もある、だが私が関わった物は無になる事もある、さて、私は誰だ?』

…………誰だろうね。

始まりであり、何も持たないが増やす事も無にする事も出来るものか。

一瞬星華さんの瘴気が思い浮かんだが、あれは始まりではない。

……あれ、これって簡単かも。

「数字の零だ」

そう呟くと扉は音を立てずにすっと開く。

零は数字の起点、何も無いが他の数の後ろに付けばその数を大きく増やす、そして掛ければ零になる……危ない、これは下手すると永遠に解けない類だ。


 扉の先は真っ白な空間だった。

白一色の壁に天井、そして白い砂が敷き詰められている。

方向感覚を見失いそうな部屋だ。

だがその部屋以上に私の目を引くのはそこに待ち受けていた者だ。

「アリス・ナイトメモリー」

「…………」

何も答えずに彼女は二本のナイフを逆手に持つと身を屈めるように重心を下げる、正に獣の攻撃態勢だ。

石弓にでも弾かれたような凄い速度で迫って来る攻撃を何とか躱すと後ろで扉の閉まる音がする。

……閉じ込められたか。

この円柱状の白い部屋に長い間閉じ込められれば気が狂いそうだ。

【斬首・公開処刑】

再び迫って来た彼女の攻撃が首に迫るのを何とか躱す。

そしてこの部屋の異常な所に気付く。

……この部屋には音が無い。

扉が閉まってから一切の音が消えた、衣擦れも足元の砂も一切の音を立てない。

『消音結界』だろう、特に問題は無いが、普段と違う感覚で戦闘時の誤差が生じる可能性はある。


 あまり長い間耐え続けるのは無理だ、こちらから攻めなければ。

そう思い私が懐から取り出したのは一本の手芸用の裁ちばさみだった。

【裁断】

魔力を流して2m程の鋏を実体化してその動きを自分の持つ鋏とリンクさせる。

広範囲を切り刻む攻撃だが、かすりもしない事実に苦笑いを浮かべる。

「……流石にこの程度は効きませんか」

呟いた声も音にならないが気にはしない。


 ……だが私にも切り札はある。

星華さんが私の刀を作ってくれていた時アザトースが私の所に来ていた。

その時に面白そうだからという理由だけである魔法を私に教えた。

趣味の手芸を用いた私専用の魔術を。

この裁ちばさみもその一つだ。

アリスに勝つには恐らくこれしかない。


 刀を鞘に戻して地面に置いておく。

アリスが使う心配は無い、彼女は既に十分なほどに武器を持って居る筈だから。

一瞬で迫って来るナイフを鋏で受け流す。

【縫い針】

すれ違う瞬間に服に魔力の針を通し地面に縫い付ける。

直ぐに離れて次の攻撃の準備を行う。

【裁断】

……模倣したのか、一回受けただけで。

オートマタの性質は魔力を吸収してその性質を記憶して再現する、それにかかれば専用魔法なんて関係ないのか。

そして対策が取れるから同じ攻撃は二度効かない……なら同じ攻撃はしないだけだ。

だが今の私にはあと一つしか使えるのが残されていない。


 【氷弓術・氷柱つらら

アリスが一瞬で手の中に氷の弓と矢を作り出しで放ってくる。

……勝てる気はしないが、動けなくするぐらいにはしないと。

【縫い針】

【裁断】

一瞬で断ち切られるがその隙にアリスの体に抱き着くようにその動きを止める。

……これで躱せない。

留針とどめばり

魔力で形成された巨大な針……というか杭が私もろともアリスに突き刺さる、この針は相手をその場に止める為の物で一切の攻撃力を持たない。

当然巻き込まれた私も動けないが、それでもいい、このまま試合の終了を待つだけだ。

……抱き着いたままだけど後で星華さんに何か言われないだろうか。


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