67話 束の間の安寧7
「厄介ですね、あの人が本気を出すとなると何を使ってくるか……」
一旦城の部屋に戻って二人と話す。
「兄様、星華さんが使ってきたあの武器は何ですか?」
「ああ……あれは雷公鞭、私が彼女の世界に居た頃では最強の威力を持つ武器でした……最もあれは彼女によって作られた魔道具のようですが」
「そんな物を……」
呟いたエルに一言伝える。
「浅はかですね、貴方がダンジョンコアを持ってるとなると今ダンジョンは無防備です、どこにあるのですか?」
「南の方にある海辺の洞窟です、元々かなり複雑なのである程度は戦えます」
ダンジョンの壁は基本的に不壊な上に今回の戦いでは攻め込まれることは無いからまあ問題無いだろう。
「やはり必要な事は推測ですね、橘花、彼女の能力で何か思い当たる事は?」
「……星華さんの得意な事と言えば呪詛と魔道具だと思います」
魔道具の性能が一段と上がって居るのは分かっているから呪詛対策は必須だろう……そんな程度の対策では無駄かもしれないが。
「エル、セイの能力は解るか?」
「多分だけど豊さんと似た力を持ってるように見えた」
となると木気の能力か、生命力を扱う能力もまた面倒でもある。
「エル、君の得意な魔法属性は?」
「破魔と土です」
「そうか」
破魔の能力は星華さんの陰気を司る瘴気魔術を伝授されては発動すら封じられる上に土気は木気に弱い性質を持つ、エルにとってセイは特に相性が悪い。
「あとはアリスだ、彼女に付いて知っているか?」
「……知りません、ですが星華さんは最強の奉仕人形だと言っていました」
「僕もほとんど知りませんが何か加護を与えたらしいです」
「まさか奉仕人形だとは……」
確かにそれならあの強さも納得がいく。
「兄様、それはどんな魔物ですか?」
「本来ならば文字通りダンジョンマスターの身の回りの世話をする人工生命体……寧ろ意思と心を持つ魔道具といった所か」
……それだけであればなんの脅威も無い、それだけならば。
「それで何が問題なのですか?」
「奉仕人形はダンジョンマスターの魔力を与えて貰うとその魔力の性質を記憶して自らの魔力をその性質へと変換する能力がある、それに恐らく彼女が与えたのはタロットの戦車、もしくは剛毅のアルカナだろう、どちらも力を表すアルカナで、尚且つ彼女の情報を含む物だからあそこまでの身体能力を得たのだろう」
説明するとエルが首を傾げる。
「……それの何が危険なんですか?」
「つまりアリスは恐らく星華さんに付いて居る豊と空、そして星華さんの魔力を記憶している……要するにあの三人が使える魔術の神格など一部を除いたほぼ全てを完璧に扱える」
それを聞いて橘花の顔が僅かに引きつる。
「豊さんの水と木、空さんの火とゴーレムで使っている土、更に星華さんの歪みの力を持って居るだろう」
……唯一の救いは金気が無くて五行が揃っていない事か。
「橘花、エルと共に空さんに頼んで手伝って貰いなさい、彼女は星華さんの支配下に無いし、星華さんも咎めはしないだろうから」
「兄様は?」
「私は魔道具を開発する、瘴気を薄めたり他にも星華さんの対策を取る」
「解りました」
橘花とエルが出ていくと私は机に向かって設計図の作成を開始する。
勝てるとは思わないが出来る限りの事は行う。
……あの人とは軍師としても戦ってみたいな。




