65話 束の間の安寧5
自分の体へと意識を戻し、倒れているセイの体を抱き起して少し待っているとやがてセイの目が開いた。
「大丈夫そうだね、思ったより早かったけど良いの?」
もう少しゆっくり休んでも良いと伝えると彼女はあっさりと答える。
『構いません、それよりもやるべき事がありますから』
「……分かった、付いて来て」
そう言ってダンジョンのマスタールームの奥に増設しておいた部屋に入る。
そこには精神世界に行っている間にアリーに描いておいて貰った魔法陣が記してある。
「本当に良いのね、これをしたら基本的な不老不死になる、常人と友になってもその者の死を常に見届けなければならない、ただの呪詛だ、それでも貴女はこれを受ける?」
『はい、もう決めた事ですから』
彼女の選択だ、私はそれに従う。
「出てこい、アザトース」
「……一応言っとくけど邪神の私もこれには賛成してないんだからね」
「構わない、さあ、やってくれ」
冷たく言うとアザトースは溜息を吐く。
「仕方ないね、自分で作ったルール上、私に拒絶する事は出来ないしね」
そう言ってアザトースは魔法陣に魔力を流す。
「本来資格の無い者に資格をあげるんだから、そこんとこ理解しておきなよ、それじゃあ彼女をダンジョンマスターにするよ」
そう言ってアザトースが術式を展開しかけたその時部屋の扉が開いた。
「止めなさい、これ以上罪の無い者を巻き込むのは」
「セイ、止めろ!」
「星華さん、私がなんの為に来たか分かってますね」
扉の前に立つ三つの人影を私は止める。
「碧火、エル、橘花、邪魔をするのですか?」
「私の素性を橘花とエル君に話しました、そして元ダンジョンマスターとして止めます、それが私の務めです」
「私には止める資格なんてありません、ですが、賛成する事だけは出来ません」
……やはりこの二人を言葉で打ち負かすのは無理か。
「貴女はセイを利用している」
「セイの気持ちがお前に分かるのか?彼女が抱える狂気が」
「解りません、ですが、止めます」
……仕方ないか。
「アザトース、術式の完成を急ぎなさい、私は三人の相手をする」
「……流石にその三人は大変じゃない?」
「アリー、エルの相手を」
そうつぶやくと待機していたアリーが部屋の外であるマスタールームへとエルを放り出して自らもその後を追う。
「さあ、殺す気で来なさい、それで互角なのだから」
「疾っ」
碧火が振るったさほど太くない棒状の武器から放たれた何かを匕首の刃で受け止めると右腕が少し痺れる。
「風の鞭……打神鞭か」
「私の宝貝ですからね、使いますよ」
宝貝は仙人の力を増幅して奇跡を起こす武器、太公望である碧火であれば持っていても可笑しくはない。
【斬首・公開処刑】
「橘花、強くなったみたいだね」
攻撃を軽く弾くと懐にしまっていたある物を取り出す。
「それはまさか……」
「アザトースに見せて貰ってそれを基に真似て作った物だよ、威力は十分、碧火は解るよねこれが何か」
「……雷公鞭」
「ご名答、それじゃあ暫くお休み」
そう言って魔力を集める。
【呪珠・射干玉の闇】
恐ろしい量のエネルギーを使うこの武器の使用にはまずこれを作らなければならない。
そして瘴気と魔力の結晶であるそれをエネルギーに変換して雷公鞭に流し込んだ。
【宝貝・雷公鞭】
放たれた雷撃が二人を吹き飛ばし、意識を奪う、最小まで抑えてこの威力なのだから最大出力なら山が消えるだろう。
「アリー、戻りなさい」
声に応じてアリーが戻り、完全に疲弊したエルが付いてくる。
「エル、終わったよ」
「そんな……なんで」
そこに声が聞こえる。
『貴方は面倒、自分の望みを私に押し付ける』
「直接頭に届き、響く声、セイ、良い能力が開花したようね」
「……例え遅くても僕は君を止める」
そう言ってセイが取り出したのは青く輝く宝石……ダンジョンコアだ。
『やっぱりそう、貴方は自分が得た力を私に持たせたくない……愚かね、私の事なんて何も知らないくせに』
そう呟いてセイはこっちを見る。
「好きにしなさい」
それに頷いてセイはエルをまっすぐ見る。
『エル、私は貴方にダンジョンバトルを申し込む』




