63話 束の間の安寧3
「さて、これから貴女の精神世界に入るよ、覚悟は良い?」
『大丈夫です』
その答えに頷き魔力を持った手鏡を使い、セイを自分の精神世界に沈め、私自身も巻き込んだ。
目を開くと一面が花畑で、心地よい風が吹いていた。
ふと地面に咲いている一輪の花に手を伸ばすがその瞬間その花は崩れ落ちて灰と化してしまう。
「決して手に入らない美しさ、望むものの崩壊、それが貴女の狂気か、想像以上ね」
気付くと星華さんが後ろに立っていた、だが手を伸ばす事ができない。
「大丈夫、私は壊れないから」
そう言って私に抱き着いた星華さんのぬくもりを背中で感じる。
『どこに行けば良いのですか?』
「貴女が行きたい場所へ」
そう言われて私は何となく方向を決めて歩き出す。
私が通った後は全ての花が枯れているが、星華さんが通ることでそれは再生していく。
少し進むと城があった、それも星華さんが教えてくれた白雪姫の物語に出てくる女王が住んでいるような城だ。
扉を開けようとするが重くて動かない。
「ここは貴女の世界、大抵は思い通りになるはずだよ」
そう言われて扉が開くイメージをするとその通りに扉がゆっくりと開いた。
そこに躊躇せずに踏み込んでいく星華さんの後を追って中に入るとそこにはもう思い出したくない者がいた。
「娼じゃねぇか、さあ、こっちにこい」
あの村人たちだ、私が殺したあいつらが五体満足でこっちを見ている。
「好きにしなさい、ここは貴女の世界だから」
星華さんに言われて私はあいつらを殺す、武器は望めば出て来た、そして死んだら生き返らせて殺す、それを幾度となく繰り返した。
「そろそろ行くよ、この先にね」
星華さんはそういうが私はこの場所に未練があった。
「仕方ないな、これでいい?」
そう言って星華さんが手を軽く振ると無数の拷問器具が表れて村人たちを苛み始める。
「さあ、行くよ」
そう言われて私は星華さんが進んでいくより強い狂気を感じる方へと進んでいく。
「大きな扉だ、ここからは貴女が頑張るんだよ」
頷いてその扉を開くと奥には玉座があり、そこにはある者が座っていた。
「よく来たわね、もう一人のあたし」
そこにいたのは自分自身だった、いやそれは自分自身の姿をした何かだ。
「ねぇ、憎いでしょう、全てが、人が、魔物が、世界が、壊したいでしょう、全てを、ならあたしに代わって、全て潰してあげるから、全て壊してあげるから」
その囁きに思わず耳を塞ぐがそれでも声は聞こえてくる。
「本当に可哀そうなあたし、長い間男共の慰み者になれた挙句に舌を切られて捨てられた、痛かったね、辛かったね、もう全て忘れて眠りなよ、誰も咎めたりしないから」
その言葉にもなんの反応も返さないで居るとだんだんそれは苛立ったように話し始める。
「ふーん、あたしを認めないんだ、あたしはアンタ、アンタはあたしなのにね、その気が無いならあたしは自分で自分の証を刻むとするよ」
そう言ってそれはナイフを作り出すよこっちに歩いて来るのだった。




