5話 初めての侵入者
『あたら~しい朝が来た、希望の朝~が』
なんか鬱陶しいメロディーが響いてきた。
「今のは侵入者が入って来た時のアラームだよ」
いつの間にか来ていたアザトースがほざく・・・後で変えておこう。
ダンジョンメニューからモニターを開いて侵入者を見てみる。
「・・・子供?」
モニターに映ったのは明らかに子供だった、男の子一人に女の子一人の二人だ。
外見は十歳ぐらいか、流石に殺すのは気が引ける。
「殺さないってんならどうするの?」
「邪神は姿を隠しといて」
アザトースの姿が消える、多分見えなくなっただけだけど。
取り敢えず子供たちの居る所に向かう。
「貴方達はここで何をして居るの?」
「あ、貴女は誰ですか?」
返したのは男の子の方だ、質問に質問で返してきたけれど結構しっかりしている。
「私はここに住んでるの」
「そうですか・・・」
「どうかしたの?」
「なんか迷路みたいだったから」
「女一人だからね、侵入者対策よ」
「そうですか」
これ以上は怪しまれるかな。
「今何をしていたの?」
「僕たちは山菜を取りに来ていたんです、それで雨が降っていたから少し雨宿りしようと洞窟に入って、そしたら奥まで伸びていたから。」
外を覗くと確かに結構降っている、問題は無いかな。
・・・この世界の常識を何気なく聞いておく必要があるか。
「貴方達、ダンジョンって解る?」
「モンスターとかが居る危険な所で、奥に宝石があってダンジョンマスターが一人居るって学校で習いました」
まあ予想通りの回答か。
「こんな洞窟でもダンジョンの可能性はあるから気を付けた方が良いよ」
実際ダンジョンだしね。
「あ、はい、でもダンジョンマスターも話せば解ってくれるかもしれませんよ」
甘い、けど間違っては居ない。
「ここがダンジョンで実は私がマスターだって言ったら貴方達はどうする?」
「どうもできません、多分抵抗も出来ないと思います」
「まあ貴方達の村が総出で来たらここなんて持たないから、例えそうであっても殺したりしないけどね。」
少し考えて私はマスタールームへと彼らを連れて行く。
「ウ、ウルフ!」
「大丈夫よ、私の家族だから」
落ち着いている私の様子を見て子供たちは安心した様だ。
「貴方達にこれが何か解るかな?」
「まさかこれは・・・」
「そう、ダンジョンコアよ」
色々悟ったみたいで、子供たちは逃げようとする。
「コロ、出口を塞いで」
「なんで今頃僕たちを?」
「貴方達、居場所はあるの?」
その言葉に男の子は息を呑む。
・・・予想通りか。
「理由は知らないけど貴方達は村を追い出された、違う?」
「何故、解ったんですか?」
「まず貴方達は山菜取りに来たのにリュックやカゴとかの採った物を入れる物を持ってない、そして採るための道具も持って居ない、更にここから一番近い集落でも大体50キロは離れている、山菜取りならここまで来る必要は無いでしょ?」
それにね、と続ける。
「その女の子、話さないんじゃなくて話したくても話せないんじゃないの?」
普通人は驚いたりすると僅かに声を出す、男の子はそうだった、でも女の子の方は恐怖で顔が引きつっても一切の声が出ていない。
「そうです、僕たちは捨てられた、殺されても探す人なんて居ません」
男の子の声には諦めが滲んでいる。
「体を見せなさい」
「え?」
「どうせ怪我してるんでしょ、捨てても村に帰って来れないように痛めつけておかれたんだろうけど、隠しても歩き方で解るよ、随分無理してるみたいね、簡単に治療してあげるわ」
まず男の子から診るがこちらは打ち身ぐらいだったから、倒木を削って作っておいた桶・・・まあボウルだけどそれに雨水を汲んで来て二、三枚持ってたタオルを一枚使って汚れを拭っておいた。
問題なのは少女の方だった。
「これは酷い事を」
少女は舌を切り落とされていた、これでは食事を取る事さえ難しいだろう。
「これは誰に?」
これは事故じゃない、人為的な物だ。
「村長に、その後魔法で死なないように直された後捨てられました、僕はこっそり彼女を助けて村から逃げて来たんです、見つかったら多分僕も彼女も殺されます」
敵意が無い事を感じてか、男の子は落ち着いて答える。
「その村長をどう思う?」
「え?どうって・・・」
「君ははっきりしているみたいだね」
少女の表情を見て私は呟く。
「憎いんだね」
少女は頷く。
「どうしたい?」
私は沢山の葉っぱと先が尖った細い木の棒を渡す・・・筆談だ。
『私と同じ目に遭わせて殺してやりたい』
非常に整った字で書かれたそれは私を満足させるには十分だった。
「貴方はどう?」
「僕には解りません、でも彼女にした事の罰を与えてやりたいです」
男の子・・・いや少年がそう言った所で少女が腕を突っついてきた。
『他の皆も』
短い文だがとても解りやすい。
「君たちの他に子供は?」
「居ません、二人だけです」
「親は?」
「二人とも居ません」
「そう、なら皆殺しで良いのね」
「え?」
「手伝ってあげるわ、その復讐」
「何故ですか?」
「そいつらが気に入らないから」
「そうですか」
「一応条件はあるよ」
「なんですか?」
「このダンジョンの仲間になって」
「何故僕たちが?大した事も出来ないのに」
「どうせ行き場所なんて無いんでしょ、だったら良いでしょう?」
『それであいつらを殺してくれるなら』
「僕もそれで良いです」
「契約成立ね」
ダンジョンメニューで確認してみると赤い侵入者の表示から味方を表す緑色の表示に変わっていた。
「アザトース、居る?」
「居るよ~」
突如出現したアザトースに二人は驚いたようだ。
「一応敵じゃないから」
「あ、はい」
「ところでダンジョン外で殺してもDPって入るの?」
「殺した所が町や洞窟みたいに区切りがあってそこをダンジョンの勢力が制圧したなら入るよ」
「それってダンジョンの内部の扱いになるって事?」
「一応そうだけど、侵入者のアラームの対象外だし、モンスターの配置も出来なくて、改造も無理だけど」
仮拠点ってところか、今回は殲滅が目的だからどちらでもよかったけれどDPが入るのはありがたい。
「そろそろ帰らなくていいの?他のダンジョンマスターの方は?」
「ここが一番面白いんだよね」
そう言いながらもアザトースは帰って行った。
「他のダンジョンって?」
「他にもダンジョンを作ってる人はかなりいてね、ダンジョンバトルとかもその内あるらしいよ」
『私たちは何をすれば?』
「今は復讐だよ、絶対負けないから大船に乗ったつもりで任せてね」
『はい』
鹿肉を出して来て焼き、お腹を空かせていた二人に食べさせる。
「ありがとうございます」
『感謝いたします』
食べている間ダンジョンメニューをふと見るとDPが200増えていた、鹿を殺したからか・・・ゴブリンの二倍なのか。
「二人とも、武器を使った事は?」
「僕は剣を少し」
『ナイフを』
いつの間にか実装されていたショップを見てみると簡単な物は揃っていた。
「剣ってどんなやつ?」
「木刀です」
取り敢えず彼の身長に合ったサイズの刀を50DPで購入するとそれが空間に現れる。
「じゃあこれを」
「はい」
『私は多少大振りな物でも使えます』
サバイバルナイフを100Dpで購入する、50DPは後の為に残しておいた。
「今更だけど二人の名前は?」
「僕はエルです」
『名前は無いけど娼と呼ばれてました』
娼か、酷い呼び名だ。
「何か呼ばれたい名前はある?」
『セイ』
少し悩んだ後彼女はそう書いた。
セイ・・・生か、娼と同じ読みの生の読み方を変えたのか。
「セイ、良い名前ね」
少女はそこで初めて少し笑って見せた・・・少しの間だけながらも憎しみを忘れたかのように。
「よろしくね、エル、セイ、今日はもう寝なさい、地面は固いけどその内改善するから」
「はい」
その言葉に合わせてセイも頷き、眠りにつく。
・・・殺戮は久しぶり、情報収集は必要だし、ある程度の地形把握も重要だけど戦いは体が覚えてる。
さあ、その時が楽しみね。




