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星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
6章 華相院の問題児
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56話 華相院の問題児17

 渡された手紙の通りに城の執務室へと向かう。

衛兵達は私の持つ刀を見ると頷いてそこへと案内してくれる。

「マーガレット、彼女が来たようだね」

「扉が開く前に言わないでくださいよ」

……全くだ、一体どうやって感知しているのか、まさか足音か?

「失礼いたします、華相院訓練生、橘花です、なんの御用でしょうか?」

改まって挨拶すると二人とも軽く会釈を返してくれる。

「私じゃなくてマーガレットが何かあるみたいだよ」

「椅子は用意してますからどうぞ座って下さい、それと敬語である必要はありませんよ……そこのダンジョンマスターみたいに勝手に御茶淹れて飲むほどのんびりしなくて良いですけど」

そういって女帝がチラッと星華さんを見るとやれやれといったように立ち上がる。

「邪魔なら出ていくよ」

「いえ、貴女も居て下さって構いません」

「なら紅茶を淹れてくる」

そう言って彼女が奥の小部屋に入っていくと女帝はこちらに向き直った。


 「呼び出したのには理由があります、彼女にその実力を認められた貴女が何を思うのか知りたい、ただそれだけです」

「何でしょうか?」

「貴女はこの国の政治の在り方をどう思いますか?」

「へ?」

思わず間抜けな声が出る、てっきり戦いや戦争について聞かれると思っていた、華相院は兵へとなる者の育成を目的としている所なのだから。

「帝国とは敵対していますが、あちら側の政治の在り方が間違っているとは一概には言えません、あそこは専制君主制でありますが、数週間前に皇帝が変わり、一般に想像される腐敗や悪習、貴族制度などが淘汰されたとの情報が入っています」

……まずい事だ、私の知る限り敵の内政が腐敗していたからこそ幾度の戦いを切り抜ける事が出来ていた。

「それに比べてこの国は元々民主主義、本来平和へと向かうと思われるそれは政治家が利己的になり、賄賂が横行、経済は停滞し、私が革命を起こさなければ今頃はこの国は瓦礫の山となっていたでしょう。

……ですが今の実力主義も最良の道と言えるかは微妙な所です、そこで貴女の考えを聞いておきたいのです」

「そんな事……私にはとても」

「大した事でなくても構いません、それが貴女の本音であれば、私にとってとても価値があるものです」


 問いに対してよく考え、ゆっくりと言葉を口にする。

「私は……どんな政治体制でも構わないと思います、ただ民の事を第一に考える者が上に立っているのであれば」

その言葉に女帝はしっかりと頷く。

「そう、ただその人物の選定が難しい、権力を握ってそれに飲まれない強い心を持つ者……星華さんは十分にその条件を満たしてる上に不老不死なので適任なのですが、それを言ったら永遠に同じ者が上に立つのはそこまで良い事ではないと言われましたから」

「す、すいません」

「橘花が謝る必要はないじゃん、本音を言ったんだからさ……はい紅茶、クッキーも少し持ってきたよ」

いきなり出てきた星華さんが三人分の紅茶とクッキーの乗った皿を机に置く。

「そうですね、貴女の考えは解りました、今まで何人にも聞いている質問ですが答えを探すのは大変な作業です」

「今までで一番凄いと思ったのはだれ?」

星華さんが聞くと女帝は少し考える。

「多分碧火さんですね、具体的な制度の改革案をいくつか頂き、全てを実行に移しました」

「じゃあ星華さんはなんて……」

「星華さんには逆に聞かれました」

……この人は大体予想の斜め上を行っている。

「そのあと聞かれた時には皆と一緒に暮らせる世界と答えたっけ」

……国ではなく世界とするあたり彼女の考えの大きさがよくわかる。


 「そうそう、その刀だけど盗まれる心配は無いからいつも持ってる必要はないよ」

唐突に星華さんがそう言い、私は思わず聞き返す。

「どういう意味ですか?」

「私は呪術に詳しいし得意だからね、盗難対策はしてあるよ、大体橘花か製作者の私以外まともに使えないし、盗難対策って言っても絶対に橘花のもとに辿り着く運命を帯びているだけ。

例えば川の流れる崖に落としたとして、その後敵に追われて偶然逃げ込んだ下流の河原に流れ着いてるとか」

……今言った通りの事が起こる気がするのは気のせいだろうか、女帝を見ると彼女も同じ事を思っているように見えた。


 「大変です!」

「何が起きた?」

駆け込んできた兵士に対して星華さんが聞くとすぐに答えが返ってくる。

「魔物です、木、石、土などで出来たゴーレムの軍勢が帝国がある西の方から攻めてきています、それと同時に東から亡霊ゴーストの大群とそれを率いる下級死神レイス達、そして上級死神デス一体の軍勢です」

「まずいですね、こんな時に」

女帝は舌打ちをして立ち上がる。

「マーガレットは空、豊と一緒に兵を連れてゴーレムの対処を、普通の者は傷を負わせられない亡霊軍は私と橘花で殲滅します」

「私だけですか?」

「現状退魔の力を持つのがマーガレットしかいないけど彼女と私のどちらも居ない側を作るのは危険、そして兵の指揮はマーガレットの方が上手い、それに橘花の刀は悪霊や亡霊程度簡単に切り裂ける、二人いれば大丈夫、ダンジョンの警備は信頼できる者に任せてるから安心して」

「星華さん、橘花さん、ご武運を」

「貴女こそ、マーガレット」

「こちらこそご武運を祈っています」

そう言って私は星華さんと素早く戦場に向かっていった。


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