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星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
6章 華相院の問題児
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55話 華相院の問題児16

 「おはよう、橘花」

「おはよう……大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫、大丈夫、ちょっと寝る時間が無かっただけ」

そう言いながら顔に水をパシャパシャとかけて眠気を飛ばす。

「昨日橘花の心にちょっと入り込んじゃったから謝っとくよ、ごめんね」

「それって……」

「心の闇に触れる必要があったの、禁忌だし、何されても文句は言えない」

そう言うと橘花は苦笑する。

「貴女はダンジョンマスターでしょ、禁忌を気にする立場じゃない、それに夢の中であったかい物が入って来た気がしたの、どの道貴女に心の闇を隠し通せるとは思いませんし」

「……ありがとね、それじゃあ行こうか、集会が始まるから」



 先に行った星華さんを追いかけて広場に行くと、彼女は全訓練生の前に出されていて、零教官が怒鳴り散らしている。

「お前は警戒という言葉を知らんのか!あの程度の敵に勝てぬようで迷宮の主の下で働くつもりか!」

怒鳴り散らす教官をよそに星華さんは微笑みさえも浮かべている、とても異常な光景だ。

「いえ、全くそのようなつもりはありませんよ、零教官」

その声は辺りの全ての魂を鷲掴みにして凍てつかせるような恐ろしさを持って居たが、当の教官だけがそれに気付かない……そっと豊教官を見ると着物の袖で口元を隠しながら笑っていた。

「何故だ!無力な女帝に従うつもりか!」

「いえいえ、私は迷宮の主の陣営ですよ」

「ならば何故だ!」

「……必要がありませんから」

「こいつは……指導が必用なようだな、武器を取れ、その根性を叩きなおしてやる」

その瞬間星華さんの笑いが冷笑へと変わる。

「良いでしょう、私は武器は不要、素手で十分です」

「殺す、こっちに来い」


 訓練生が場所を空け、訓練場の真ん中で向かい合う二人はまるで対照的だ。

自分の思い通りに行かない事にいらだつ零教官と、全てを思い通りに動かしている星華さん。

大剣を持った見た目から筋肉質な零教官と、素手で見た目ではそこまで筋肉質ではない優雅な星華さん。

明らかに星華さんが不利に見えるが私は知って居る、彼女の体は異常なまでに発達した筋肉が凝縮されその繊維一つ一つが鋼で出来ているように感じられ、尚且つそれは普段は触っても普通の女性の体であり、戦いの時にだけ現れる物であることを。

「それじゃあ行くぞ!」

零教官が振り下ろした大剣は常人では有り得ない速さだが、星華さんはそれを避けようともしない。

「まるで蝸牛の歩みですね、それで敵に当たるんですか?」

……え?

見えなかった、避けた様には見えないのに一瞬で背後に回り、相手を嘲笑っている。

「黙れ!」

横に薙ぎ払われた大剣は今度こそ星華さんの体を捉える。

ガシャン、そんな音と共に星華さんだった物は砕け散り、氷の破片へと姿を変える。

「氷人形、それと認識改竄、零教官、既に貴方は私の術中です」

そう、周りから見ている私たちは解っていた、彼女は最初の攻撃を後ろに下がって躱し、後ろに氷の人形を作り出して幻術を見せていたんだ、それも見ている私たちには本当の状況を伝えながらも零教官の見ている幻術が見えるように調整しながら。

「黙れ!黙れ!黙れ!」

振り降ろされた大剣が今度こそ星華さんを捉えようとする。

「黙りませんよ」

そう言って彼女は上段回し蹴りを優雅に繰り出して大剣を打ち砕く。

「脆いですね、折るつもりが砕いてしまった」

そう言って彼女は右手で零教官の右手首を掴むと軽々と背負い投げをする……ただ背負い投げというには非人道的な物だ、掴んだ手首を使って右手だけで無造作に振り回し、地面へと叩きつける、鎧を着こんだ零教官には凄まじい破壊力だろう。


 「ごぼっ、がはっ」

「弱いですね、それこそ迷宮の主の下で働くつもりですか?」

「お前みたいな屑と違って俺にはこの気持ちが……」

「豊、あれ渡して」

そう星華さんが言うと豊教官が細長い物を投げて渡す。

「それは……」

初めて恐れを抱いた顔をした零教官に紅い刀身の長ドスを突き付けて星華さんは言葉を紡ぎだす。

「正直に言う、私はお前の忠誠など欲しくないし要らない、その上断りなく私の名を使用し、尚且つ私が望んでも居ない反女帝派勢力を作り出した、反逆罪だな、釈明はあるか?」

その声は今までの物と違って、他者を威圧し、絶対の力に対する畏怖を抱かせる、その声で私は本当に彼女がダンジョンマスターなのだと悟る。

「俺は……貴女様の為に」

「お前は私にとって一つだけ良い事をした、この華相院に潜んでいた問題を全て浮き彫りにしたのだから、その分は減刑を進言するとしよう、だがお前の刑を決めるのは女帝だ」

「零教官、諦める時ですよ」

「煩い碧火!お前の妹がどうなっても知らんぞ」

急に私が話の中に出て来るがお兄様は平気な顔だ。

「おお、怖い怖い、ですが彼女は私の自慢の妹です、その程度の苦難なら容易に切り捨てるでしょう」

「それと、今ので恐喝罪も追加ね、それに橘花さんを攫って花街に売り飛ばせと命令した犯人だって事も解ってるから犯罪教唆、幇助もありますよ」

……怖い、二人とも途轍もなく声が恐ろしい。

特に兄さまは私を襲うと言った事が逆鱗に触れたようだ……ふと豊教官を見ると笑い過ぎてむせ返っている。


 「衛兵、裁判の時までこの者を牢に放り込んでおけ」

星華さんの一言で零教官が運ばれていく。

「さて、橘花、出て来て欲しい」

呼ばれて出て行くと周りからの視線が一斉に集まる。

「橘花、貴女には謝罪する事があります」

そう言って彼女は私に向かって跪き、頭を垂れた。

「まず、私の事を無意味に崇めるあのような者の悪行に巻き込んでしまった事、そして入念に調べたにも関わらず、試験の料金に関する改正をしなかった事です。一つ目に関してはもうどうする事も出来ませんが、二つ目に関しては来年より料金の無償化、及び今年の合格者全員への返金を行う予定です、更に貧しい家に生まれた者の家族へも金銭的及び物的援助も導入していくつもりです、これで許していただきたい」

……凄い考えだ、今までの制度を一新する改革をあっさりと行う所もまた凄い。

「……勿論です」

「それは、よかった、それでは皆の前で貴女に贈り物をしましょう」


 星華さんは立ち上がると豊教官に合図をする。

すると何とか笑いの渦から立ち直った豊教官が綺麗な紅色の布に包まれた何かを星華さんに渡す。

「これを、貴女に、貴女がこれによって道を切り開かんことを」

そう言って渡された物を包んでいる布を開け、思わず動けなくなる。

「これは……」

「貴女の為の武器よ、私が鍛えたの、これを使いこなせるのは貴女だけ、私の武器に勝るとも劣らないこの国では最強の武器よ」

鞘の装飾から物凄く手の込んだ品だとわかる。

大量の宝石で様々な花があしらわれたそれは辺りに響き渡るような力を放っている。

「その刀の鞘の宝石は絶対に取れない、そしてその刀は折れない、例え折れたとしても貴女が戦う意思を持って居る限り再生する、宝石は貴女の魔力に馴染むようにしてあるから魔力を蓄えておくこともできる、……私にはこれぐらいしかできませんが、これからも生き続ける事を願っています」

そして私の手から刀を取り上げ、軽く抜くと白銀に輝く刀身が現れる。

それを彼女が軽く振ると硬い石がバターの様に切れる。

「くれぐれも扱いには気を付ける事、そしてこれは私の命さえも容易に破壊出来る代物である事を忘れない様に」

「ありがとうございます」

そう言うと彼女は私の右手を取るとその甲に軽く口付けをして、集会の終わりを宣言すると私に一枚の手紙を渡して去って行った。

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