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星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
6章 華相院の問題児
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54話 華相院の問題児15

 「この火傷って……」

「何?」

豊に火傷用の軟膏を塗ってもらいながら聞く。

「これ退魔法じゃなくて星華ちゃんの使った魔術の傷でしょ、傷の種類で解るよ」

「やっぱりバレたか、あれはマーガレットの物事をあるべき形に正す法術と真逆で、全てをあってはならない形に歪めるものだからね、私なら多少は大丈夫だと思ったけど少なからず効果はあるみたいだね」

「よっぽどの事が無い限り使わないでよ」

「解ってるよ、毎回火傷したくは無いからね」

「そりゃそうだろうけど」


 「夜神さん、少しよろしいですか?」

「勿論、さあ、入って」

橘花を部屋へと招き入れると急かされた様に話し始める。

「零教官にあの紙を渡しました」

あくまで冷静であるように努める。

「反応は?」

「ただ、解ったとだけ」

「そう」

「それと、零教官は貴女を皆の前で叩き伏せると言って居ました」

その反応も想定通りだ。

「豊、起き上がっても大丈夫だよね」

「怪我しなければね」

その言葉に頷く。

「なら橘花、少し手合わせを頼めるかな、体が鈍ってるから明日の朝礼までにある程度勘を取り戻したい」

「こんな私で良いのですか?」

「流石にこんな状況で豊を相手にするのは骨が折れる……橘花は今の私にとって丁度いい相手だよ」

「そうですか、解りました」

豊には教官の仕事に戻ってもらい、私と橘花は訓練場へ向かう。


 「全力で来てね、それも戦場で戦うつもりで」

「解りました」

お互いに武器を構える。

少しの間お互いの息遣い以外を感じなくなる。

……先に動いたのは橘花だった。

首へと伸びる真っ直ぐで完璧な突きを紙一重で躱し左上から斜め下に切り下す。

身を屈めてそれを回避した橘花が体を横に回転させながら下から斜め上に切り上げながら立ち上がる。

その後も打ち合うが、互角の状態が続き、お互いに疲労が募っていく。

【抜刀術・斬首、公開処刑】

スキルを発動し、一撃で終わらせようとする……無論刃はギリギリで止めるが。

【体術・掌底、聖痕】

こちらの攻撃が当たる前に私の胸に命中したそれは激しい痛みとなって私の体を襲う。

「もう無理だ、それにこれは……破魔の力を体術を通して打ち込んだのか、私に効く訳だ」

「これで殆どの力が戻って無い状態ですか……」

「そう、これでも一割程度かな……これ以上は体が持たないな」

それを聞いて橘花は唖然としている。

「これで一割……本来はこの十倍はあるのか」

「それに体が動くようになったら出来る動きも増えるから単純には計算できないね」


 少し水分の補給と簡単な食事を済ませる、食事は軍でよく使われる携帯食で、少ない量で食べやすくそれなりのカロリーがあって尚且つ保存と持ち運びに適している物だ……正直果てしなく不味い、私が絡んで少しましな味になったがまずい事には変わりない、だがそれでも軍務に居る殆どの人から感謝された。

今度蜂蜜でも豊に頼もうか、蜂蜜は腐らない上に必要な項目すべてを満たしている、かなりましになるだろう、防衛にも蜂は使えるし。

そんな事を考えながら残念な食事を終えると橘花に向き直る。

「ちょっと体見せてくれる?」

「何故ですか?」

「別にいやらしい事なんてしないから安心して」

そう言って彼女の身長と腕の長さ、手の大きさ等を記録する。

「なんの為にこれを?」

「それは明日のお楽しみって事で」

曖昧にはぐらかしておく。

「それじゃあ明日の準備があるからまだ日は出てるけど戻るね」

「何か手伝いは……」

「要らないよ、面白い物が見れると思うから楽しみにしててね」


 彼女と別れると直ぐに鍛冶場に移動して一ヶ所使わせて貰う。

火を起こし、ふいごを動かしてその勢いを強める。

彼女の魔力がどんな感じかは解った、それに馴染むように全く同じになるように魔力を注ぎながら何種類もの金属を混ぜ合わせ、練り上げ、私が満足する最高の金属へと鍛え上げていく。

一旦どのぐらいの仕上がりか見るために金属を冷ましながら休んでいると、それを見ていた火事場の親方がその金属を見て思わず息を呑む。

「こいつはすげぇ、何十年も鍛冶師をやってるが、こんなに美しい金属は見た事が無い」

「ここまで鍛えるのにかなりのエネルギーを持っていかれたよ……何か腹に入れた方がいいな」

「ならこれを食ってくれ」

そう言って渡された例の軍事携帯食を有難く頂きながら金属の具合を見る。

「ダンジョンマスターが鍛えたとは思えねぇ程澄み切ってるな」

「貴方から見てこれの出来は?」

「満点……と言いたいところだがこのままだと80点ぐらいだな」

それは私が思って居たのと同じ感想だ。

「そう、解っているけど流石に私には原因が解らない、教えて欲しいんだ」

「これは真っ直ぐすぎる、これで刀を鍛えたとしたらそれを使えるのは本当に純粋で人を疑った事の無い者だけだ、勿論そう言う者に渡すならそれでいいが、少し歪みを混ぜればよりその力と輝きを増す筈だ、当然その人に完全に適合させるのはとても難しいが、出来ればそれはその人だけの最高の一振りとなるだろう」

……なるほど、完全に純粋な人間が居ないのと同じか、歪みなら私の領分だ。

とはいえ、私の魔力で直接歪ませては彼女に合わなくなる。

当然その歪みは彼女の物に近くなくてはならない。

……禁忌に触れる物だが仕方ない。

魔力を網のように広げていき既に寝ていた橘花の精神にそっと侵入した。

そこで橘花の持つ狂気を、歪みをじっくりと観察する。

それは彼女の記憶を追体験する事に近いが彼女の許しが無いためそこまではしない。

十分に解ったと思い、意識から離れる。

「大丈夫か?真っ青だぞ」

「ああ、このまま続ける」

温めなおした金属に鎚を振るって望む形に仕上げていく。

そして禁忌によって得た全てを一振りごとに打ち込んでいく。

自分の心に別の人格が割り込んで来たかのような感覚と共にその形を作り出す。

「まだ形だけだが解る、これは最高の刀だ」

その通りまだ形だけだ、研ぎ上げなくては。

普通の砥石では研ぐどころか砥石が削れてしまう、まだ研いでない内からこの切れ味、最後にはどうなっているのか予想もつかない。

そして砥石は私のダンジョンで取れた砥石を使う、私の魔力を受けた丈夫な砥石はこの刀を研ぐことは出来るがそれでも普通の刀の数倍の時間がかかる。

研ぎ終わった瞬間には戦慄が走る、完成させる事に罪悪感を覚える程だ。

そして焼き入れと焼き戻しを行う、この作業で粘りが生まれてより丈夫になる。

その後は焼入れ焼き戻しによって生じた僅かな歪みを研ぎなおす……私の魔術を使い、凄まじい力を注ぎ込みながらだ。

そして先に作っておいた成長しても彼女の手に最高の形で合う柄と刀身と同じ金属の鍔を付け、何十種類もの魔法を組み合わせて固定する。

「最高の出来だ、完成だな」

「いや、まだだ」

「まだ、何かあるのか?」

そう聞かれて私は笑って見せる。

「まだ鞘が無いんだ、今から作り上げる」

そう言って柄を作ったのと同じ木材である豊ダンジョンであるの森中で最高の神力を持つ大木の太い枝を取り出す。

切り出し加工して刀が入るようにするがまだ終わらない、第一このままでは鞘が切れてしまう。

そこで魔術を使い、刀とリンクさせてそれと同じ硬度を持たせる。

勿論完成ではあるがこのままでは鞘が刀身に負けてしまう。

刀身を作った時の金属の残りで鞘をコーティングし、そこに装飾を施していく……当然妥協はしない、やるなら最高の物を作るだけだ。


 そしてそれが出来たのは空が明るくなり始めた頃だった。

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