表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
6章 華相院の問題児
51/292

50話 華相院の問題児11

 「本日は実践となる!これは訓練では無い、下手をすれば命に係わる、心して事に当たれ」

町を囲む壁から出る、門の前で教官が任務を説明する。

「敵はゴブリンの群れだ、理由は不明だが東の森からこちらに向かって進んで来ている、それの迎撃をしてもらう、数は三百、負傷した者は直ぐに撤退する事、それでは行け、迷宮の主の名の下に」

武術教官の零は常にダンジョンマスターを崇める事を隠そうともしない……正直気持ち悪い、野郎に慕われても嬉しくない、出来れば可愛い女の子の方がいい。

だが三百か、最早軍だ、一体何故それだけの数が今集結したのか、考えはあるが単なる想像の域を出ない。

皆が順番に門を出ていき、私も続こうとすると零教官に呼び止められる。

「その武器……迷宮の主と同じ物だな」

「いえ、実際の物よりはかなり短い普通のドスです」

「それでも、それを使う者は珍しい、一体いつからそれを?」

「ずっと前から、迷宮の主と同じぐらいから」

当然だ、本人なのだから。

「そうか、それでは行け」

「了解しました」


 「聞いてた以上だね、子鬼ゴブリンの割には人間の大人程あるし」

「小さく無いですね、それと私には悪臭が……」

それも問題だ、ゴブリン三百匹の悪臭……おぞましい。

全体を観察していると群れに向かって突撃していく馬鹿が居る。

「俺が最強だー!」

……どこの世界にも馬鹿は居る物だな。

「橘花、戦ってる間は私に近づかないで、瘴気に当てられても知らないよ」

そう呟いて戦場の見方が手薄な所に歩を進める。

見ると橘花は他の者の援護に向かっていた、これで多少は実力を出せる。


 「下賤な害獣共、死ぬがいい」

ありったけの嫌悪を込めて言葉を放ち、ドスを抜く。

一匹の喉を掻き切ると、後ろに来ていた一匹の脳天にドスの柄を叩きつけて破壊する。

続けざまに一匹の心臓を抉り取り、二匹の首を握りつぶす。

襲ってくる者を次々と屠り、辺りには死体の山が出来ている。

……まだ五十も行って無い、このままでは危険か?

既に見方には撤退した者が多く出ている、ちゃんとした兵士では無いとは言え、悪い意味で期待を裏切ってくれた。

考えている間にも数匹を屠り、死体の山に追加する。


 「……残ったのは私たち二人だけか、橘花」

じわじわと追い詰められ、橘花と背中合わせになる。

「更に援軍が二百程来ましたね、大丈夫ですか?」

「こっちのセリフだよ、私は大丈夫さ」

「私もまだ大丈夫です」

恐らくその通りだろう、まだ息が上がっていないのが解る。

だが、疲労は溜まっている様だ、刀を持つ手が震えている、これ以上彼女を戦わせる訳にはいかない。

「目をつぶって」

そう言うと同時に閃光弾を放り投げる。

激しい光がゴブリン達の網膜を焼く間に橘花を連れて包囲を抜けた。


 「橘花、下がってて」

そう言って懐から紙を一枚取り出す。

「これには魔法の術式を仕込んである、魔力を流せば発動する……筈」

そう言って閃光弾の効果から抜け出たゴブリンが突撃してくるのに対して紙に描かれた術式に魔力を流す。

魔法陣が輝いたと思った瞬間、ゴブリンの群れの中心で激しい爆発が起こり、大きな被害を与える……大成功だ、ただ、術式が描かれた紙も爆発した事を除けば。

「大丈夫ですか?」

「直ぐに後ろに下がったから大丈夫、安定性が足りないね、研究をやり直さないと」

まだ実用的じゃない、それに魔力の保存も出来ていない。

「ゴブリンは減った?」

「そのようです、結構な数が逃げていきますよ」

「それは良かった」


 その時一際大きいゴブリンが目の前に飛び込んでくる。

振り下ろされた棍棒をドスで弾くが、手が痺れる。

一瞬の隙をつかれてその大きな手で締め上げられる。

ドスを腕に突き刺して難を逃れたが危なかった。

痛みに呻いているゴブリンの懐に潜り込みその胸にドスを突き刺した。

そしてそのまま手首を捻ってグリグリとして心臓を破壊した……だがそれと同時にどこに隠し持って居たのか、ナイフを振り回され、胸の下あたりに熱い痛みの筋が走る。

それでも力を緩めることなく、完全に動きが止まるまでドスを差し込んだままだった。


 「大丈夫ですか!」

「まずいね、死ぬほどじゃないけど、かなり痛い」

それに全身に痺れがある、疲労によるものと思って居たけどどうやら違うようだ。

「麻痺毒……痺れ薬が塗ってあったみたい、少しは痛み止めになってるから悪い事ばかりじゃないけど」

「そんな事より血が」

「死ぬほどじゃないって言ったでしょ、浅くは無いけど大丈夫」

だが、既に薄れゆく意識の中、その場で力尽き、崩れ落ちるのを止める事は出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ