47話 華相院の問題児8
再び盤上訓練が開始され、碧火の相手として指名される。
「先日はありがとうございました・・・お礼と言えるとは思いませんが全力で相手をさせて頂きます」
周りに気付かれないよう囁かれた言葉に頷く。
「宜しくお願いします」
「それでは、開始です」
今回の盤は帝国との戦いを想定した物で、森の中の兵は相手に見えない。
そして私は帝国側としてこの国を陥落させる事を目的としている。
進めていくごとに解ってくるのはこの場所の堅牢さだ、砲台の攻撃範囲を避けるとどうしても追い込まれてしまう、だが砲台の攻撃範囲内を突破するのは不可能だ。
その上周りより盛り上がっている所にある為、護り易く攻め難い。
・・・攻め手に欠けるね、この訓練では魔物の駒は無いがあったとしても突破出来るとは思えない。
私がこの状況で司令官となったら迷わず撤退を宣言するだろう。
つまりは不可能だ、ある一つの方法を除いては。
軍の数を利用して城を取り囲むように動かす。
「・・・いかがです?」
「これは・・・盤上訓練では意味が無い、ただ、実践では凄まじい効果を発揮する、経験上私の負けですね」
「お手合わせありがとうございました」
「あれはどういう事なの?」
その日の訓練が終わって部屋に帰ると橘花が聞いてきた。
「盤上訓練か、あれは最強の手法だよ、まずこの国は帝国とは反対側の森林地帯に入ってすぐの辺りに多くの集落が密集していてそこで作られた農作物が運ばれてくる。本来はこの城と城下町を囲む壁がそれらを守っているけど今回私はこの城を完璧に囲って食料が入ってこなくした、あの状況が続けば確実に帝国が勝つ」
「兵糧攻め・・・」
「その通り、実際は食料の備蓄もあるし切り詰めれば一年は持つけどそれ以上は耐えれない・・・そうなったら私が何とかするしかない」
すると橘花は頷き口を開く。
「貴女はこの国が勝つと思いますか?」
「正直無理」
「え」
絶句する橘花に「でも」と笑いかける
「それは私が居なかったらの話、私が居る限りそんな事はさせない・・・出来る限りこの国の力を使って勝利に導くつもりだけど」
暫く他愛のない事を話した後ふと思いつく。
「少し聞いてくれる」
「なんでも」
「なら零教官の事を調べて欲しいの、どうやら反女帝派らしい」
「それは?」
少し戸惑った後、合点がいく。
「女帝より私の方を王座に着けようとしている勢力よ、特に軍部の過激派が多いらしいの、私がここに来たのはその手の者に対処するためでもある・・・私が関わり過ぎると本性がバレる可能性があるから、それとなく探ってくれない?」
「それなら、豊さんの方が・・・」
それを言われて溜息を吐く。
「一応豊にはダンジョンの管理を任せてるから、それに豊はこの手の事が向いて無い、嘘ついたらすぐに顔に出るんだよ」
「・・・そうですか、やってみます、貴女には借りがありますから」
「そんなに気にしなくても良いけどね、チャンスがあったら試してみたらいいから」
「はい、解りました」
思いついた事があり自分の荷物からある物を取りだ・・・出て来ない、もう少し整理しとけばよかった。
暫く荷物を漁ってようやく取り出したそれを橘花に渡す。
「ペンダントですか?」
「どっちかって言うとロケットだね、中には私の印を押したメモが入ってる、もし零教官が反女帝派だと分かった上で貴女が探っているとバレた場合これを渡して頂戴、貴女が敵ではないと書いているから、身を護るために使えると思うよ」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃあ、お願いね」
橘花にそう言って笑いかけ、私は部屋の明かりを消した。




