46話 華相院の問題児7
「あの、その・・・」
「おはよう、橘花」
目が覚めた私に何か言おうとした橘花にそう言うと驚いたように答える。
「お、おはようございます」
「それじゃあ私は用があるから、報告も必要だし・・・あと碧火にお金を貸しておいたよ、返す必要なんてないよ」
「・・・いつか兄様と二人で返します」
そう言う彼女に首を振る。
「要らないよ、もし何か返したいならこの国の為に働いて欲しい、それが私の望みだからね」
「解りました、そうなるように努力します」
「・・・それじゃあ行くね、改善すべき場所も解ったし」
「なんですか?」
大した事ではないけど彼女には話しておく。
「ここの訓練だよ、君は昨日大人数に囲まれて攫われた、しかも武器を持って居る時にだ。つまり一対多の戦いに対する訓練がまともに行われていない、戦場ではそんな状況は普通に起こる、訓練メニューの全体的な見直しが必用ね」
そう言って部屋を抜け、マーガレットの居る場所へ向かう。
「訓練の内容を見直しですか・・・確かに盲点でしたね、戦場と試合は違うと言う単純な事に気付いて居なかったという事ですか」
「仕方ないよ、私も気付かなかった、訓練自体は普通に行われていたし」
だが一度気付くと次々に解ってくる事がある・・・あそこは現状、私の関係者と碧火以外、戦場での戦い方を教えて居ないのだ。
「やはり・・・あれが原因でしょうか」
「なにかあったの?」
問いかけると頷いて答えを返してくる。
「実は・・・私ではなく貴女こそがこの国の女王になるべきだという者達が一部に居るんです、そして貴女に戦争を終わらせて貰うという者達が・・・・・・顔が怖いですよ」
・・・不快だ、物凄く不快だ、思わず大理石でできた柱を手の甲で殴ってしまった・・・主に手より柱の損傷が大きい。
それでもだ、私はこの戦争を終わらせる、だが、この国の長になるつもりは無い、私は覇道を行く者、王道を進む資格なんて最初から持ち合わせていない。
・・・それに何より、面倒くさい。
「落ち着きましたか?」
「ごめん、少し感情的になっちゃった」
そう言って水の入っていたコップを机に置く。
「まさか大理石にヒビが入るとは・・・普段どれだけ力を抑えてるんですか」
「トンファーとか使ったら岩でも簡単に破壊出来る・・・今回の大理石は磨いてあったから良かったけど原石を殴ったら物凄く痛い」
「・・・そうでしょうね、一応聞いておきますが今回の件は関係ないんですよね」
「当然、そんな事望んでない、第一自分から動かない奴等を救う気はない」
そいつらは自分で未来を築こうとせずに他人任せにする屑どもだ、誰かに縋る前に自分の出来る事をするべきだろう、最善を尽くした上で縋られれば私も動く可能性がある、だがそれをせずにただ任せる奴らを守る事など決してしない。
「馬鹿者も多いですがこの国を見捨てないで下さい、基本は良い者達なんです」
「・・・解ってる、こんな程度で絶望してたらキリが無いからね」
本当にそうだ、この程度で人間に絶望してたら私は今頃ダンジョンの中に引きこもってるだろう。
「それを言ってるのが誰か解りますか?」
「・・・華相院の武術教官、零がそう言っていると言われています、現状は手を出さないで下さいね」
「解ってる、今は手を出さない、まだ尻尾を出してないから、それじゃあ、今日は訓練が無い日だから報告終わったしのんびりとしておくよ」
「はい、ゆっくりと休んで下さい、星華さん」
「貴女もたまには休みなさいよ、じゃあまたね」




