45話 華相院の問題児6
教えられ・・・聞きだし、いや吐かせた地下花街への入り口で見張りの男に止められた。
「おい待て、ここは一般人のくる場所じゃねぇ、帰りな」
「ここがどこかは知って居ます、その上で来たのですよ、通らせて下さい」
そう言うが男は頑なに首を振る。
「駄目だ、ここはこっち側の住人しか受け入れない」
・・・なるほど、犯罪者などの受け入れられない者たちか。
「なら問題はありません、申し遅れました、私はニュクス・ナイトメモリー、そこらの者よりはそちら側の存在だと思って居るのですが?」
名乗った瞬間男の顔色が変わる、やはり私の名は裏社会の方が効果が高いのだろう。
「申し訳ございませんでした、それなら当然資格をお持ちです・・・これをお持ち下さい。次からは入る時にこれを見せて下されば直ぐに入れますから」
そう言って差し出された数種類の花が描かれた木製の小さな札を受け取って碧火と共に中へと進む。
「こんな場所がこの国にあったとは・・・」
「どこの国にも大抵ある物よ、さあ行きましょう、まもなく競売が始まるわ」
そう言って競売の会場を聞き出しそこへと向かう。
付くとそこは古い劇場を改装したように見えた、客席と舞台の配置が使いやすかったのだろう。
橘花はまだ競売に出されておらず、少し安心した。
それまでの結果を見ると大体一人当たり金貨五百から八百が相場の様だ。
「さあさあ、それでは次の商品です」
そう言われて連れて来られたのが橘花だった。
立ち上がろうとする碧火を抑えて進行を待つ。
競売が開始されて次々と手が上がり、やがて金貨七百を超えた所で手の上がる勢いが止まり、他に居ないかと声が掛けられた所で手を上げる。
「・・・金貨一千五百枚」
たった一言だが会場全体にどよめきが走る、当然だろう、通常の二倍から三倍の額だ、だがこれを出しておけば人の手も止まるだろう、他にも商品はあるのだから。
「金貨二千七百」
だからこそその言葉に耳を疑った、明らかに奴隷一人の額には多すぎるのだから。
「それでよろしいでしょうか?」
・・・こんなに使うつもりは無かったが仕方ない。
「金貨五千枚」
今度は誰も手を上げず、競売は終了した。
「・・・兄様、夜神さん、申し訳ありませんでした」
地上に戻った所で橘花が泣き崩れる。
「仕方ない事だよ、それに身元の調査を怠った私も悪い」
それを聞いた橘花は顔を上げる。
「・・・どういう意味ですか?」
「秘密だよ、私の正体はダンジョンマスター、ニュクス・ナイトメモリー、国の仕組みについて調べるために華相院に入ったの」
「まさか、私は・・・」
恐怖に見開かれた目を見て私は頷きながらも顔をしかめる。
「一応ダンジョンマスターの奴隷になったって事だね、別に取って食ったりしないからね」
「そうですか、解りました」
諦めたような顔をする橘花に話しかける。
「私は貴方に対して拘束力があるけど使う気は無いよ、無理矢理命令するのは好きじゃないからね、今まで通り自由で良いよ、もし必要なら多少の融資ぐらいは出来るしね」
「はい、ありがとうございます」
寮に戻りベットに入って暫くした所である事に思い至り思わず舌打ちをする。
「・・・どうかしましたか?」
「最後の入札の前に普通ではおかしい額の入札があった意味が分かったんだよ、あれは君を買うためじゃない、私により多くのお金を払わせる為の策だ、微妙な金額だったのもそれが理由か、声は女の人だった、私としたことがしてやられたよ、遊郭の支配者、胡蝶にね」
「ごめんなさい」
その言葉に私は笑って答える。
「自分で選んだ事だしね、別に構わないよ、私のダンジョンでは金が取れるから別に困らないし」
「それでも・・・」
「私は謝って貰う為に助けたんじゃないんだよ、君にもっと幸せになって貰う為に助けたんだ、そんな悲しい顔してないで笑っていてくれた方がうれしいよ」
「ありがとうございました」
「・・・それに、私も楽しくなってきたかな」
「え?」
独り言のつもりだったが聞かれていたようだ。
「私を手玉に取った相手がこの国に居るんだ、別に構わないけどその人と話してみたい、上手くいけばこの国を裏から支援する事が出来るかも知れない」
「・・・やっぱりダンジョンマスターなんですね、楽しそうです」
「そうだね、私は人殺しだし、基本は人と相容れる事の無い存在だ、それでも私は自分の望みを叶えるためにここに居るの」
「望み?」
「誰にも縛られず、自由で気の向くままに大切な仲間と暮らす、そんな世界にしたいんだ」
「・・・叶うのですか?」
その問いに思わず苦笑する。
「さあね、でも見えてしまったからね、今更他に目を向けれはしないよ・・・話し過ぎたね、疲れたでしょ、今日はもう寝ましょう」
「・・・最後に、一つだけ聞いても良いですか?」
「いいよ、なに?」
「貴女にとって私は何ですか?」
その静かな質問に私は微笑みながら答えた。
「大切な友達だよ」




