40話 華相院の問題児1
華相院に入る為の試験、今年だけはいつもと違って慌しく動いていた。
「・・・それで私に何の用でしょうか、華相院長官、碧火殿?」
「新入生の中に謎の者が居ます」
「それは?」
私が先を促すと碧火は話を続ける。
「夜神星華と名乗っている者です、戸籍があるのに出生が不明です」
「下手に手を出さないように、試験を一位で突破した者でしょう、私も聞いて居ます、扱いは通常通り行いなさい」
「了解しました」
まだ何か言い足りなそうな碧火に声を掛ける。
「まだ何か?」
「あれは全ての試験において百問中、九十九問正解です、そして不正解の問題はあの成績なら確実に可能な物を未回答での不正解です」
「・・・なるほど解りました、ですが華相院は国に奉仕する者を育てる場所です、そこをわきまえるように」
「相変わらずですね」
「大丈夫だよ、貴女が私の事を知らないと言ってくれてる限りはバレないから」
碧火が出て行き私が呟くと案の定隠れていた彼女が姿を現す。
「気を付けて下さい、あそこには様々な人が居ますから」
「大丈夫、私がそう簡単に馬脚を露すと思う?」
・・・いや全く思わないが一応だ。
「それじゃ、相談役が必用なら空に聞いてくれればいいよ、空は技術者だけど色んな事に精通しているから。」
そう言って彼女は出ていった。
「華相院か、私には大したことないかな」
それよりもこの世界の名前の出鱈目さに驚いている、アザトースが原因という事ははっきりしているけど。
門をくぐり、新入生が集められる広場へと向かう。
皆が集合して暫くすると、一段高くなった場所に一人の男の人が現れる。
「新入生の諸君、華相院への入学を歓迎しよう、ここではやる気の無い者は早々に退学してもらう。
そしてここの訓練生となったからには、あとで一人一人に木剣を与える、これを訓練生は常に携帯する事」
それだけで挨拶は終わり、試験の順位順に木剣を貰った。
その後部屋割りを教えられ、そこに行くと私と相部屋になるもう一人が待っていた。
「私は橘花と申します、これから一緒に頑張りましょう」
「私は星華、よろしくね」
彼女は筆記試験、能力試験ともに男子を上回っての二位、私が一位だからかなりの実力者だ。
訓練はその日から始まった。
武術の訓練として剣術の基礎を習い、それが出来ない者は何もさせてくれない。
私達は問題なくこなし、昼食を取って少し休み、ある部屋へと向かう。
少し狭い体育館の様な部屋に入るとこの華相院一帯を模した模型が置いてある・・・盤上訓練の教室だ。
そしてそこには少し前に見た男の人が座っていた。
「私は盤上訓練の講師を務める碧火だ、これを合格する者は殆ど居ないが、合格した者は司令官になっている」
そう言って碧火は書類を開き確認すると再び顔を上げる。
「今回の試験では非常に優秀な者が居た、最初は私がその者の相手となろう」
そういうと彼は名前を読み上げる。
「夜神星華、こちらに来なさい」
呼ばれていくと、座るように促された。
「それでは盤上訓練を開始しよう、この華相院で起きた反乱の鎮圧が今回の場だ」
「はい」
直ぐに盤上訓練が開始する。
マーガレットはこれをTRPGと言ったが私からしたら超次元のチェスだ。
相手の動きを見ながら兵を動かしていく。
「これより夜の場です」
報告と共に盤の間に衝立が立ち、手元にある地図を基に兵を動かす。
交戦は何度かあったが全ては私の勝利となっていく。
・・・おかしい、こんなに弱い筈が無い。
疑いを持ったら徹底的に危険を排除するように動き厄介な夜の場が終わった。
衝立が外されると、碧火を含め私を除く全員に驚きが走る。
攻め込んだ敵陣には敵大将の姿は無く、それは私の大将の真後ろにある、普通なら私の負けだが今回は違った、私の大将の後ろに居る敵大将は私の兵の駒によって囲まれていたのだから。
「状況から夜神星華の勝利です」
審判によって勝利を告げられ、私は一礼した。
「おや、私の負けですか」
「対戦ありがとうございました」
「こちらこそ勉強になります」
簡単なやり取りのあと授業が終わり私は橘花と一緒に食堂に向かう。
「凄いね、教官に勝っちゃうなんて」
「大した事無いよ、途中まで引っかかってたんだし」
何気ない会話をしていると首に木剣が付きつけられて箸を止める。
「なんの用でしょう、紅玉殿?」
「お前、何をした、教官に勝つなど不正以外あり得んだろうが」
言われて私は立ち上がる。
「そうでしょうか、強ければ勝つ、それだけでしょう」
「このっ」
「やめなさい」
木剣を振り上げた紅玉を当の碧火が止める。
「食事の場で喧嘩などみっともない、どうせなら運動場で決闘をしたらどうかね、食事後に」
「紅玉殿がその気なら受けますが」
「こいつ、やってやる」
「はいはい、それじゃあ食事が終わったら運動場にね」
そう言って碧火は何事もなかったかのように食事を再開した。
「星華さん、大丈夫なのですか?」
「私はここの試験を全種目一位で突破したんだよ、大丈夫だよ、むしろ紅玉の方が大丈夫じゃないよ」
そう言って私は不敵に笑って見せた。




