39話 厄介事
「・・・何だか国庫の中身が増えているのですが」
「賭けで勝った分よ、名目上だけは私個人の貸付ね、寄付だから返す必要は無いよ」
・・・いつものように聞きたい事の斜め上を返して来るが、最近はわざとか素か解らなくなってきている。
「それにしてもお風呂が使えるのは良いね、私のダンジョンにも欲しいけど生産に掛かるエネルギーを考えるとコストが高いからこっちを使わせて貰ってるよ」
それはどうでもいいのだが、聞きたい事がある。
「本当にイカサマはしてないんですね?」
「だからしてないよ、ほら見といて」
そう言って彼女はサイコロを幾つか取り出すと投げる。
「・・・これは」
そのサイコロの出目は全て一になっている。
「今のは十個投げた、解ったでしょ、私がやって公平な勝負は無い」
「こんな技術をどうやって」
「私が元居た世界では、親は居なかったし、当然収入も無いからね。校長だったアザトースが援助してくれてたからそれを元手に賭場に通う毎日だったからね、当然強くなるよ」
・・・・・・それでもサイコロ十個を同時に投げて出目をそろえるなんて神業は聞いたことが無い。
「言っとくけどコレ結構運だよ、私でも十個投げたら二三個外れる事はよくあるし」
・・・普通賭け事では三個ぐらいまでしか使わないと思うのだが、それを言っても意味が無い。
「一応私も賭け事の経験はありますが、腕前はそこまででは無いですね」
「基本運だからね、カードゲームならある程度の心理戦はあるけど基本は掛け過ぎない事だね」
・・・所持金オールベットする奴に言われたくない。
「私の場合は負けても困らないよ、前に換金してもらった砂金も持っている分のほんの一部だから」
空に採掘用の小形ゴーレムを作って貰い、それを使って居るらしい。
ダンジョンはそれ自体が鉱脈の様な物だから、長い間採掘を続けられるのだろう。
「そんな事より良い知らせと厄介な知らせがありますが、どっちから聞きますか?」
「・・・良い知らせから聞きたい」
それでは、と報告を始める。
「帝国内で反乱が起きたようです、成功に至るとは思えませんが、それなりの規模です・・・」
そう言った所で、彼女を見て言葉を止める。
「・・・何もしてませんよね?」
「する前に起きたみたい」
やっぱり企んでたか。
「それで厄介な方は?」
ああ、それは、と報告を始める。
「この国には華相院という兵を育て、この国の官吏となる為の訓練施設があるのですが、そこで問題が起きている様なのです」
「そんな場所で問題となると・・・教育の歪みか」
「その通りです、上の命令に従わない者が増え、命令系統を乱しています」
これは深刻な問題ですと言えば彼女は頷く。
「忠義を抱かない者ばかりでは、安心して眠る事すら出来なくなる、それでは国と呼べない」
「その上教官にも贔屓をしている者が居るとの噂ですが、そこまでの情報は回ってきていません」
報告を聞いて少しの間悩んでいた彼女だったが、やがて顔を上げて驚く様な提案をする。
「なら私がその華相院に入って、内側から何とかしてみます」
「貴女がそこの生徒になると?」
「はい、素性と身分は隠します」
・・・顔が割れている事について策はあるのだろうか?
「顔は別に解りませんよ、華相院の存在と問題は知っていましたから、武闘大会のあいだは彼らに臨時訓練として町の警部をさせていましたから。」
あれやったの彼女だったのか、私が上の立場の筈なのに知らない事が多すぎる。
「報告書に書いておいたよ」
・・・正直言って彼女の報告書は文字の量が凄くてなかなか目を通せていない。
「まあ素性隠すのは安心してください、何とかします、絶対にバレません」
「一応聞いておきますが、華相院でなにを学ぶか解っていますか?」
「大きく分けると『礼』『武』『知』ですね」
「・・・その通りです」
礼は規律と作法、武は戦い、知が兵術と策略を学ぶところだと彼女は言う。
「良く解っていますね」
「この国の仕組みについての資料は殆ど読んだからね」
・・・全ての資料のが合計でどれだけあるか、私でも把握していないのに。
「私が楽しみなのは盤上訓練とある物です、性に合わない物ですが、嫌いではありません」
盤上訓練は簡単に言えば物凄く複雑なテーブルトークアールピージー(TRPG)だ。
平面だけでなく上下の空間の概念がある巨大な盤の上で駒を動かして敵の司令官を倒す、もしくは撤退させる程の被害を与える事が出来れば勝利となる。
兵の駒も種類が多く、その効果の強さは振られるサイコロによって決まるから運の要素も強い。
更にこれを難しくしているのが昼と夜の存在だ、ある程度のターンごとにそれが入れ替わり、夜は敵の駒が見えなくなるからそれを予測する必要がある。
「それでは行くので手続きをお願いします」
「何か必要な物はある」
それの答えは面倒だったがあると便利な物だった。
「戸籍をお願いします、それでは行ってくるね」
少し前に報告した新しい小説ですが、これより数日遅いぐらいのペースで書いていくつもりです。
題名は現状は仮で「蟲の蔓延る世界」となっています。




