37話 帝国攻略戦2
「帝国軍が山を越えて来る可能性ですか、確かに盲点でしたね、今までは常に全く同じ場所から攻めて来ていたので、それが当然と思い込んで居たのかもしれません」
彼女の報告を聞いた私の言葉に彼女は頷く
「そう、確かに厄介、今まで使って来た索敵機構のプログラムの効果範囲を広げて、機構本体のアップグレードの必要がありそうだけど基本の構築を空に頼んであるから数日中に出来ると思うよ」
「感謝します」
「感謝しなくていいよ、それより敵の侵攻履歴を見た所、少し前から上の者が交代したみたいだね、明らかに違う人が指揮している。」
それは解っていた、明らかに今までとは違う戦いの仕方にこの間は対応が出来ていなかった。
「現在帝国には貴女に推薦していただいたジークフリードという男を密偵として送っています。」
「そう、なら大丈夫だと思う、あいつは私のダンジョンに入り込んで生き延びたから、私が契約をしてでも引き入れたからにはそれなりに実力がある」
・・・・・・彼女の言動にはいつも自分に対する自信が溢れている、自分自身の強さに対する自信は普通なら過信に繋がり危険を招くものだが、彼女の自信は他者から見ても彼女の実力に見合っているものだ。
緊急に会議を開き、対策を話し合う。
「・・・以上、ニュクス・ナイトメモリーの報告により、敵が今までとは違う場所から攻めて来る可能性があります。その上、敵の指揮官が変わっている可能性がある以上対策を取る必要があります、意見のある者は言って下さい」
問題ははっきりしているが、不平が現れる事も当然だった。
「彼女はダンジョンマスターですぞ、そんな者の発言を信用するのですか」
「それは・・・」
問題ないと言おうとするのを彼女自身が制する。
「信用してもらう必要は無い、その時が来るかは不明なのだから、ただ私は自らのダンジョンに奴等が山を越えて来ていた事を奴らの荷物などから知っている」
様々な言葉が飛び交い会議にならなくなってきた所で軍務尚書が言い放つ。
「どれだけ確率が低かろうと、そこから攻めて来る可能性があるなら策を講じておけばいいじゃねぇか、信用するしないはこの際関係ねぇ、この国を守る意思があるならやるべきだ」
彼の一言にその場に居た全員が俯く。
「彼は軍務尚書です、私は彼に軍事面での強化を任せるつもりですが、意見はありますか」
あの発言の後ではまともな反対意見も出る訳が無く、その後大まかな方針が決まり会議は終了した。
「お疲れ、進行役は大変だね」
「そうですね、今回は皆不安なのでしょう、貴女に反感がいく事を許して下さい」
そう言って頭を下げるが彼女は笑って答える。
「闘技大会で貴女が勝つように仕向けた事はバレてるからね、貴女が強くなって居ないと勝てなかったという事まで解っているとは思えないけど」
「・・・恐らく解って居ないでしょう、特に宰相は人を見かけの地位で判断する癖があります、有能ではありますが少し厄介です」
そう言って苦笑して見せると彼女も仕方ないと呟いた。
「この分だとアルは大丈夫そうだね」
「はい、軍務尚書は今まで以上に国の為に尽くしています、自身の給金も必要最低限しか受け取らずに」
「貴女も給金は無いも同然でしょう?自分の取り分に回す筈の給金を貧困層の生活改善の為に全て回してるんだから」
そんな事までバレていたのかと私は思わず苦笑いする。
「貴方は給金は要らないのですか?」
「当然要らないわ、食料は自分で調達できるし稼ごうと思えば稼げるから」
・・・その通りだ、彼女なら何とか出来る。
「そんな事より、厄介な事が起こってるね」
「・・・なんですか?」
思わず聞いてしまう。
「国が発展している証拠でもあるけど、このままでは面倒な事になる」
その言葉でそれが何か解る。
「・・・カジノですか」
「そう、しかも見て来た所、店側がイカサマとまでは行かなくても、かなり一方的に稼いでる」
「取り締まりますか?」
そう聞くと彼女はいつものように首を振った。
「ここは実力主義、なら実力で経営を立ち行かなくしてしまえばいい」
そういうと彼女は巾着袋を取り出して、紐を解き中身を見せた。
「これは・・・・・・」
言葉の出ない私に彼女は笑って言った。
「純粋な砂金が一キロあります、この国の貨幣に換金してください、私が能力を全開で大勝ちして稼いだ分全て国庫に送りますから」
完全に理解が追い付かない私に彼女は言葉を付け足した。
「あとカジノの店も買い取ってくるから、上手く使ってね」




