33話 食えない人
「体が重いし、疲れたし結構痛い」
「・・・貴女は賢いのか馬鹿なのか時々解らなくなります」
大会の後、いつもの様に屋上に寝転がって愚痴をこぼす彼女を見下ろして呟く。
「今までの奴でも疲労は凄かったけど、強化したらもっと凄くなった、ましになるかと思ったんだけどな」
そんな訳無い、ルール無視の身体強化なんてしたら体に掛かる負担は大きくなるだろう。
大体半魔物化しているのだから当然だ。
「あとあの魔法は効いたよ、いつ覚えたの?」
「訓練が終わった後ですよ」
「私があれを発動する練習してた時かー」
・・・彼女もしてたのか。
「それにしてもあれは一体何なんですか?」
「あれは今まで使って来た瘴気を自分自身に取り込んでみようって感じで新しく練習したんだよ」
そんなので新しいスキルを開発出来るのか・・・
「普通は多分無理じゃない?」
「・・・当然の様に読心術使うのもどうかと思う」
「この位普通、それより疲れた」
彼女は食えない、いや読めない、そしてなんだか憎めない。
「それにしても破魔の能力か、私は苦手だね」
「・・・人間には効果無いんですけどね」
「私ダンジョンマスターだからね、基本魔に近いんですよ」
ダンジョンマスターだからってのは関係ないんじゃないだろうか?
それを言った所で意味は無いから黙っていると、新たに設置された警鐘の音が聞こえてくる。
「敵襲、こんな時に・・・」
「皆疲労が蓄積しています、この状況では犠牲者を増やすだけです・・・私が行きます」
「それでは貴女の体がもたない!」
そう言って引き留めると彼女は少し考えるしぐさをする。
「少し外します、その間耐えて下さい、強化された城壁の防衛設備で敵を近づけないだけで構いません、それと豊を使ってくれて構いません、狙撃で多少は敵の行動を抑制できる筈です」
そう言って彼女は城壁を飛び降りていく・・・相変わらず人間の域を超えている。
そんな考えは直ぐに振り払って場内に入り、防衛の指示を開始する。
「・・・この数をどうやって?」
城壁の上から草原を見るとそこには大量の兵が居た。
現状はこちらの兵器に警戒しているようだが間もなく攻勢に出るだろう。
「兵器の調整は済んだで、発射や」
「貴方が居てくれて助かりました、空さん」
「助けるんは当然や、ワシもこの国に興味が湧いてきたからな」
その言葉と共に彼が発射指示をだすと、炎の塊が発射され、放物線を描いて敵陣の中に落ちると爆発を引き起こした。
「凄まじい火力ですね」
「結構回路の仕組みは簡単なんや、爆発する火の玉を作り出す術式を沢山作ってそれを一つにまとめて発射してるんや、ただ一度打つと冷却が必要で連射は出来んがその事を相手が知らない限り抑止力になるやろ」
彼の言葉の通り敵軍は後ろに後退する。
「射程から外れられたわ、せやけどこれだけや無いわ」
そう言って彼が支持を出すと今度はなにか丸い物が飛んで行き、敵軍の上空で破裂する。
「毒や、と言っても誤爆した時危ないから軽い痺れ薬やけどな、これで暫く持つやろ」
「大丈夫でしょうか?」
「星華が何とかするって言ったんや、なんも問題あらへん、ワシらは待つだけや」
そう言った途端彼は苦しそうにせき込んだ。
「大丈夫ですか?」
「ああ、ちょっと肺が悪いだけや、命に問題はない」
「それでも休んで下さい」
「ああ、あとは頼むで」
「・・・当然です」
日が暮れると敵が少しずつ近づいてきているのが解る。
「撃て!」
砲撃を開始するが殆ど当たらずかなりの数が近づいて来る。
「なにか来たぞ!」
声を聴いて遠くを見ると狐の集団が猛スピードで軍に突撃し倒している。
「何とか間に合った、星華に怒られなくて済みそう」
「豊さん」
気だるげな声に振り返って名前を呼ぶと、面倒くさそうに手を振り返してくる。
「妖狐の軍団ですか」
所々で起きる炎をみて言うと彼女は首を振る。
「あれでも一応天狐、私は神格があるから・・・星華は無いけど私より強い、ちょっと下がってて」
【氷弓術・霧雨】
彼女が魔法と弓術の複合スキルを使うと凍てつく様な冷気が起こり、彼女が撃った氷の矢は細かく分裂して敵軍を貫く。
「天狐に被害は無いのですか?」
「大丈夫、今は皆結構な熱を放ってるからあれぐらいなら届く前に溶けてなくなる」
そう言って彼女は今狙える範囲に居る、敵の部隊長に狙いを定める。
【氷弓術・氷柱撃】
今度は大きな氷柱が一本放たれ、敵部隊長を撃破する。
「暫くは耐えましょう」
「・・・そろそろ限界。皆、引いて」
彼女の言葉と共に天狐たちが引いていく。
「このままでは落ちてしまう」
「私の力不足、もっと強くならないと」
事が起こったのは敵が攻めて来て城の近くに辿り着き、攻撃を開始しようとした瞬間だった。
突如地面から湧き出たエネルギーの奔流が敵を吹き飛ばしていく。
「何とか間に合った」
「星華さん」
いつの間にか背後にいた彼女は頷くと敵の方を見る。
「まだ奥の本陣が残ってるね、さあ終わらせようか」
そう言って彼女が魔力で術式を組み上げ発動すると、地面から噴出していたエネルギーが収束し一つの姿を形成していく。
額に生える角、巨大な体躯、頑丈な鱗、四本の太い脚、巨大でかつしなやかな尾、そして獲物を射抜く眼光それは生物の王、絶対の覇者、ドラゴンだった。




