32話 闘技大会3
あれから何度かの乱闘騒ぎ以外のこれといった妨害も無く闘技大会も順調に進み準決勝が終わりを迎えた。
私は苦戦しつつも軍務尚書に勝利した・・・彼女はここまで全ての相手を一瞬の内に沈めている。
恐らく最後に当たるのは彼女だろうと予感はしていた、いやトーナメントの対戦表の作成を彼女がしていたのだからこうなるのは仕組まれていた可能性すらある・・・・・・絶対仕組まれてる。
『決勝戦は我が国の若き女帝、自由帝マーガレットと天から降ったか地から湧いたかどうでもいいけどその殆どが謎のダンジョンマスター、ニュクス・ナイトメモリーだ!』
「・・・結構酷い事言われた気がする」
呟いた彼女の言葉は対面していた私以外の誰にも聞こえはしなかっただろうが、雰囲気で観客も同じ事を思ったのが解る・・・少なくとも人々はダンジョンマスターの肩書を除いた彼女の実力を実感している。
「そんな事はどうでもいいや、今は戦いを優先しようか」
「そうですね、お願いします」
その瞬間試合開始の合図がかかった。
・・・一体何をされた?
気が付いたら地面に倒れていて全身に痛みがある。
「隙だらけだったよ」
その一言で解る、投げられたんだ、それも一瞬で。
素早く起き上がると彼女を見る、一瞬でも気を抜いたら駄目だ、それで勝てる相手じゃない。
そして一瞬で刀を抜くと切り付ける・・・彼女に教えられた力を抜いた状態からの一閃だ。
躱されるがそんな事は解っている、彼女に習った攻撃が通用するなどと思ってはいない。
これは試験だ、彼女に習った事を身に着けているかの。
そう思うと気持ちが軽くなる、問題ない、やれる。
「それじゃあ始めようか」
そう言って彼女が匕首に手を掛けた瞬間私に刃が迫ってくる。
それを受けて弾き返した時には彼女の匕首は鞘に収まっている、完璧な抜刀術だ、それにとても速い。
『これは、何でしょう?ナイトメモリー選手が攻撃したと思ったらその刀は鞘の中、常人のなせる技ではありません』
煩い実況だがその通りだ、常人どころか人間技じゃない。
何度も打ち合うが彼女は余裕を崩さない。
・・・あれを試してみるか、彼女の技を。
【抜刀術・斬首、公開処刑】
試合での刀は流石に実物では死人が出るとの事で殺傷力の極めて低い模擬刀に変更したがそれでも当たれば命に係わる、最も彼女がまともに食らう訳が無い。
「へえ、これ覚えたんだあの短い期間で、でもこれは相手が自分より遅い時しか使えない、だって首しか狙わないって事は的を絞る事で速度が上がるけど、逆を言えば防御も簡単って事だよ」
・・・その通りだ、本家である彼女に通用する筈がない。
だが私にしか出来ないものがある。
【ユニークスキル・退魔の法】
刀を持って居ない左手で作った剣印を振り下ろし、魔を払う魔力の塊を叩きつける。
「・・・これでも効いていないのですか」
「別に私人間だから、魑魅魍魎かなんかと勘違いしないでよ」
大差ないとしか言えない、むしろこっちの方がたちが悪い。
「それでもそれだけの強さがあれば多少開放しても大丈夫かな」
そう言って彼女はスキルを発動した。
【ユニークスキル・鬼女の理】
彼女の魔力が集積して彼女の額に一対の角の様な物が現れる。
・・・これはまさか魔力を直接力に変換しているのか?
本来魔法は魔力に全体的な方向性を決める〈概念〉と細かな情報である〈定義〉を与えて変換するが、恐らく彼女は鬼女という概念のみを与えてそのまま自分の中に取り込んでいる状態だ。
まさに本来のルールを無視した方法だ、彼女が今までに見せた狂気の開放は魔力を狂気と混ぜて解き放っていただけで、規格外なだけで実際は才能があれば子供でも似た事はできたが、これはしっかりした方向性を持って居る・・・明らかに今までとは格が違う。
彼女は体の調子を確認するかのように手を握ったり開いたりしていたがやがてこちらを向いた。
・・・強い、猛攻を防ぐだけで精一杯だ。
ただの身体能力強化にしては強すぎる、ここままでは危ない。
相手の攻撃は受け止めているがこっちから攻撃する隙が無い。
彼女の狙いは私の成長、ならば!
【ユニークスキル・魔滅の光】
退魔の力を持った太い光線が彼女の体を吹き飛ばす。
それと同時に私も膝を付く・・・この魔法はかなりの魔力と体力を消耗する、退魔の力で人間には効果が薄いがあの状態の彼女には効果があったようだ。
彼女は起き上がろうとするが、させはしない。
【ユニークスキル・退魔の法】
素早く剣印を振るい、破魔の刃を何度も飛ばした。
「・・・そろそろ限界、降参するよ」
唐突に上がったその声に私は耳を疑う、彼女はまだ本気ではないのだから。
『この大会の優勝者は自由帝マーガレットだ!』
頭に入るようになった実況と辺りの歓声を聴いて私は彼女の真意に気付く。
彼女はわざと負けたんだ、出来るだけ力を出した上で観客にはそれを全力だと誤解させておいてだ。
私もさっきまで本気ではない事など頭に無かった、それほどまでにギリギリだったからだ。
・・・だが彼女は人の実力を測る能力に長けている、私が全力を出して勝てる限界寸前の力で戦ってたとしてもおかしくはない。
そして彼女の目的は私が強い事を人々に見せる事、そしてダンジョンマスターが裏切っても私が制御できると思わせ、尚且つそれを従えた私を人々は今まで以上に信頼するようになる。
・・・何もかも彼女の掌の上か、だがそれも仕方ないのかもしれない、この大会は彼女の企画なのだから。
それでも勝利には違いない、今はその余韻に浸るとしようか。




