29話 帝国攻略戦1
私のダンジョンがある山の頂上から帝国がある筈の方向を眺める。
なんとなくだが見えない事は無い。
巨大な城壁の中にある四本の塔に囲まれた高い塔を中心とした帝国都市とその周囲の村で構成された帝国はそう簡単には落ちそうに見えない。
軍務尚書の言葉によるとあの城壁にはバリスタや大砲といった兵器が大量に仕掛けてあり、軍が近づけば集中砲火を受ける筈だ。
確かに厄介だが攻略の糸口は掴んでいる。
軍が近づけないならば、少人数で行けばいいのだから。
豊にダンジョンの守備を任せ、アリーと二人で帝国領に入る。
狙うのは帝国の本体ではない、周囲に点在している村を帝国を結ぶ道だ。
帝国は食料、鉱石、材木などほぼ全ての物資を村から集めている、そこへ運び込まれる道は一つ、そこを狙わないのは馬鹿か偽善者だけだ。
出来れば何か所かを破壊したい。
最初に狙ったのは村からの街道が合流してから一番最初に通る橋だ、夜になってから行ったので人通りは無く火を付けて焼き払った。
二か所目は左右が崖になっている谷の様な道、ここは空の試作品のテストを兼ねて強化型爆弾で崖を何か所も崩し、道を埋める。
三か所目は関所だ、警備が交替する僅かな間に開閉装置を壊し、開かないようにしておいた。
最後は城壁へと続く巨大な石橋に爆弾を仕掛けておいた、これはまだ使わずに置いておく。
「貴女の手段は効果は高い物ですが、戦争の手段としては民間人すらも巻き込みかねない危険な物です、こんな事が行われたと知ったら民がどう考えると思って居るのですか?」
後日マーガレットに報告すると文句を言われるが無視する。
「私は帝国領内が荒らされて居たと報告しただけですよ、どこかのゲリラがやった事なら問題ないでしょう?」
問題なのはやったのがこの国の指示であるとなる事なのだから、誰かが勝手にやった事なら問題ない筈だと嘯くとマーガレットは頭を抱える。
「それでも今後は気を付けて下さい、ただそのような行動をする可能性のある人物の行動を止める必要はありません」
余りにもしたたかな彼女の言葉に思わず苦笑する、つまりこの国に害を及ぼさなければ今後も破壊活動を進めて構わないと言っているのだから。
それにしても、とマーガレットは口を開く。
「最近国民に不満が溜まってきているようです」
「仕方ないね、ダンジョンマスターなんかを味方に引き入れたんだ、こんな怪しいのをね」
そこで、何か不満を解消できるような事は無いかと言われて、思いついた事を答える。
「闘技大会はどうかな?」
「具体的には?」
「まず、この国の兵士たちで予選を行って参加者を決める、そうしてトーナメント式で優勝者を決める」
そう言うと彼女は渋い顔をする。
「それでは不満の解消には・・・」
言いかけたのを止めてさらに話す。
「この大会には戦闘能力を持つ尚書、隊長、兵長などは強制参加する勿論私と貴女もね、これなら多くの人が見に来るだろうし、試合ごとに賭けも行えるでしょう、それに兵士たちの育ち具合もある程度は見れるでしょう」
そういうと彼女は頷いて具体的な時期などの決定を進めていく。
「勿論武器は実戦用の物で、訓練でも実戦用の武器を使っているので問題ないでしょう」
そう言われて私は頷く。
「まあ、私は武器は使わなくても大丈夫かもしれないけど」
私が本気で武器を使ったら危険かもしれない。
その言葉に彼女は苦笑して頷く。
「確かに一般の兵士相手には素手で十分かもしれませんね」
ある程度の時期が決まった所で私は彼女に一番必要な事を話す。
「貴女には出来る限り強くなってもらうよ、上に立つ者の実力を見せ、そこを目指すように兵の士気を上げ、信頼を得る事が今回の最終目的だから」
「解っています、訓練の相手をお願いします」
その言葉に薄く笑った私を見て、彼女は顔をこわばらせるがもう遅い。
「それじゃあ訓練の質を上げるよ、開催まであと数日なんだからその期間に出来る限界までやるよ」
「・・・お願いします」
「解ったそれじゃあ行こうか」
訓練場では周りの目があるのである程度の広さがある屋上で訓練を開始する。
普通の稽古だが容赦せずに攻撃を繰り返す。
「私と一対一の勝負は初めてかな?」
「そうですね、貴女は思って居た以上に厄介です」
そう言いながら彼女が繰り出した攻撃を軽く受け流して当身で吹き飛ばす。
「まあ何人かいればましだろうけど、一人だったら多少の攻撃は当たらないからね」
「貴女は攻撃の受け流しがとても上手い、そう簡単には当てさせてもらえませんね」
「今は受け流しだけは加減してないからね、そうそうやらせないよ」
そんな事を言いながらも全力での稽古を二時間ぶっ通しで行うと流石に限界が来たようなので休憩をはさむ。
「これから大会まで空いた時間は訓練に回すよ、あと雑務処理は私も手伝うよ」
それを聞いて彼女は固まる。
「大丈夫、大会には全力でいけるように休む時間はしっかり上げるから」
それまで頑張ろうねと言うと彼女はやがて諦めたのか溜息を吐いた。
「・・・はい」




