表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
15章 旧都
290/292

284話 旧都4

「では、降りようか」

「ええ」

 ましろに呼びかければ、即座に肯定が帰ってくる……懐かしい心地だ、私が記憶を覆ってしまう前、最後に行動を共にしたのはいつの事であっただろう。

「あの、降りるとは一体どうやって?」

「どうやってと言われても、ただ飛び降りるだけだ……ああ、ルナは一人で着地は出来ないな。白、この子を抱えてくれ、私より衝撃は小さいだろう」

「え、あの……」

「仕方ないわね……口は閉じて、舌をしまっておきなさい、うっかり嚙み切ってしまわないようにね」

 戸惑うルナを、白はその細腕で軽々と抱え上げ、そのまま木柵に足を掛け、宙へと飛び出した。

「ひっ」

 息を呑む音は聞こえたが言われた通りに口は閉じているようだ。それだけ確認して私も木柵を助走も無く飛び越え、地面に向かって落ちて行く。


 高層階からの落下の末、私は猫の様に容易く着地する。少し遅れて背中から一対の翼を生やした白がゆっくりと降りてくる。

「やっぱり一気に飛び降りるのは気持ち良いわね」

「最初の頃は落ちる姿を幻影で隠して居なかったせいで、偶然見てしまった者を随分と怖がらせてしまったがな」

「……凄く……怖かったです」

「だがこれが現実的な方法で一番早いからな……転送系統の能力であればその限りではないが」

 それに腕の一本や二本なら白が治してしまえるから多少怪我をしたところで問題は無い……なんなら生きてさえいれば瀕死からでも回復出来るし、私が一緒であれば死んでいても数分以内なら後遺症も無く強引に蘇生できるだろう……それくらいに白の能力は理不尽だし、私もまた同様に不条理なものだから。



 白が手配した車に乗り込み、目的地へと向かう。

 当然、もっと早く移動する術はあるが、そう遠くない距離だとのことと、情報の整理の為の時間が欲しいという事もあっての選択だ……私はあまり好まないが。

「依然と比べると随分と揺れが少ないな……それに車内特有の臭いもそれほどはしない」

 私が素直な感想を言うと、白は心なしか得意そうに答える。

「ええ、最近の電気式の自動車をちょっといじってモーター自身が勝手に回るようにしたの、燃焼の爆発を使ったエンジンと比べたら当然振動は少なくなるわね……臭いは念入りに消臭して香炉を焚いて誤魔化したわ」

 ……それはもはや勝手に回る車軸であって、モーターである必要はないのではなかろうか。魔術的にはモーターという”回転するもの”という装置としての概念があると仕込みやすいのは分かるが、白なら無から回る棒を作る程度は容易いだろうに……


「まあ、快適な事に文句を言う必要は無い、重要なのはこれから挑まねばならない相手の情報だ」

「そうね」

 白はそっと書類を取り出して眺める。

「この際本名はあまり必要なさそうね……今回の異形を生み出したのは最近ちょっと名前が売れた芸術家ね。個展を開いていた画廊がまるごと異界に変貌してるみたいで、入ったら多分簡単には出てこれないみたい」

「よりにもよって芸術家か……」

 芸術家は厄介な性質を持つ異形を生みやすい、人とは違う感性を持って作品を作り、一つ一つに魂を込めるような人物であれば猶更だ……しかも画廊一つを丸ごと飲み込む規模ともなれば、危険度はかなり高いだろう。

「それでね、この個展の目玉がこれなんだって」

 そう言って白が見せて来たパンフレットには、無数の植物の装飾が施された縁を持つ巨大な鏡の写真が載っていた、そしてその紹介文にはこう書かれていた

『幸福の鏡、この鏡に全身を映せばアナタは以前よりも幸福なアナタになれるでしょう!』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ