28話 自由帝4
彼女の働きで軍務尚書がこちら側に付き、今まで以上に国の防衛能力は高まっている。
彼女が何もない時に兵の訓練所で訓練相手をしてる為、少しずつ兵の士気と能力も高まっている様だ。
その日は彼女を呼び出して質問をする。
「それで何が聞きたいの?」
「貴女は・・・誰?」
そう聞くと彼女は面白そうに笑う。
「私は夜神星華、それ以上でも以下でもないよ」
答えをはぐらかされてしまった。
「なら貴女は人間ですか?」
そう聞くと今度は少し困ったように首を傾げる、その動作さえも蠱惑的だ。
「さあね、人間かもしれないし違うかもしれない、ダンジョンマスターってなんなのかな?」
今度の答えも論点をずらされる、個人の事をダンジョンマスター全体の事にすり替えられた。
わざとかどうかは解らないが話したくない事なのだろうと判断し話を変える事にする。
「貴女は何を願っているの?」
「私の望みは皆と笑って暮らせる世界、その為の障害は全て破壊するわ」
感情の籠らない淡々とした口調は全てを圧倒する。
「じゃあ貴女は何の為にそうなりたいの?」
その問いには今までの様に即答せず、彼女は暫く考えてから口を開く。
「私がそうなりたいから、そこに理由なんて無い、あるとすれば政治や俗世のドロドロとした面倒事にそろそろ疲れて来ただけ」
・・・・・・その気持ちは良く解る、私とて出来るのであればそうしたいのだから。
それでも、と彼女は言葉を続けた。
「私はダンジョンマスター、その束縛から逃れる事は出来ない、だから私は未来をつかみ取る為にダンジョンを難攻不落にする、入った者を皆殺しにする場所にね」
幸せを掴むために戦わなければならないなんて異常だと言えば彼女は苦笑する。
「それはそちらも同じでしょう、安寧を得るために戦わなければならないのは」
・・・・・・その通りだ、それにこちらは国である分行動にも制限があるし、背負う者の数も多い。
だからここは敢えて頭を下げる。
「お願いします、貴女の望みにそぐわない事は承知の上で頼みます、私たちに力を貸して下さい」
「・・・・・・既にそのつもりだと言った筈よ、でも改めて聞きたいというなら構わないわ、私はこの国に力を貸し、敵を退け、出来る限りの繁栄をもたらしましょう」
そう言って彼女は立ち上げると部屋から出て行った。
・・・かっこつけたはいいけどどうしようか。
思いっきり言い切ったからには裏切る事は無い。
だがこの国の制約に縛られていてはこの国は帝国に潰されてしまう。
帝国の攻撃に対する防衛しかしないのでは勝つ事は出来ない、勝つならばこちらから攻撃を仕掛けなければ相手は何度でも攻め込んでくるだろう。
それを何とかしなければ確実に負ける。
「・・・アリー、おいで」
一緒に来ていたアリーを抱きしめて空を見上げる。
「貴女はダンジョンを守っていて、私の帰る場所を、私は戦いを行うから」
そう言うとアリーは頷いて帰って行った。
その後呼び出されて広間に行くと、多くの兵とマーガレットが待っていた。
「その方たちは?」
「零隊の者たちです、刑を受けて軍に入った者で素性は色々ですが実力はあります」
「この者たちの隊長になれと?」
「はい、少し前に前の隊長が辞めてしまってからまともに機能していなかったので貴女ならまとめられるかと思いまして。」
そう言ってマーガレットは雑務があるからと帰って行った。
「あんたが隊長か?俺たちはそう簡単には隊長だと認めたりはしねぇ」
リーダー格の男が言って来たが適当に返す。
「名前は?」
「NO3、それ以上の呼称は信頼した相手にしか教えねぇ」
「そう、ならどうすれば隊長と認めてくれる?」
「実力を見せろ」
そう言われたのでさっさと城の外へと向かう。
そうして森に入ると私は簡単に説明する。
「貴方たちは私を倒す、私は貴方たちを倒す、それでいいかしら?」
「ああ、構わねぇ」
「なら私は一時間後に行動を開始するわ」
そう言って私は木々の中に姿を消した。
・・・森の中での戦いは十八番だ、彼らはそこらの兵士と違ってそのような戦闘にも慣れているだろうが私とは格が違う。
一時間後、私は宣言通り行動を開始する。
彼らも散開して私を探しているが見つけれる筈が無い、大体なぜ下を見る、穴の中に居るとでも、私は上、木々の枝を伝って移動しているのに。
部隊は20人だがまずは一人目のを後ろから締め上げて気絶させると近くに爆弾を置いて着火し少しはなれる。
爆音に驚いて集まって来る時にさらに一人狩ってその場に縛っておく。
「ここからは戦おうか」
彼らの背後に降り立って訓練用の木刀を抜く。
皆はそれぞれの武器を持って構えるが大した事は無いと判断する。
【ユニークスキル・殺人領域】
一気に切り伏せ、とっさに防御したNO3と名乗った男以外は皆気絶する。
「化け物だったか、降参だ、勝てはしない」
「合格ね、この状況で戦いを挑む様なら不要、自分の命だけでも守ろうとするのは正しい」
でも、と言って私は木刀を首筋に当てる。
「最後の切り札ぐらいはなにかもって置いた方がいい、さあ帰るよ」
そう言って気絶している皆を起こすと、王都に戻る。
・・・・・・行動を見る限り、私の作戦には使えそうにない、残念だが彼らにはマーガレット直属の私兵となってもらうだろう。
それには能力は関係ない、ただ作戦遂行を第一と出来るかだ、その為には非道な手段でも平気で取れる人でなければ・・・私の仲間たちに手伝ってもらう事になりそうだね。




