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星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
14章 訪れた夜
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280話 黄昏

 寝台から起き上がり、そっと床へ身を降ろす……精神を飛ばして遠くに用意した体を使うというのは、中々に難儀なものだ、あの体で使える最大出力を見せ、あの少女を誘う。 その二つは分霊体に任せる事は出来なかった、どちらも同じ自分ではあるとはいえ、私は主となる魂魄で行うべき事を望んだ。


 ……潮時だ、分霊体とアリスに行わせていた準備は粗方完了しており、計画はいつでも開始出来る。別に遅らせてはいけない訳では無いから、急ぐ必要性はさほどないが、そろそろこの不便な籠からは出ておくべきだろう。


「ルナ、外に行こうか」

「私……ですか?」

 傍らの少女に話しかければ不思議そうに返される、一度として神の宮から出た事のないであろう彼女は、私が覗き窓を開いて見せる世界の姿をとても興味深そうに見ていた……それ以外に彼女を連れだす理由が必要だろうか、たとえ彼女が危険な力を秘めていて、閉じ込めている方が安全なのだと理解していても……誰も、自分以外の誰かが何不自由無く生きられるようにする為に、枷を嵌められた生き方を強制されるべきでは無いのだから。


「ああ、そうだね、夜空を見に行こう……きっとどんな世界に行っても月は綺麗だから」

「……分かりました」




 部屋の扉の前に立つ、魔術で施錠されているが最早無意味でしかない……私を理解してしまったから。

 私は異形の力を持つに至れなかったのではない、こんなまともな姿をしているのが異常なのだ、正常である訳が無かった。

 アスベルガー、サヴァン、人の枠に当てはめた名だ……そう名乗った事自体が本来そうであるものに申し訳なくなるな……もっと醜悪で、穢れ切った怪物でしかないというのに……そんな怪物を人間の枠組みに当てはめて正常な結果が出る筈がないのだから……


「解き放て」


 扉に向かってそう言えば、一瞬で扉は塵となって消え失せた……ここまでする気は無かったのだが、思ったより施錠が強固だったようだ。

 ルナを連れて、廊下を歩く、目的地は無い、そもそも物理的に外の世界に繋がってはいないし、どこからでも出る事は可能だから。


「行くのですか……」

「ああ、この子も貰っていくよ、天使長どの」

「貴女なら、全て分かっているのでしょうね」

「恐らくは、そして全てを受け入れるよ」


 傍から見れば意味不明な会話だが、十分だ、互いに知っているし、相手は私を止める事は出来ない……いや、それどころか、今の私を留める事が出来るものなど皆無に等しいのだから。

 匕首を抜いて虚空に振るう、それだけで空間が裂け、私の願った場所に繋がる道となる。

 その裂け目に、私はルナを抱えて飛び込んだ。





 二人で静かな丘に降り立つ……少し座標がずれた様だが、寧ろ良い場所に降りたな、目的地が良く見える。

「ここは……」

「ここは私がかつて居た世界であり、帰る場所がある世界だ……そしてあれが私の帰る場所、()()だ」

 そうして私が指差す先には城郭都市のように壁に囲まれた大きな町があった。


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