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星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
14章 訪れた夜
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277話 異形の唄9


「僕は……間違っては居ない……間違った事はしていない……そうだ、あの子も分かってくれる筈だから、もっともっと名を上げれば……僕が偉大になれれば……きっと……きっと」


 少年は最後まで自分だけを見ていた。

 愛しい子の為という御伽噺のような建前の中に己の薄汚い功名心と英雄願望を隠し、それを必死で見ないようにした。

 そしてその愛しい子をありのままに見ようとせず、妄想で脚色したままに接し続け、その果てに拒絶されてなお……その妄想に縋りついた。

 御伽噺のように、強くなれば、英雄になれば……なりさえすればその子が振り向くと、幸福になれるという卑しい妄想に。


 少年の姿が変わる。

 漆黒の毛並みに、並みの倍はある体躯を持つ巨大な軍馬。

 その背に跨る純白の鎧を身に着けた大柄な騎士。

 その手に華美な装飾を施されたハルバードを構えたその姿は物語に登場する偉大な騎士の像であった。




「……全く、あの人は面倒なものを残してくれる……」

 それを見定め、武器を握り直す天音あまねに、横で微かにとよが笑う。

「まあ、私たちが目の前に居るだけ良かったと思おうよ……アレは、周囲に害を振りまく類だろうからね……」

「そうなのでしょうね……子等が武器を取る必要の無い事を願い、そうなるよう努めては居るのですが……」

「マーガレットさん、彼は武器を取り、戦う事を選択しました……それなのに、死の意味を理解せず、英雄譚に縋りついているのですから……」

「もちろん、アレだけの責任じゃないだろうね、自己責任というにはちょっと幼すぎるから……でも、幼いというだけで、現実から目をそらす良い訳にはならないだろうね」


 豊が真っ先に動く、脇差しを軽く振るだけで強い冷気が巻き起こり、騎士の近くでつる草に縛られていた輝夜かぐやを、その身を縛る蔦を凍結、破砕することで助け出す。

「……私にコレの対処を手伝えと?」

「そう、お願いするね」

 軽く言われた輝夜はため息を一つ吐いて騎士を見る。

「面倒ではあるけど……まあ私もコイツを一発張り倒してやりたいとは思ったし……」


 そう言ったその瞬間自身に振り下ろされたハルバードの刃を、輝夜は後ろに飛んで躱す。

「Don Quixote de la Mancha……虚構と妄想だけを見つめ、自身が見たいようにだけ世界を見続けた騎士の道に残るものは……物語のように喜劇となる事は決して無いだろうから……」




「敵は……どこだ……偉大なる騎士の歩む道には……相応しい敵が……」

「……醜悪な奴やなぁ……己も復習にばかり目を向けていたら今頃はこうなっていたと思うとぞっとするな

 しみじみと呟くうつほに振り下ろされるハルバードの刃が迫る……だが。

「ただ、力任せに振り回すだけの刃で私を傷つけられるとでも思っているのか?」

 空は翼で受け止め、軽く弾き返して見せた。




「……皆が幸せになれる道を見つけるのは難しいのでしょう……あの人の計画がどのようなものか想像も出来ませんが……それでも多くの人を救う一手ではあるのでしょうね…………だけど、あなたがこのまま進めば破壊と悲しみ、そして憎悪しか生まないのは私でも想像がつきますから……」

 天音は己の武器を構える、騎士に挑むように。

「偉大でも崇高でもない、ただ暴力的な戦いを始めましょう」


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