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星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
14章 訪れた夜
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275話 異形の唄7

 烈火と迅雷、二つの武器が重なり、周囲にその余波をまき散らし焦土へと変える。 雷光が草木を打ち倒し、劫火がその全てを塵に返す。

 その中心に居る二人にの目には、もはや互いしか映らず、立場や信念、憎悪に懺悔、それらすべてのしがらみなど、一遍でも心奪われれば命を狩られる不純物でしかなかった。


「……私も、あのような戦いをしてみたいものだ」


 とよとマーガレットの二人を軽くあしらい、その戦いを横目で眺めながら、星華せいかまぶし気に目を細めてそう呟く。

「それほどまでの強さを持ってなお、まだ足りないというのですか……」

 マーガレットの言葉に星華は静かに首を振る。

「足りぬのは私の暴力ではない、それに対するお前たちの方だ……現に今も極限まで加減した私に触れる事すら出来ないではないか」


「じゃあ……見せてよ、本気の星華ちゃんを、目指すべき場所くらい見せてくれても良いでしょ」

 豊の言葉に星華は笑った、冷笑や嘲笑などではない、素直な苦笑だった。

「良いだろう、剣鬼とさえ呼ばれるに至った純粋な力の極致、どうせ見えはしないが、味合わせてやろう」


 星華が手にした短剣を素早く振るとその刀身が変化し、打刀へと姿を変えた。

「……いざ」

 一瞬その体が沈んだその刹那の瞬間、彼女の姿が消える、豊の冷気で凍結した大地を踏み砕く音と共に、認識する事すらも不可能に近い速度で飛び出す……二人は刃が肌に触れる熱い感触だけを知覚し、背後に回った星華に対し、彼女と比べると恐ろしい程の遅さで振り向こうとする……しかし、その時には星華は()()()()()()()()、二人に向かって地を蹴って跳ね、ふわりと浮かぶと共に、急襲するかのように鋭く降下し剣を振るう。

 二人は明らかな死を感じ、動きを止め……そして何事もない事にようやく気が付く。


「……峰打ちだ、それに強くは打っていない、刃であれば打つ必要などなく、ただ骨肉に通すだけで済むのでな」

 そう言う星華の手にはいつの間に持ち替えたのか、打刀が逆手に握られており、その言葉が真実である事を示す。

「はは……知ってはいたけど、ほんとにとんでもないね……ほんの少しでも貴女に迫れたと思ったのに……貴女は私が生涯をかけてすら、指先一つ届くかも怪しい高みに立っている……」


 星華は静かに目を閉じる……だからと言ってその気配は圧倒的であり、不意打ちなど意味が無い事は明白だった。

「人と鬼の間に生まれた半妖、それだけであればどうにでもなったのだろうな……ただ、私は剣に依って生きるばかりしか道を識らず、数多の命を斬ってきた……その中には夢を背負い、妖魔の姿に至ってまで叶えたい思いを抱く者も多い……人を斬り、夢を斬り、願いを斬り、祈りを斬る……そうして背負った死穢は純粋な妖魔ですら背負わぬ程であり、そうであれば、私はもはや己を半妖の器に留める事も能わず、同胞であるあやかしにすら恐れられ……いつしか仏門に語られる三障四魔が一つ、死魔の化身とすら語られ、畏怖されるようになっていた……そのような事は、望んでは居なかったのだが」

 そうして星華はゆっくりと目を開く。

「そのような名は好みでなくてな……まあ、名乗る名も無いと困るので妖共には別の名を名乗っていた……ただ、魔人と」


「星華ちゃん……」

「……語りすぎたか、だからまぁ、私に届かぬ事に嘆く事はない、長きにわたって死を振りまき続けたのだ、その中で私に迫るものは皆無ではないが、その総ては最終的に私に屈する事になったのだから……」


「だから……私は弱きものを嫌う事はない、そんな事をすれば現世うつしよの全てを嫌う事になってしまうのだから……故に私は救いたいのだよ、傲慢で一方的な方法だとしても、縁のある目の届く範囲は……そう、あの子たちも」

 そういって星華は激しく戦う二人を見る。

 そして薄っすらと笑って言い放つ。

「千里すら見通す目を持つのなら……目の届く範囲はこの世界全てになっても問題はあるまい?」

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