27話 拷問
付いて来ようとした豊に中に入らないように言って元軍務尚書を地下牢の壁にある短い鎖に繋がった枷で両腕を背中側で固定し、座った状態から動けないようにする。
「さっさと起きろ」
相変わらず気絶していたこいつに水をぶっかけて起こす。
「私を殺さないのか?」
「別に逃げられた所で大した問題はない、それより聞きたい事がある。」
「拒否権は」
「・・・ああ無いな、だが答えないという選択を選ぶ事は出来る」
その言葉を聞いて彼はならばと笑う。
「そう簡単に答えるとでも?」
「拷問するだけ、話すまで」
空に自白剤を作って貰う手もあるから実際は必要ない、ただの脅しだ、今の所は。
「話すとでも?」
私は細い針を取り出して彼の腕に刺す。
「ぐっ・・・」
神経が集まっている所に刺せば痛みだけを与える事など難しくない、範囲は狭く分かりにくいから普通の人間には無理だろう。
「・・・こんなもので口を割るとでも思ってるのか?」
「別にどうでもいい」
「こいつは・・・」
拷問は体より精神を攻めるのが良い。
針を抜いて水分を与えた後、この時計で一時間後にまた来ると言って時間の進みが二分の一の時計を置いて地下牢を出る。
それ以外に部屋に物は無いから閉じ込められている限りそれを信じるしかない。
別にカラクリはばれるだろうけど構わない。
そして二時間後に地下牢に戻って時計を回収する。
「もう二時間か、早いものだ」
「この時計では一時間だけどね、じゃあ再開するよ」
後はただの尋問を暫く続ける。
勿論返答は得られないが問題ない。
今度は明日にまた来ると言って、足に鎖を付けて腕の拘束を外し、食料を置いて地下牢を後にする。
その日は城の防衛設備の作動プログラムを再構築して汗を流し直ぐに寝た。
そして次の尋問は午前零時、日付が変わって直ぐだ。
「・・・もう来たのか」
「日付はもう変わってる、さあ始めようか」
今度はまた針も使って尋問を繰り返す。
取り敢えず早めに切り上げ、また食料を置いておく。
そのあと女帝マーガレットと一緒に豊と空も呼んで食事を取る、朝食はスクランブルエッグと固焼きのパン、それとハーブティーだった・・・この世界にも普通の食材はあるようだ。
朝食の後は皆を相手に訓練を行う。
全員が限界を迎えた所で地下牢へと向かう。
「朝から訓練か、呼吸が荒いぞ」
「まあ三人を同時だからね、多少は疲れるよ」
「あのレベルを三人か、凄まじい戦闘力だ」
そんな事はどうでもいいと切り捨てていよいよ今まで聞かなかった本題に入る。
「貴方は貴族の生まれでは無いようですが何故帝国で高い地位を築けたのですか?」
彼は元々帝国でそれなりの地位に居た事は解っている、だが彼が平民の出身である事も見当がついている。
「俺は元捨て子だよ、それが子供の居なかった貴族に貰われてな、その地位を少しだけ譲渡されたのさ」
「・・・・・・捨て駒とする為に?」
「その通りだ、ここの女帝を倒すための密偵として働いていた」
「なら何故貴方は負けた?最初から本気を出していれば負ける事は無かった、そして裏切りが悟られる事も無かった筈、それなのに何故わざと裏切りを悟らせた?」
「そこまで解っていたか、大した事じゃねぇ、情が沸いたんだよ馬鹿らしい、あの自由奔放な嬢ちゃんはちゃんとしている割に危なっかしいんだよ、まあ仲間が裏切る事なんて考えて無いような奴だと思って居たがそれは間違いだったようだな。」
・・・本当にこいつは面白い、ならば。
「貴方に軍務尚書を継続してもらいます」
「どういう事だ?」
そこに私は紙を一枚見せる。
「ここに書いてある通り、女帝の許可は貰っています、一旦は彼女が軍務尚書を兼任する事も考えましたが、今までの事を見ると貴方の方が向いています」
「また裏切るかも知れねぇぞ?」
「女帝からの伝言です、『私は貴方を信じる、でも裏切るなら好きにすればいい』と言っていました」
その言葉に彼は苦笑いをする。
「甘ちゃんだと思って居たが大した器だよ全く、ああ構わねぇ、周りの者が俺を認めるかは知らんがな」
そう吐き捨てた言葉に笑顔で返す。
「今までの不在は敵勢力の確認と次への対策を私としていたという事になっています、貴方の裏切りは女帝と私の仲間しか知りません、一切の問題はありませんよ」
それを聞いて彼は地下牢の天井を仰ぐ。
「最初から全て計算済みか、やっぱりお前は危険だな」
「手合わせしてみますか?」
「いや、必要ない、お前に勝てる訳がねぇ・・・どうせなら俺を倒したあれに勝ってからだ」
「頑張りなよ、必要なら稽古の相手ぐらいはするから」
「・・・お前も相当器が広いな」
鎖を外すと彼は立ち上がり私と握手をする。
「俺はアルバート・ルキフグス、今後はこの国の軍務尚書として最大限帝国の知識を生かしていこう」
私は頷いて本名を明かす。
「私の本当の名は夜神星華、これは信頼の証、女帝以外にこの国で知る物は他に居なかった。」
「なるほど、感謝する」
「女帝が許しても私は裏切りを認めない」
その言葉に彼は豪快に笑って言った。
「無論だ」




