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星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
14章 訪れた夜
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272話 異形の唄4

「別に、貴方達を殺すつもりはないよ……あの国も随分と居心地が良い事だし、敢えて外に出る気もない……ただ、エル、貴方が私を否定するから、二度と生意気な口を利けないように、仕置きするだけ」

 そう言って一歩前に出るセイに、輝夜かぐやは苦笑する。

「聞きたくない言葉からは耳を塞ぐ……」

「当たり前でしょう? 誰もがそうしてる、自分が欲しい言葉だけを信じてそれ以外には耳を貸さない……その癖して下に見ている相手には忠告とか言って、訳知り顔で偉そうに説教してばかり。  『貴女の境遇は理解しているけど、他人の事を考えなさい』だって? 私と同じ目に遭ってみろ……反抗など許されず、服で見えない部分は殴られて痣だらけで、名前も知らない男に毎日迫られ、暗い納屋に押し込められ、何時邪魔になって始末されるかも知れない日々を……何年も何年も過ごしても、同じ事を偉そうに騙れるのか見てみたいな」

 彼女の憎悪に呼応するように、彼女を囲み、守るように植物の蔓や枝、根が伸び……対照的に地面はひび割れ、涸れていく。


「私のものは、私のもの、他人のものは、他人の物……自分の分が用意されていないなら、どんな方法を使っても手に入れる……そうでしょう、自由も、命も、幸福も、満足も、何もかも奪われたから、今度は私が手に入れる番」

 そう静かに笑う彼女にエルは震える両手で剣を構える。

「……そんな恨まれるだけの幸せなんて認めない」

「……なんで貴方に認められないといけないの、私の幸福に他人の許可なんて必要ない」

 

 鬱陶しそうにセイが指を鳴らすと、彼女を守護していた植物が一斉に生命力を失い、枯れていく。 数秒の後にそれらは塵芥と化して崩れ去り、ただ一人の姿だけが残る。

 三人を囲い場を作っていた植物の蔦も生命力を失い、茶色く乾いているが、こちらは崩れる気配はなく、丈夫な壁となっている。



「やっぱり……どれだけ話しても分かり合えはしないのだから……さっさとやり合いましょう」

 軽く地を蹴る音と共に、エルに距離を詰めたセイの回し蹴りが腰を捉え、エルの体が吹き飛ぶ。

「大して使えもしない両手剣で恰好つけても、実力が伴わないんじゃ子供の玩具と同じ……玩具ねぇ……」

 セイは地面に転がったエルの剣を拾い上げ、片手で数度振ったが、すぐに飽きて放り出す。

 おもむろに輝夜に向き直ると同じように前に出る、輝夜はそれに合わせて一歩下がり、片手で銀の鋏をナイフのように振り上げ、それを退ける。

「生命力を吸収しての自己強化、もうちょっと接近戦に向いた人の方が良かったかな……」

「ええ、ここに居たのがとよさんであれば、私も引き下がるしかなかったでしょう。 そして、もしあの方であったとしたら……私の事も受け入れて貰えたのでしょうか……」


 エルは何とか立ち上がり、剣を拾い上げて再び切りかかるが、既に力の入らない腕では大した速度も出ず、素早いセイの裏拳で刀身の横を撃ち抜かれて再び剣を落とし、そのまま当身を受けて崩れ落ちる。

「諦めなさい、その程度の強さじゃ私には勝てない」

 セイが手をかざすと、地面から生えてきた植物の蔦がエルを持ち上げ、縛り上げる。

 その隙を狙って動こうとした輝夜であったが、彼女もまた背後から忍び寄っていた蔦に気付かず、素早く縛り上げられてしまう。


「さて……止めを刺す事は無いのだけど、どうしようか……多少暇だけど、まあいいや、向こうが終わるのを一緒に待ちましょう」

 そう言ってセイはエルに軽く笑いかけ、囲いとなった植物の一部に穴をあけ、遠くの戦いを面白そうに見物し始めた。

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