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星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
14章 訪れた夜
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271話 異形の唄3

 生きること、それは自然であり、悩むべくもない事であるはずだ。

 ただ人だけがそれに意味を求める、無意味から意味を見出そうと愚かにも努力を重ねる。

 ……ならば意味が持たねば生きてはならぬというのだろうか、御伽噺のように誰もが自分の生きる意味を持つ事こそが正しいのだと。

 もしそうであるのなら、私が間違っているのかもしれない、意味もなくただ生き永らえる事を望むのだから。


 私にとって幸福とは遠くから眺めているものでしかなかった、楽しそうに遊ぶ子供達も、日が暮れて我が子を呼ぶ親の声も、帰りを待つ家族の姿も……欲しいと願ったところで、最初から存在せず、ただ幸せそうだと見つめるばかり。

 家族は無く、働くだけの体力も無い私には村人の慰み者として施しを受けるしか生きる道はなかった。逃げ出そうにも行く当ては無く、奴隷狩りにでも捕まって売り飛ばされれば運が良い方で、飢えて死ぬのが見えていました。


 それなりに楽な暮らしを出来るようになったものの、私の本質は変わってはいなかった、この生活もいつか奪われ消えるのではないかと恐れていた。

 だが、真に死に直面してみればどうだろうか、ただ生きたいという願いしか出てこないではないか。結局生きてさえいれば幸福も豊かさも後付けで手に入れてしまえばいいのだから。

 ……手段を選ばずどんな方法を使ってでも、望むものを掴み取る。今ここに居る自分だけを見つめて、ただ手を伸ばすことが悪だというのならば、それでいい。




 繭を裂き、外に出れば見慣れた者と、顔と名だけは知る者が居た。

「セイ……」

 名を呼ばれても私は気にせず、魔術で一本の木を生やす、林檎の木だ、食べられればなんでも良かったが、手に取って食べやすいからそれにした。

 一瞬で結実し、熟したその果実を一つもぎ取って齧る。

「あなたは何になったの……」

 その言葉を聞いて自身の姿を確かめる……元からさほど変わってはいない、人の姿のままだ。前と違う点としては、両手の甲の中央、そして胸の谷間の少し上、左右の鎖骨の間あたりに、菱形の濃い緑色の宝石が埋まっているだけだ。

 宝石は己が持っていた木気を操る宝玉が変じたものだろう。形状は球から菱形に変わって居るが、それは三つに分かれた事と、肉体と融合する上で球状では不便だったのが原因だろう。


「……私は人間です、望んだものを欲しがるだけの」

 不思議と言葉が簡単に出てきた。

「セイ……お願い……」

「元に戻って、とでも言うつもり?」

 愚かな事を言う彼に話しかける。

「エル、私は誰かの慈悲に縋って生きるのはもう御免なの、なんで皆は自分の好きなように生きてるのに、私は他人の好きにされないといけないのかな」

「でも……」

「別に進んで他人を不幸にする訳じゃない、幸福は限られてるんだから無くなる前にそれを手に取るだけ……その結果全員に幸せが生き渡らなくても、元から誰も気にしてないでしょ」

 幸福を等しく分け与えるなんて御伽噺の綺麗事に過ぎないのだから、誰もが自分の幸福を守るのに全力を尽くすのに、差し出されるまで待っていたら飢え渇いて死んでしまう。


「……同じく変わった貴女あなたならもう少し話が通じるでしょ、貴女は何を望んだの?」

 エルの横に居た彼女に話しかける。

「……私の望みは、私の望む結末へと進む事、その為に望まぬ筋書きを書き換える力を望んだ」

「なら、私と変わらないね」

「そう、変わらない、それにあなたがどう進んだとしても私の望む結末には大きな差は出ない……だから、ここは彼の決断に従うことにする」

 ……それなら仕方ない。


「エル……もし私が欲しいならあげようか、私も別に貴方の事は嫌いじゃないし」

 彼の好意は知っている、ただ答える気が無かっただけだ、穢れた身では価値が無いと勝手に他者の物差しで判断していた。だが真に重要なのは彼の物差しでしか無いだろう。

「セイ……どうして……」

「欲しいものを欲しいと言うのは普通でしょう、既に色々穢れた身だけど、それでも良いなら一緒に居てあげる……婚姻に関しては考えさせて欲しいけど」

 私にとっては今更大した価値のあるものでもないし、彼なら酷い目に遭わせるはしないだろうと信頼しての言葉だ……どうやらあまり喜んではいないようだが。


「セイはそんな事言う子じゃ……」

「貴方が知らないだけで前からそうだよ、穢されて壊れた生き人形、一番誰かに助けてほしい時には誰もいなかったけど……それでもこれは貴方が私を想ってくれてる事を理解しての言葉」

 きっと彼は理解しないだろう、そうなれば結果は一つだ。

「ごめん……セイ、僕には君の気持ちは分からない……ただ僕は君に今までの厳しくて優しい子に戻ってほしいんだ……」

「そう……それが貴方の願いなら……」

 蔓や枝が絡まり、私たちを囲い空間を作る、誰にも邪魔をされずに戦うための広場を。


「私が貴方に願うのはただ一つ……それ以上私を否定するな」


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