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星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
14章 訪れた夜
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270話 異形の唄2

「あっちの方は私がなんとかしてみます」

 そう言って輝夜かぐやが植物の塊のようになったセイを指す。

「ですが一人では危険で……」

「分かって居ますが、どう見てももう片方の方が遥かに緊急性が高いでしょうし、戦闘能力が高いでしょうから」

 心配するマーガレットに対し、輝夜は機械の天使と化した空に目を向ける。  近くの存在に無差別に蔓を伸ばすセイとは違い、天使は自身から攻撃する様子は見えないが、その戦いは()()と呼ぶべき正確さと効率を兼ね備えており、その上、地に根を張った植物と違い移動できるという事自体が問題となる筈だ。 それが偶然であれ、一本の矢でも届いてしまえば敵として認識されるのだから。


「でも、一人だと危なくなっても逃げられないよ」

「そう、私は皆と違って機動力はあまりないから、でも、色々と理不尽を押し付ける力はあるからね、勝てなくても耐える事は出来るし……」

 口にはしなかったが、彼女は相手が植物であるなら確実に始末する方法を持って居た、流石に殺す訳にはいかないから使うつもりは無かったが、その方法は一つではなく、また生かすにしても相手を何十年か眠らせ続ける事すら可能である。


 ただ、ゆっくりと相手を眺めた輝夜は未だに蔓に縛られているエルに目を向けた。

「死ぬかもしれないけど、貴方も来る?」

 必死に首を縦に振るエルを見て、輝夜はとよに目を向ける、それだけで豊は了解して、強い冷気で蔓を凍結させると容易く蹴り砕く。

「どんな形であれ、彼女が望むように生きていればいいと思うけど……それでも自分を失って欲しくは無いから」

「御伽噺のような結末は来ないと思うよ」

「分かっています、それでも構いません」


 エルが鍵縄で降りる横で、輝夜は壁を歩いて下りている、異形の力によって作られた銀の靴は輝夜が目的地と定めた場所に導き、そこにたどりつく力を与えてくれる。 徒歩を超える速度で動ける訳では無いが、目指すべき場所さえ分かって居れば適当に歩くだけでもいつか辿り着く事が可能だ。

 地面に着けば魔物が襲い掛かってくるが、既に数は少なく、群れでなければそこまで脅威ではない魔物ばかりである以上、ある程度は訓練を積んだエルと、異形の力意外にもそれなりに魔術を使える輝夜の敵では無かった。


「邪魔ね」

 一匹の小鬼が正面から突撃してくるが、指を向けた輝夜が二言三言呪言を唱えればたちまちのうちに小鬼は小さなネズミに変えられ、逃げて行った。

「そんなことまで……」

「思っている程長くは持たないよ、せいぜい十分程度しか変えられない」

 本気で呪術を学んで居るのならより強力な呪いも使えるのだろう、だが、彼女の術はあくまでも物語の魔女の力を借りているに過ぎず、正式な手順を踏んだものでは無い以上、目の前から去った物に影響を与え続ける事は不得手で、人間に効果を及ぼす事も難しい。 それでも、やられる側にしてみれば理不尽である事に違いは無いが。


「……これは、木で出来た繭のようね」

 セイの下へと辿り着き、輝夜が呟く、植物の繭は未だに周囲の死体を手当たり次第に引きずり込み、養分を吸い尽くされて出涸らしのようになった死体が吐き出されて捨てられている。

「僕に出来る事は……」

「さて、厄介だね、これが繭なら下手に割ったら中の蛹に影響があるだろうし……被害が拡大しない様に抑えながらあっちが終わるのを待つべきか……」

 そう言って輝夜が遠くを見れば、機械仕掛けの天使に挑む3人の姿が見える、直ぐに片が付く事は無さそうだ。


「そうだね、あまり死体を吸収されない様に伸びる蔦を抑えて暫く時間を……」

 そう言って振り返った輝夜に、エルが冷静に言葉を返す。

「……そうはいかなさそうです」

 植物の蔓に根、枝葉が絡まって出来た球状の繭にはいつの間にか無数の蕾が出来ており、今にも花開こうとしていた。

「開花……そして羽化」

 繭の中から静かな、それでいて力強い鼓動が響く、その緊張感に僅かに集まって来ていた魔物すら繭から目を離せず、警戒する様子を見せている。

「身構えておきなさい……相手が話を聞いてくれる状態な保証は無いから」

「分かって居ます、強引にでも正気に戻す覚悟は出来ていますから」

 自我を取り戻してもそれが正気と呼べる状態かは分からないが、少なくとも話は出来る。

 それが分かって居るからこそ二人は身構え……そして繭に亀裂が走った。

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