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星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
14章 訪れた夜
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267話 笑顔の伝道師7

「邪魔をするな」

 ただ、そう言い残して、うつほは鍵縄を用いて城壁を降りる。

 群れて襲い来る魔物の群れに、右腕を振るい、ガントレットに仕込まれた鉤爪で肉を切り裂く。

 その武器は何度も改良を重ねており、以前に比べて遥かに軽く、多くの武器を仕込み、それでいて変わらぬ丈夫さを誇っている。

「……こうして同じ高さで対峙してみれば、随分と数が多い」

 目の前の相手を倒すだけであれば問題はない、改善された身体能力はそれなりの時間戦いを続ける事は可能だし、それに耐える武器もある。

 それでも、敵を突破し、突き進むだけの力は無かった……以前までは。


「燃え上がれ」

 突如として空の周囲に炎が走り、魔物の群れを焼き払う。

「流れた血、焔となりて全てを焦がせ」

 星華せいかの残した術式の中には関わりのある個々人に向けた物がある、空に向けた術式は二種類だった。

 一つ目は、流れる血を操り、流れを生み出し、霧として空間に満たす術。

 二つ目は、血を燃やし、炎を操る術。

 その二つによって敵に攻撃して流れた血を使い、火による追撃、破壊などを行う事が出来るようになった。 以前はガントレットに火薬を仕込んで周囲に散らし、火を放つ事で周囲に対する攻撃を行えるようにしていたが、仕込める量は少なく、小型の爆弾を直接持ち歩く方が余程建設的だったのだが。 その術によって補充の必要も、持ち込める量による制限も無くなり、戦いによって血が流れる程に破壊力を増す武器を手にする事になった。


 前に踏み出し、鉤爪で引き裂き、血を流させる。

 主となる武器の鉤爪は鋭利さを重視し、猛禽類のそれと同じように肉を抉るように裂傷を与え、効率的に血を流させる。

 二つの魔術は術式としてガントレットに刻まれており、魔力を流してやるだけで起動する。

 単純かつ、簡略化されたそれは非常に便利なものであり、非常に危険なものでもある。


 とはいえ、弱点が無いという事もない、血を流さねばならぬ以上、初撃で使う事は出来ず、血の流れないゴーレムやスライムといった魔法生物はあまり得意ではない。

 そのような弱点も、その術のみに頼るのでなければさほど問題にはならず、普段はただ周囲を巻き込む危険性だけに注意していれば問題はない。




 飛び散る血飛沫ちしぶき、空間を流れる炎、それらを全て避け切る事の出来る魔物など存在せず、空はゆっくりと前に進む。

 ……しかし心はそこには無く、ただ考え続けていた。


 ……己は一体なんの為に戦うのだろうか。

 嘗ては復讐を考えていた、宗教がらみの小競り合いで家族と相打ちになった者達の最後の生き残り、天音あまねを始末すれば、どうにか過去と折り合いを付けて生きられると。

 もし彼女がもっと自分の事ばかり考えていたのならそうしただろう、だが彼女は己のものではない家族の罪の贖罪の為に戦い続けている、どれだけ多くの人を救っても、とうに帰らぬ人を想う彼女が満たされる事は無い、ただ失われたものを数えて苦しみながらそれでも誰かの為に生きる。

 そんな彼女をどうして殺す事が出来ようか、ただ自己満足のやつあたりに過ぎない復讐など、完遂したとしても己には何も残りはしないのだから。


 ……考えれば考える程に己の空虚さを見せつけられるようであった。

 どんなものであれ目的を持って生きる者達と、大した意味もなく生きる自分、それらを見比べるたびに虚しさに襲われる。


 言葉使いを変えた、少しでも己らしさを見出したかったから。

 慈悲を覆った、目の前の敵に武器を振り下ろすのを躊躇わぬよう。

 夢を壊した、生き抜くにはそんなものを持つ余裕などなかった。


 ……そうして己に何が残るというのだろう。

 ……何も残りはしない、ただ空虚な人形がそこにあるだけだ。

 それなら機械の人形と何が違うというのだろう。

 歯車の様に廻り続け、ただ決められた通りに動くだけの機械、己はそれと大差ないのだろう。


 ……ならばもう考える必要などどこにあるというのだろう。

 ……向かう先の無い列車、動き続けるだけの工場、神に従うだけの天使、それが己だ。

 燃え続ける炎の熱で歯車を回し、動き続ける機械仕掛けの天使の模造品。


 

 決まっていた通りに進み、ただ当たり前に武器を振るう。

 楔は砕かれた、己の心と共に。

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