26話 侵攻軍壊滅
「数が多いな、流石にこの数を倒すのは骨ね」
軍勢を相手にしているが正直言って弱い、豊との戦いの方がよほど緊迫感があった。
・・・あれを使うか、出力を下げれば体力の消費は何とかなるだろう。
【ユニークスキル、狂気・狂樂の宴】
くっ、流石に体力が削られるね、これでも前よりは抑えているのだけれど。
正気度を強制的に下げるこの技はダンジョンマスターよりも邪神に近いのだろう。
だがまだ耐えれる・・・体が少し付いて来れないだけだから。
私の周りに現れた大量の魔力が狂気によって具現化した瘴気に怯んで居た周りの兵が気を取り戻したように一斉に切りかかってくる。
・・・邪魔なんだよ、壊れろ。
【ユニークスキル・殺人領域】
辺りに居た全ての相手を切り伏せる、それと同時に遠くから飛んで来た矢が敵の司令官を打ち抜いた。
敵の命令系統が乱れている間に即座に切り込んで司令官に止めを刺す。
・・・逃げるね、このまま逃がしたらまた来るだろうしどうしようかな。
殲滅する事に決める、全滅なら次の侵攻に対する抑止にも兵力の低下にもなるだろうから。
全感覚を総動員して敵の位置を探り少しずつ狩っていく。
・・・何か来た、大型の魔物か?
木々を薙ぎ倒す音が聞こえる事からもかなりの巨体、そして攻撃力がある事が窺える。
そしてその姿が見えた時殲滅は諦めた。
「・・・生物兵器?」
そう思ったのも仕方ないだろう、木々を破壊しながらのっそりと現れたのは体長十メートルはある棍棒を持った巨人だった。
ジャイアントとでも呼ぶべきか、ただ気になるのはこれが帝国から送り込まれた戦力かどうかだ。
もしこれが奴らの兵なら厄介だ、ダンジョンマスター、もしくはモンスターを支配する能力を持って居る事になる。
ただ、ダンジョンマスターがあちらに付くことは無いだろう、貴族が中心の政権でそんな者を受け入れる筈が無い。
ただ野生のジャイアントが来るにはタイミングがいささか良すぎる、誘導されて連れて来た可能性もあるがここはモンスターを支配する能力があると考えておいた方が賢明だろう。
「コロ、残党を倒して来て」
実戦練習の為に連れて来ていたコロにそう命令するとコロはすぐさま逃げる兵たちに回り込む。
兵はコロを見ると剣を抜く、ただのウルフと思って居るのだろうがそれは間違いだ、私が鍛えたのだからこんな奴らに負ける事はあり得ない。
・・・さてこの巨体をどうするか、既に狂気は切ってある、流石にこれ以上使うのは危ないと思う。
激臭などで撃退出来る相手ではないか。
空に貰った木筒の導火線に火を付け、空中に放り投げる。
それはジャイアントの目の前で爆発し、凄まじい光を放つ。
・・・閃光弾だが少し威力が強すぎないか?目を閉じて目を腕で覆ったにも関わらず私もかなり目が痛い。
だけどそれは間違いなく効果があったようでジャイアントは一瞬で気絶してその場に倒れた。
脳が限界を迎えたか、まあまともに食らえば意識ぐらい飛ぶだろう。
近寄って止めを刺すが、丈夫そうだからスキルを使う。
【抜刀術・斬首、公開処刑】
スキルによって補正された一撃は首の骨を切り裂き、一撃にして首を落とした。
流石に硬くて腕は痺れたがこの位なら問題は無いだろう。
一息ついてコロを見るとあらかたの殲滅は終わって居た。
魔物は進化するようだから戦闘に加えるべきだろう。
既に逃げきっている者も居るからこれ以上の深追いは避けて城に戻る。
「流石は貴女ですね、あの怪物を倒すとは」
「私の実力とは違う、空の火薬術が凄いだけ」
空とは彼女に言われて来たダンジョンマスターの名だそうだ。
報告では設備の修復と改造を素早く修復したそうだ。
その上、魔道回路や絡繰りなども一度見ただけで仕組みを理解したというのだから凄い能力だ。
それを彼女に言うとそんな事私には出来ないとあっさり言われた。
「まあだからこそ仲間に引き入れたんだけどね」
そういう彼女もまた凄い、有能な者を味方にする事を当然とするその姿勢は私欲に溺れていてはそうそう出来るものではない。
「所で何故軍務尚書が裏切ると解っていたのですか?」
「見てたからね、帝国軍がこっちに向けて進軍する為の拠点を作っているのを」
その言葉に驚く。
「敵の様子が見えるのですか?」
「私のダンジョンは山の上の方に入り口がありますからね、上からなら見えますよ、視力は必要ですが」
キャンプには爆弾投げ込んで来たから安心して良いと彼女は笑う、そして次の言葉が大変だった。
「あそこにあった敵の物資全部外に出しといたから回収したら?」
敵の物資を奪う事まであの場で考えていたとは。
「それじゃあこいつ拷問して吐かせるから地下牢借りるね」
・・・ちょっと町に晩御飯の材料買いに行く軽さで軍務尚書引きずって行くのはどうかと思う。
「少し待ってください」
物資の回収を命じてその護衛に豊さんが行った所で声を掛ける。
「何?」
「軍務尚書の後任になってくれませんか?」
そう聞くと彼女は苦笑いする。
「そういうのあんまり向いてないんだよね、戦場で戦いながら支持を出すのは大丈夫だけど、全体の指揮は苦手かな」
「ですが貴女は聡明です」
「あんまり買い被られても困るな、私は強いだけ、軍略は貴女の方が上の筈だよ」
そんな事は無いと言おうとしたのを止めて彼女は再び口を開く。
「私は貴女の能力は大体把握してるつもり、だから貴女が軍務尚書を兼任すればいい、攻略目標を示してくれれば私は動けるし、それに必要な事は自分で判断する」
「全面的に協力してくれるのですか?」
その問いに彼女は頷く。
「私はここが気に入りました、同盟など抜きで私はここに協力しますよ」
そう言って彼女は地下牢へと元軍務尚書を引きずって行った。
いくらなんでも彼女一人では動きに制限があるだろう、ダンジョンの者を使うのだろうが、それでは国民が不信感を抱いてしまう可能性がある・・・今は私自身が信頼されているから問題ないのだろうが。
それでも使える者は必要だろう。
そこまで考えて決断する。
・・・彼女にはあの部隊を率いて貰おう、軽罪を犯した強い者が入れられたあの部隊を、あそこは無能には従わないと言ってなかなか動かないが、個の戦力はそれなりに高い。
準備に暫くかかるだろうが仕方ない。
・・・他にも必要な事は山とある、早く終わらせるとしよう。




