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星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
14章 訪れた夜
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263話 笑顔の伝道師3

 団員として取り込まれた無数の死者は、それぞれ手に持った武器を振るい、演者として組み込まれた三人を攻撃する。

 一人一人の実力はそう大したものでは無い、しかし疲れも痛みも無い肉体に、酔拳にも似た奇怪な動きでの攻撃は、真っ当な人間を想定して訓練した者にとっては辛いものだ。そして圧倒的な人数差があるにも限らす、三人が容易く屈する事無く戦えている事には理由があった。


「なるほどな……あくまでも公演、殺戮やないって事か……」

 舞台の周囲には多くの団員が待機しているものの、舞台の上で戦闘を行うのは数体、それも三人で対処可能な程度でしかない。

「分かってくださいましたか! 私は皆で笑える公演がしたいだけなのですよ!」

「悪いが……ブラックジョークじゃ笑えんタチでな」

 うつほが団員の一人を場外に蹴り飛ばし、団長の道化師に右腕のガントレットの爪を振るった。


「おかしいですねぇ……弱者を痛めつける時、人々はとても楽しそうにしていますのに」

 迫る鉄の爪を、一本のナイフと身のこなしだけで軽くいなし、道化師は心底不思議そうに首をかしげる。

「……我々はそこまで落ちぶれてはいません」

 道化師を見る事無く言葉を発したマーガレットは団員に苦戦している、死霊術などで動いている訳では無い団員に浄化の魔術は効果が無く、獲物である刺突剣は痛みも死も無い相手には当たった所で効果が薄い。

「なるほどなるほど、女帝陛下は随分と高潔な御方の様だ……そこのお嬢さんはどうなのですか」

 道化師の視線がセイに向けられた。


 質問が飛ぶと同時に、セイが相手をしていた団員が舞台から下り、彼女は自由になる。

 木気が込められた宝珠を用いて、周囲に影響を与える魔術を扱う彼女は、舞台という完全に道化師の支配下にある空間に植物を生み出す事が出来ず、木気によって生み出した小さな雷撃によってなんとか攻撃を防いでいた。

 そして彼女の声なき言葉は周囲に響く。

『訓練をするのは楽しい、魔術の勉強も好き、でも実際に戦場で戦うのは別に面白くない……結局私が死なない為、ここに居られる事にあの御方の慈悲以外の理由を加える為、今更誰かを殺す事に抵抗は無いけど、そこに愉悦は無い』


 それを聞いて道化師は固まり、全ての団員は舞台から下りた。

「それでは……ここに居る誰一人として、楽しんで下さっていないではありませんか!」

 ……道化師の行動原理はそれだけであった、それ以外の目的などある筈が無かった。


 その時、扉が開いて一人の人影が姿を現す、セイと一緒に保護された少年のエルだ。

「敵襲だ! この国を魔物の群れが囲んでる、数えきれないほどだ!」

 全員が即座に武器を持ち直し、道化師に向き合う……同時に道化師が口を開いた。

「ゲストの皆様方、公演は中止です、どうかあるべき所にお向かい下さい……私も考える事が出来ましたので」

 そう告げた道化師が一礼すると、それまで一方通行であった入り口の扉が大きく開く。


 道化師に止めを刺すかを一瞬だけ考えた三人ではあったが、明らかに緊急性の高いエルの言葉と、無抵抗の相手に攻撃するのを躊躇する程度の善性により、その考えは打ち消され、出口に向かうのであった。

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